第8話 覚醒者学院は天才の巣窟

 学院長室を出た後、俺は先程案内してくれた中村先生が居る職員室に向かう。

 校内は特に目立ったものはないが、濃密な魔力が漂っており、一般人では気分が悪くなりそうなほどだ。

 しかし覚醒者にとってはこの程度なんてことないし、何なら心地良いまでもある。


 ……普通の学校もこんな感じなのだろうか?


 俺が学校に通っていたのは遥か昔の話なので既にどんな感じだったかは忘れてしまったが、流石に此処よりは汚い気がする。

 この学院は廊下でさえ汚れ1つないほどの清潔さで、更には校内全域を何かしらの結界で守られていた。

 恐らくはまだ未熟な覚醒者である生徒達の異能が暴発した時に被害が出ないようにするためだと思われる。


 校舎は7階建てと一般の校舎に比べてだいぶ大きく、そこに1学年300人の6学年、計1800人の生徒が在籍している。

 12歳から入学し、6年間で異能の制御だけでなく、一般教養や巨神獣についての学習、対人戦闘にシュミレーションでの巨神獣との戦闘などがあり、最終学年になると実際の巨神獣と戦うことにまでなるらしい。

 なるほど、最近の上位覚醒者の殆どがこの学院出身の言うのも頷ける。

 これほどまでに手厚いサポートがあればレベルを上げるのも容易だろう。

 

「此処……か? ……失礼します。これから半年間お世話にな———」

 

 この学院の情報を頭の中で整理していると職員室と書かれた部屋を見つけた。

 此処は強化系の異能を持っている覚醒者を教える教員が集まっているらしく、琴葉は魔法系の教員が集まる職員室に居るらしい。

 一先ず俺はドアを開けてみると、老若男女様々な世代の教員が一斉に此方を向き———

 

「———きゃあああああああああああああああああああああホントに神羅様がいらしたわ!!」

「あ、ああ……この学院の教員で良かった……」

「私も……生神羅様を見れたからもう何時死んでもいい」

「ホッホッホッ! これは強すぎる教師が来たものだねぇ……婆さんにはちと気配が強いわい」


 まるで生徒と同じ様なテンションで教員たちが狂喜乱舞していた。

 何なら俺のファンクラブも居るのか、俺に写真を取っていいか許可を取られ、OKをだすと連写されて素早くスマホを操作している。

 恐らくはミアさんか他のファンクラブ会員に送っているのだろうと言うのが容易に想像できてしまうのが少し複雑だ。


「ちょっと皆静かにしてください! それでも生徒に教える立場の人間ですか!? それに神羅先生が困ってるじゃないですか! ……全く……先程ぶりです神羅先生。この度は同僚達が申し訳ありませんでした」


 そう言って頭を下げる中村先生の姿は、俺が思い描く理想の教師だった。

 普通に教師としてだけでなく、人間としても尊敬できる。

 あの秘密主義な学院長よりもよっぽど。


「全然問題ない。それより、今日から半年間だけだがよろしく頼む。至らない時が多々あると思うが、その時は是非指導をお願いしたい。それと敬語は不要だ」

「そう? なら敬語は辞めようかな。此方こそよろしく神羅先生。あっ、そうそう」


 握手をした後、突然中村先生が何かを思い出したかの様に自身の机を漁り出した。

 そして数十秒何かを探した後、俺に10数枚のプリントを渡してくる。


「後10分で授業が始まるから、取り敢えず行きにそれに目を通してくれない?」

「!? もう直ぐに授業なのか?」

「うん。今日は偶々早い時間に始まる日でね。さあ、取り敢えずグラウンドに出よう」


 そう言って職員室を出る中村先生について行きながらプリントを確認する。

 

 どうやら今日は強化系の覚醒者達の中の1番上———SSクラスと呼ばれる特別クラスだけで模擬戦をする日らしく、数十人分の生徒達のステータスが載っていた。

 特別クラスの生徒なだけあり、どの生徒も過去の俺とは比べ物にならない程ステータスが高い。

 俺はペラペラとめくりながら確認していると、知り合いが載っていた。


「有村朱里と佐伯詩織……2人とも特別クラスなのか。あのよく分からない梟に立ち向かっていたのも納得だな」


 あの梟は普通にB級上位程度からA級下位程度の強さだったので、そんな相手にすぐに逃げ出さないだけ優秀なのかもしれない。

 ステータスも普通に高い。


————————————

有村朱里

Lv.30000

体力:45000/45000

魔力:30000/30000

攻撃:A-

防御:B+

敏捷:A-

【異能】

《雷速》

————————————


————————————

佐伯詩織

Lv.32500

体力:65000/65000

魔力:32500/32500

攻撃:A+

防御:A

敏捷:B+

【異能】

《怪力》

———————————— 

 

 ステータスを見る限り、佐伯詩織の方が強いらしい。

 しかし、異能も考慮すると何方が一概に強いとは言えなくなる。

 対人戦に置いては有村朱里に軍配が上がるだろうが、対巨神獣戦となれば佐伯詩織の力が輝いてくるだろう。

 後は巨神獣に出会ってもビビらない強い精神力があれば完璧だろうな。

 まぁ兎に角———


「今後が楽しみだな」


 俺は早めに隠居出来るようになるかもしれないと顔を綻ばせた。






 ———キーンコーンカーンコーン。


 授業開始のチャイムが鳴る。

 俺は現在グラウンドで中村先生の隣に立っているのだが……

 

「ねぇねぇ、アレってもしかして神羅様……?」

「そうなんじゃない? だって魔法系の男子達が『琴葉様が来たっ!』て大騒ぎしてたらしいよ。琴葉様は神羅様の恋人なのは周知の事実でしょ?」


 女子達は主に俺と琴葉の関係についてを話している。

 一方で男子はと言うと……


「おお……あの神羅様が俺達の前に……! 本当に強いのかな!? 俺、沖縄の時の銀色のアレ、見てみたいんだけど!」

「マジそれな! それにSSS級覚醒者がどれほどの強さなのかめちゃくちゃ気になるな!」


 俺の強さや異能についての興味が物凄かった。


 そんなざわざわとした中で始まった授業で、中村先生がパンッと手を叩く。


「はい、静かにしてください。皆さんも気になっているであろうこの方に自己紹介をしてもらいましょう」

「ついこの前SSS級覚醒者になった斉藤神羅だ。敬語は不得意だからこの口調で行かせてもらう、半年間よろしく」

「「「「「「「「「よろしくお願いします神羅先生!!」」」」」」」」


 俺が自己紹介すると、所々から「うわぁ……本物だぁ……」「サインって貰えないかな?」などの声が聞こえてくる。

 

 これが有名人になるという事か……思った以上に恥ずかしいな。


「———はい静かにして! 今日は模擬戦を行います!」


 模擬戦という言葉が出た瞬間、生徒から歓声が上がり、至るところから一緒にやろう的な声が聞こえてくる。

 俺はあまり模擬戦は好きではないが、この頃の年頃の子供は自分の力を同じくらいの実力の者と試したい時期なのかもしれない。

 昔の俺は弱すぎてそもそも戦闘自体殆どやっていなかったのでその気持ちはよく分からないが。


「皆さんは今年でこの学院を去り、覚醒者として巨神獣と戦うことになるでしょう。覚醒者は増えているものの、巨神獣の数も年々増加傾向にあります。更にはEX級巨神獣はその殆どが未だ倒されていません。そのため、未来は君達子供に託されているのです」


 中村先生の言う通り、覚醒者は確かに増えているものの、巨神獣の増加はその比ではなく、さらに言えば15年前に比べて明らかにA級以上の巨神獣の出現率が増えている……と琴葉が言っていた。

 そんな増加傾向になる覚醒者の中でも彼等は間違いなく天才なわけで、確実にA級覚醒者以上の実力者になるだろう。

 しかし同時に彼等は天才で強いが故に格上との戦闘経験が皆無に等しい。

 

 そこで、今回の模擬戦は———


「———SSクラスの生徒全員対神羅先生で模擬戦をしてみましょう!!」

「「「「「「「「「「「「…………え?」」」」」」」」」」」


 俺が生徒達と模擬戦をしないといけないらしい。

 

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