エピローグ 幾億年越しの……

 沖縄での出来事から3日が経った。

 

 あの後、救援が到着して負傷した『夜明けの証』のクランメンバーを急いで応急処置を施して病院へと送っていき、それには琴葉も乗ることとなったのだが……


「私は神羅に連れてって貰うから大丈夫」

「は、はぁ……? まぁ本人がそう言うのであれば特に問題は有りませんが……本州までは道ありませんよ?」

「大丈夫だ。俺が一応飛べるには飛べるからな」


 と言う会話を救援に来た夕薙さんとして、結局琴葉をお姫様抱っこしながら俺が飛行機について行く形になった。

 まぁその時の救援陣と『夜明けの証』の意識のあった者達はめちゃくちゃ驚いていたが。


 そして今、俺は琴葉が入院している病院へと足を運んでいた。

 琴葉は比較的軽傷だったのと、最先端の病院だったこともあり今日で退院が出来るらしい。


 俺は一直線に琴葉の病室に向かい扉を開ける。

 中には窓に手を合わせて外の景色を眺めている琴葉がいた。


「———琴葉?」

「あっ、神羅……おはよう」


 俺に気付いた琴葉が笑みを浮かべて抱きついて来たので、優しく抱き止める。


「おはよう。もう退院の準備は出来ているのか?」

「勿論っ。今日はいよいよ神羅を私の家族と会わせるんだからねっ! ちゃんと付き合い始めたことも報告しないと」

「……そうだな。不思議な感じだけどな」


 そう———俺達は遂に付き合い始めた。

 

 琴葉を乗せて病院に向かっている時に、俺が勇気を出して告白したのだ。

 まぁほぼ勝ち確の告白だったが、OKをもらった時は言葉で言い表せないほど嬉しくて、思わず強く抱きしめて「苦しいよ……」と言われたりしてしまったが。

 

 そしてこの度第2の両親と言っても過言ではない琴葉の両親にこの事を報告するために訪れることとなっている。

 住んでいる所を俺は知らないので、琴葉に案内して貰いながら歩いて行く予定だ。


「———よし、これで準備OK。それじゃあ行こう、神羅」

「そうだな」


 俺達は自然に手を繋ぎ、指を絡める。


「やっぱり少し恥ずかしいね……でも、とっても幸せ」


 そう言って少し頬を赤く染めながらも、にへらと顔を綻ばせる琴葉はやはりとても可愛く、自然と俺も笑顔になる力があった。


「ああ、そうだな……俺も幸せだ」


 俺達はそう笑いあった後、病院を出ようとしたのだが……琴葉の同僚達に出くわしてしまった。

 腰まで届きそうな長い黒髪に綺麗な黒目の病衣を身に纏った美少女(勿論琴葉には遠く及ばない)が、怒り……と言うよりは嫉妬に顔を染めて今にも飛びかかってきそうだが、そんな彼女をショタ系の顔に少し不釣り合いな高身長のイケメンが必死に止めている。

 その後ろには車椅子に乗った優しげな顔つきの男の人———『夜明けの証』の会長が苦笑いを浮かべていた。


「あの男は誰なのですか!? この私が琴葉様をお救いして差し上げます!」

「何馬鹿なことを言ってるんだよ! どう考えてもあの姿見たら悪役は寧ろ姫花だよ!」

「くっ……優は黙っていなさい!」

「黙るのはアンタだよバカっ!」


 姫花と呼ばれた女性は悔しげに顔を歪め無理に此方に向かってこようとしている。

 そんな彼女を優と呼ばれたイケメンが必死に止めるが、どうやら姫花さんの方が力が強いらしく、ズルズルと引き摺られながら近づいてきた。

 

「あ、貴方はどなたですか!? 琴葉様とは一体どんな関係ですかっ!?」

「姫花……?」

「ひっ! で、ですが、幾ら琴葉様であろうと彼のことを聞かなければ……」


 琴葉が瞳のハイライトを消して抑揚のない声で名前を呼ぶと、姫花さんが軽く悲鳴を上げるが意外としぶとい。


「ひ———」

「いいよ琴葉。どうせ沢山の人が気になっているみたいだしな」


 更に何かを言おうとした琴葉を止め、あたりに視線を巡らせると、病室から顔を出した患者や、チラチラと此方を見ている看護師に医師の姿があちこちに見受けられる。


 これほどまでに注目されるほど琴葉が人気だと言うことだろう。

 なら、此処で1発琴葉は誰にも渡さないと宣言しないとな。


「姫花さん、だったか? 俺達の関係が気になるのか?」

「そ、そうです。そ、それで貴方は一体———なああああ!?」


 今度は俺が琴葉の背に手を回し、抱き寄せて唇を重ねる。

 琴葉は突然のことで目を見開いていたが、すぐに目を閉じて俺の首に腕を回す。


 その瞬間に辺りが一気にザワザワと五月蝿くなり、所々から冷やかしの様な「ヒューヒュー」と言った声が耳に入って来た。

 近くから「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」という悲痛な叫び声も聞こえるが、まぁ……聞こえないフリをしておこう。


 俺はゆっくり唇を離すと、これ見よがしに繋いだ手を見せつける。 



「俺は斎藤神羅。琴葉の幼馴染で———恋人だ」



 その宣言で更なる喧騒が起こる病院の中、琴葉をお姫様抱っこして、窓から空へと飛び立った。







「———此処だよ、神羅」

「……予想はしてたが、めちゃくちゃいい家に住んでるんだな」

「まぁ沢山稼いでるからね」


 俺は一軒の豪邸の玄関前に着地し、琴葉を降ろす。

 琴葉俺から降りると、インターホンを鳴らし、「私だよ。神羅連れて来たから開けて」と言っていた。


 すると直ぐに玄関の扉が開き———微かに記憶に残っているが、俺の記憶の中よりも大分老けた琴葉の両親が姿を現す。


「「———神羅(君)!!」」

「久しぶり、お義父さんお義母さん」


 2人は涙を流しながらそれなりの勢いで俺に抱きついて来たが、持ち前のステータスでよろけることなくしっかりと受け止める。

 近くで見ると、やはり2人は大分老けていて本当に15年経ったんだなと感じた。


「神羅君、何処に行ってたの……? 皆心配してたのよ……」

「そうだぞ神羅ッ! 俺達にとっては息子同然なんだからな!」

「そう言ってくれると嬉しい。ちゃんといなくなった理由も話すから」

「琴葉は理由は聞いたの?」


 お義母さんが琴葉の方を見ながら訊く。

 

「それがね、お母さん。神羅が3人が集まるまで言わないって強情だったのよ」

「まあ! なら早く訊かないと! ねっ、お父さん」

「そうだな。まぁ安心しろ神羅。神羅がどう言う理由で居なくなっていたにしても、俺達の義息子には変わらないからな!」

「そうね。それにどうせ2人とも付き合ってるんでしょう? それも一緒に聞かないとね? ———さぁ、早く上がりなさい」


 そう言って笑顔を浮かべるお義父さんとお義母さんの姿を少し呆気に取られて眺めていると、琴葉が俺の手を取り、「ふふっ」と笑う。


「ほら、早く帰ろ? 私も早く聞きたいもん。———おかえり、神羅」


 その言葉を聞いた瞬間、突然視界がボヤけて来た。

 何かと思い目元を拭ってみると……濡れており、自分が泣いていることに気付く。


 ……ははっ、俺ってこんなに涙脆かったっけ……?

 まぁ……今はいいか。


 俺は不思議なほど安心して暖かい気持ちに包まれながら、幾億年越しの言葉を口に出した。



「………ああ———ただいま」


 

—————————————————————————

 これにて第1章完結です。

 第1章は神羅の帰還と恋焦がれていた琴葉との再会がメインの章でした。

 次回幕間として、荒れに荒れた掲示板の話を挟んだ後、第2章に突入です。


 此処まで読んでくださった読者様方に感謝!!



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