第7話 覚醒者学院に入る理由

「……この前も来たが、何時見ても大きいな」

「私も久しぶりに見たけど相変わらずおっきいねー」


 俺達は眼前に聳え立つ巨大な校舎を見上げてそう溢す。

 多分15年前にはあったのだろうが全く覚えていない。

 それにしても……

 

「本当に琴葉も来てよかったのか?」


 俺は隣りにいて、同じく半年間教員として働くことになった琴葉に目を向ける。

 

 結局あの後、俺はあの話を受けることにした。

 正直言って足元を見られているようで少し不快だったが、琴葉がブルーを酷く気に入っており、尚且クランでの書類作業に比べれば数倍楽ということで琴葉も教員をやると言い出したので、俺も琴葉とずっと一緒に居られるならと思いやることにした。

 まぁその代わりにSSS級覚醒者の権限をちらつかせて雇用条件を色々と変えてもらったが。

 

 元々は一般教員として雇われる予定で、1日に4時間ほどの授業を請け負うと言う条件だったが、最終的には俺達は臨時講師的な立ち位置とし、試験を作ったりせず、基本1日1回授業をすればいいだけ空いた時間で琴葉と自由な時間を過ごせることに変更させた。

 給料が減るとは言われたが、そもそも腐るほど持ってるし、俺は琴葉と一緒に居たいだけなので、別に給料は気にしていない。


 それに基本琴葉は一度クランに出勤したら夜遅くまで帰ってこない……なんてことはザラにあり、逆に早く帰ってくるのが稀なくらいである。

 まぁ副会長と言う立場と、『夜明けの証』は日本最大のクランなのでその分依頼も多いだろうし色々とすることがあるのだろう。

 なので2人でこの話を受ければグッと2人の時間が増えるので、丁度いい。


 まぁ……後1つ理由があるのだが、それは今はいいだろう。

 

「大丈夫だよ。前のお仕置きとして半年間全部姫花にやらせるからね」

「そ、そうか……大丈夫ならいいのだが」


 黒い笑みを浮かべて言う琴葉に若干圧倒されてしまう。

 それと同時に今頃自分の仕事と琴葉の仕事でヒィヒィ言っているであろう橘さんに心の中で合掌しておく。

 

 俺が橘さんを憐れんでいると、


「それに……」

「? それに?」


 琴葉が顔を少し朱色に染めて照れくさそうに笑う。


「———神羅と一緒にいたかったから……」


 可愛い。

 ただシンプルに可愛い過ぎる。

 さっきとのギャップでより可愛く見える。

 もしかしたら琴葉は意外と策士なのかもしれない。

 

 琴葉が何も言わず見惚れている俺から恥ずかしそうに目を逸らすと、クイックイッと俺の服を引っ張る。


「そろそろ行こうよ。待たせて文句言われたら面倒だし」

「……そうだな」


 こうして俺と琴葉は学院へと足を踏み入れた。








「———ようこそおいで下さいました、斉藤神羅様、水野琴葉様! わざわざこの学院まで足を運んでくださり誠にありがとうございます!! 学院長がお待ちですので、ついて来てくださいませんか?」


 学院に入ると、1番にスーツを着た男性が此方にやって来た。

 おそらく言動からも分かる通り俺達を迎えに来たのだと思うが、思ったより礼儀正しい人が来たな。

 この学院の学院長は揚げ足を取ってくる感じの嫌な人だったが。


「貴方は?」

「あ、申し遅れました。私の名前は中村新一なかむらしんいちと申します! この学院では主に強化系の異能持ちの生徒を教えています。神羅様は私と共に強化系の授業をやってくださると聞いているのですが……」

「そうなのか? まだ詳しいことは聞いていないんだ」

「ではこれからということですね。それでは案内いたします」


 俺達は中村先生について行き、校舎の1階部分の学院長室と書かれた場所に辿り着いた。

 代表として中村先生が学院長室のドアをノックする。

 

「斉藤神羅様と水野琴葉様をお呼びしました」

「入ってもらって」

「はい。———では御2人は入ってください。私は授業をしなければいけませんので」

「案内ありがとう」

「いえいえ! 私も有名な御二方と話せてとても嬉しかったです。それではまた後ほど」


 そう言って礼をしたあと、足早に別校舎に消えていく中村先生。

 どうやら相当時間がヤバいようだ。


「さて、俺達も入るか」

「うん」

 

 俺達は少し気を引き締めてドアを開けると———


「———お待ちしておりました。斉藤神羅様とはこうしてお会いするのは初めてですね。一応自己紹介をしておきましょう。私の名前は夢原舞ゆめはらまい。一応SS級覚醒者をやっています」


 まるで俺達が入ってくるタイミングを分かっていたかの様に自己紹介をする身長150にも満たなそうな少女の姿がそこにあった。

 しかし夢原舞と名乗った少女を琴葉が真顔で睨む。

 

「私に副会長を勝手に押し付けていった貴女がこんな所に居るなんて思いませんでしたよ———夢追唯・・・元副会長?」

「久しぶりー琴葉ー。昔よりだいぶ強くなったわねー?」

「お陰様で私は忙しいので。10年前に勝手に辞めた誰かさんのせいで」


 琴葉がこれほど敵意を剥き出しにするのは初めて見たのと、全く会話について行けずポカンとしていると、琴葉が不服そうに言う。


「……彼女は10年前に何の前触れもなく『夜明けの証』を辞めた夢追唯。私が嫌いな人の中でも上位に入るよ」

「酷いわねー? 昔はあんなに懐いてくれていたのに……」

「五月蝿いです。神羅、早く話終わらせて此処から出よう?」


 琴葉が不快そうに学院長を見た後、俺の服を引っ張ってくる。

 どうやら相当この人が嫌いなようだ。


「……分かった。なら琴葉は先に出ててもいいぞ。俺も直ぐに後を追う」

「じゃあ先に出とくね」


 琴葉がそう言って出ていった後。

 

「……で、俺を此処に呼んだ本当の理由は言わないのか?」

「あ、やっぱり気付いていたんですね?」

「当たり前だ。あんなに不思議な気配が漂っていればな……それと俺に敬語は不要だ」

「じゃあ何時も通りの感じで話すねー」


 学院長がぐでぇーっと子供の様に椅子にもたれ掛かる。

 子供らしい姿も相まって、完全に子供が疲れた時にする行動である。


 非常に緊張感を損なったが、気を取り直して聞いてみることにしよう。


「……それで、俺を呼んだ本当の理由を教えてくれ」

「んん〜取り敢えずこれ見てくれないー?」


 そう言って1枚の紙を俺に渡して来た。

 受け取り、目を通してみる。



—————————————

◯大橋光輝

年齢・18歳。身長・173。体重・74。

覚醒者学院3年5組、出席番号11番。

元東京出身、親はどちらも巨神獣に目の前で殺された。

特出した才能はなく、筆記と類稀なる格闘センスで学院に入学するも、ステータス・異能共に学院最下位(不明な異能あり)

最近は有村朱里、佐伯詩織と共に行動している。

ふと気付けば教師でも見失ってしまう。

その他に怪しい点は無し。


Lv.104

体力:208/208

魔力:104/104

攻撃:E

防御:E

敏捷:E

【異能】

《身体強化》《???》

————————————


 やはりか……としか言うことがない。

 琴葉も気になっていたが、彼は出会った当初から相当な強者の気配を漂わせていた。

 しかもその力を意図的に隠している節が見えているので、明らかに怪しい。

 確かに気配は殆ど変わらないが、竜が彼の手の中にいるときだけふるふると震えていたのを覚えている。

 恐らく調教的な何かしらをさせられたのかもしれない。


「…………」

「どうよーよく調べてあるでしょ〜?」


 確かにまぁまぁよく調べてあると思う。

 だが……これだけでは確証となり得ない。

 

「だから俺に調べて来いと?」

「せいかーい! その通り〜! 彼が何者なのか……それを突き止めて貰いたく此方に来て貰ったわー」

「なぜ俺なんだ?」

「私の目って特殊なの。相手のある程度の強さが見えるのよねー。因みに神羅くんはぶっちぎりー。他のが足元にも及ばないレベル。だから安全かなって」

「……分かった。どのみちこの話は既に受けてるから文句は言わない。その代わり、約束は守れよ」

「勿論♪」


 こうして俺の学院生活が始まった。


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