第22話 幾億の時を経た覚醒者の実力の片鱗
遅れてすみません。
————————————————————————
「神羅……しんらぁ……!」
「……琴葉、ただいま。ずっと、会いたかった」
俺は泣いている琴葉に申し訳なく思いながらも、幾億もの間、どれだけ手を伸ばしても届かなかった琴葉が今、胸の中にいることが何より嬉しかった。
それと同時にずっと心に留めていた感情が一気に溢れ出し、気付けば嗚咽を漏らす琴葉をぎゅっと強く抱き締めてした。
「……毎回遅くてごめん。もう、何処にも行かないから……」
「……ほんと……?」
未だ涙を瞳から溢れさせ全身を細かく震わせている琴葉が、俺の胸から顔を出し、上目遣いで訊いてきた。
そんな何処か昔の頃に戻った様な琴葉に、俺は強く頷く。
「俺は、もう2度と琴葉から離れない」
「……約束だからね。破ったら許さないんだから……」
「ああ……勿論だ」
「……なら許してあげる。でも、後で必ず全部聞かせてもらうからね?」
琴葉は1度俺にぎゅっと抱き着いて離れた時には涙を堪えながらも———記憶にあるどんな物より美しい笑みを浮かべていた。
俺は再び抱き締めたい衝動に駆られるも、何とか抑えて目の前に居る2匹の巨神獣に目を向ける。
「お前らが琴葉を殺そうとしたのか?」
「「グルルルルルルル……」」
成程、確かにこの巨神獣達はあの無機質な空間の中でも上位の力を放っている。
琴葉達がやられてしまうのも納得だ。
それに本来此処は奴らの縄張りであり、琴葉達が侵略者であるのは分かっているし、奴らも侵略者を排除するために戦っているのも重々承知している。
仮にこの場にいるのが他の人なら、しょうがないと見逃していただろう。
しかし———琴葉に手を出したのであれば、到底許すことは出来ない。
「琴葉」
「……なぁに?」
「琴葉にはすまないが、一先ず俺がアイツらの相手をしているから、負傷者達と安全な場所まで移動しててくれ。その内腕の良い回復系の異能を持った覚醒者が来るはずだから」
「……私も戦ったらダメ?」
琴葉が不安そうに俺の服の袖をきゅっと掴んで来た。
その姿はとても可愛らしかったが、俺は袖を掴んでいる琴葉の手を優しく放す。
「……すまないが、それはダメだ。でも———大丈夫。俺を信じろ」
「……分かった。信じてる」
琴葉はそれだけ言うと、ゆっくりと他の負傷者の下へと歩き出した。
俺はそれを確認すると、巨神獣達に視線を移す。
巨神獣達は突然の乱入者である俺にブレスを易々と防がれたことで警戒しており、先には攻撃をせず、俺が動くのを待っている。
なら、お望み通り先に動いてやろう。
俺は軽く地面を蹴り、瞬きの間に2体の下へ移動すると、拳にグッと力を入れる。
少し遅れて俺に気付いた巨神獣が急いでブレスを吐こうとするが、
「———させないぞ」
「グルァッッ!?」
ブレスを吐こうとした片方の巨神獣———『リヴァイアサン』とか言ってたか?———の下顎に一先ず地形を破壊しない程度の力でアッパーを入れて強制的にブレスを止める。
巨神獣は突然受けた衝撃に身体を大きく後ろに仰け反らせた。
しかしその間にももう1体の『リヴァイアサン』が俺に向けてブレスを吐いてくる。
「ガァアアアア———ッッ!!」
先程の琴葉に向けた物より遥かに威力の高いブレスが俺に迫るが、俺は琴葉の下へ飛んで行かない様に細心の注意を払って遥か上空へと弾き飛ばす。
すると直角に上に上がったブレスが『パァァァン!!』と言う爆発音と共に雲が一瞬消えて青空が顔を覗かせるも、直ぐに再び雲が空を覆った。
「ガァァァァァァ……」
先程よりも強力に放ったはずの自身のブレスを弾き飛ばされた『リヴァイアサン』達は、どうやら俺に攻撃するのは下策だと考えたらしい。
突然俺の周りを海水が囲み、俺の身体を水が触手の様に巻き付い拘束してくると共に、琴葉達に向かってブレスを放とうとする『リヴァイアサン』の姿を捉えた俺は、前回の『オオアナコンダ』戦と同じ様に雄叫びを上げる。
「琴葉には手を出すなと言っているだろ」
俺は一瞬にして水の拘束を解くと、2体諸共蹴り飛ばしてその巨体を空中に浮かせるほど吹き飛ばす。
「琴葉は———チッ」
琴葉に視線を移すと、そこには数十体の大小様々な巨神獣の姿があり、今にも琴葉を襲わんと牙を剥き出しにしていた。
それを確認した俺は即座に空を蹴って琴葉の下に疾駆する。
「琴葉っ! ———お前ら邪魔だ、退け」
俺は琴葉を庇う様に着地すると、拳を振るって巨神獣達を跡形もなく吹き飛ばす。
その余波で更に数体の巨神獣が吹き飛び、覚醒者が居る所まで続く道が出来た。
俺は先に琴葉達を逃すことに決め、琴葉をお姫様抱っこしようとするが、琴葉自身に止められる。
「琴葉?」
「私はいいから、先に皆を避難させて」
「俺にとっては琴葉の安全が1番だ」
「お願い。私は神羅が護ってくれるんでしょ?」
「それはそうだが———っ。もう復帰したか。少し我慢してくれ」
「きゃっ!?」
俺は一先ず琴葉を片手で抱き抱えると、もう片方で他の3人を持ち、『リヴァイアサン』が放ってきたブレスを回避する。
ブレスは地面を抉りながら反対側の海岸へと抜けていった。
俺が抉れた地面に着地すると、琴葉が不安そうに言った。
「……やっぱり先に会長たちを避難させて。私は少し魔力が回復してきたし大丈夫だから」
「いや———その必要はない」
「? それはどういう———」
俺は異能を発動させた。
「———《矛盾の魔力》———」
———瞬間、俺の身体から膨大な白銀の魔力が噴き荒れる。
白銀の魔力は俺達を優しく包み込み、迫り来るブレスや海水、他の巨神獣達を触れると同時に消滅させていく。
その光景に琴葉が目を見開いて驚いていた。
「し、神羅、何なのこれ……魔力?」
「どうだ琴葉? これなら大丈夫だろ?」
俺が悪戯っぽく笑うと、琴葉も『ぷっ』と吹き出して笑う。
「ふふっ……そうだね。……神羅———」
「ん?」
琴葉が先程とは違い、慈愛を含んだ笑みを浮かべて、背伸びをしながら俺の頭を撫でる。
「———強くなったね」
「———やっと頼りになる男になったろ?」
その間にも魔力は沖縄を覆っていく。
更に俺の身体が1度濃密な白銀の魔力の繭に包まれるが、やがてボロボロと崩れていき、髪と瞳だけでなく、まつ毛や眉毛も白銀に染まり、身体の周りを濃密な白銀の魔力が渦巻いていた。
———《矛盾の魔力》。
俺の異能の1つで、その名前の通りその魔力は全てを護る盾にも、全てを切り裂き、破壊する剣にもなる。
しかし操作が難しく、下手すれば全てを消滅させてしまうほど恐ろしい物だが、数億年の修行で完全に制御できる様になっている。
突然姿が変わった俺に少し驚いていた琴葉だったが、直ぐに、輝かんばかりの笑みを浮かべて抱きついてきて、
「———神羅はずっと頼りになる、私の
不意に俺の唇にその美しくふっくらとした唇を重ねてきた。
その瞬間、神々しく輝く白銀の魔力が俺達を包み込み、『リヴァイアサン』や沖縄に生息する巨神獣を、空を覆う灰鼠色の分厚い雲をも全てを呑み込んではらはらと花びらが散る様に消えていく。
全てが終わった沖縄を太陽の優しい光が照らしていた。
—————————————————————————
次回、第1章完結。
マジでフォローと☆☆☆宜しくお願いします。モチベ維持に繋がるので!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます