第20話 SSS級海竜型巨神獣『リヴァイアサン』(三人称)

 ———神羅がやらかす少し前。


 琴葉達精鋭チームは、海竜型巨神獣を探して海岸までやって来ていた。

 しかし海岸には目的の巨神獣はおらず、琴葉達によって狩られたS級以下の巨神獣の死体以外のみが山のように積み重なっている。

 そんな死体を、直也が異能で海へと沈めていた。


「……本当にこれで来るんでしょうか?」

「長く眠っていたからきっとお腹が空いているはずなんだけど……まぁ無理だったら別の方法で誘き寄せよう」


 直也は朗らかに言ってみせる。

 その姿からは緊張など微塵も感じさせず、それが他のメンバーの余計な緊張を削ぐ。

 ただ1人を除いては。


「…………」

「どうしたのですか、琴葉様?」


 姫花は何故か険しい顔でダンマリしている琴葉に疑問を抱く。

 しかし琴葉はまるで姫花の声が聞こえていないかのようにひたすらに同じ場所を眺めていた。

 

(……おかしい。何故反応しているのに食べに来ないの? この海域ではアナタが頂点のはず)


 実のところ、琴葉は既に目的の巨神獣を見つけていたのだ。

 だが、直也の沈める巨神獣エサに興味を示しながらも何故か警戒して動きを見せない巨神獣に困惑していた。

 

 本来一体を支配するボスは縄張りの中では微塵も警戒などせず、寧ろ普通なら罠に見えるものでも食いついたりする。

 それはどの生物にも言え、人間も自宅なら落ち着いて素の状態で居ることが多いだろう。

 

 だからこそ琴葉はこの異様な警戒心に違和感を持っているのだ。

 

「うーん……思った以上に釣れないな。やっぱり無理やり引きずり出した方が———」

「会長、来ます」


 琴葉の言葉とほぼ同時に、海から体長数キロメートルを超える巨神獣が現れた。

 身体は蛇のように細長いが、口元あたりから長さ数百メートルもありそうなひげが生えており、他にも竜を象徴するような巨大な翼も生えている。

 更に全身はスカイブルーに輝く鱗に覆われ、所々にヒレのような突起が背中に生えていた。


 そんな空想上の生き物の様な姿をした海竜型巨神獣———『リヴァイアサン』は、SSS級に相応しい威圧感を醸し出して周りを牽制しながら琴葉達を無視して食事をしている。


「……これがSSS級巨神獣……僕なんて一瞬で潰されそうなんですけど……」

「なら帰ればよろしいのでは? その代わり私の方が今後琴葉様に頼られるようになると思いますが」

「―― ―頑張りますよ僕! なので琴葉ちゃん、この琴葉ちゃんを束縛しようとする変質者には頼らないでくださいね!!」

「……喧嘩を売られたのでしょうか? いいでしょう、ボコボコにして差し上げます」

「喧嘩しないで。今は遊んでいる時間じゃない」

「「うっ……申し訳ありませんでした……」」


 優が早速『リヴァイアサン』にビビっていると、姫花が此処ぞとばかりに煽りまくり、それを煽りで返していがみ合っていると、琴葉の冷たい声と冷めた眼差しで2人は一瞬の内に静かになる。

 そんな姿を苦笑いで見ていた直也が一度咳払いをして話し始めた。


「まず僕が異能で『リヴァイアサン』に初撃を与えるから、その間に優は皆にバフ掛けて」

「分かりました!!」

「次に姫花は『リヴァイアサン』の目を狙って攻撃」

「承知致しました」

「そして琴葉は空中で異能を発動させながら待機。難しいと思うけど、状況に応じて攻撃してくれ」

「はい」

「———それじゃあ始めよう。《念力》《物質変換》」


 直也の言葉と共に生えていた数十メートルの木が何本も空へと浮き上がり、その全てが一瞬にしてキラキラとしたダイヤモンドに変換された。

 それを直也は器用に操作しながら加速させ、最終的には音速並みの速度で『リヴァイアサン』に向かって一直線に飛んでいく。


 ———グサッグサッッ!!


「グラァァァアアアアアア!?」


 全てのダイヤの木が『リヴァイアサン』に命中すると、幾つかは鱗に塞がれるも、一度傷ついた鱗を貫通して突き刺さり、『リヴァイアサン』が悲鳴の様な咆哮上げる。

 すると空に咆哮に呼応する様に雲が現れ、急に土砂降りの雨が降って来て、果てには雷まで落ちてくる始末。


「ちょっとこれは予想外……っ!」

「大丈夫です。雨程度で私の刃は鈍りませんので」


 そう言って姫花は一度のジャンプで『リヴァイアサン』の顔付近まで近付くと、いつもの狂信者の鳴りを潜め、瞳を閉じると視認できない速度で抜刀。


「———《抜刀術・斬空》」


 キラッと一度だけ横一文字に何かが輝いたかと思うと、チンッと言う刀が鞘に収まる音と共に『リヴァイアサン』の2つの目と眉間から大量の血が噴き出て来た。


「グァァアアアアアアア!!」

「まぁこんな物です。私に切れない物など存在しな———キャッ!?」


 決め台詞的な事を言っていた姫花に、『リヴァイアサン』の尾が直撃。

 ギリギリ刀でガードしたものの、空中だったこともあり、あっさりと吹き飛ばされる。

 しかし地面に直撃する前に直也がギリギリ《念力》で止めた。


「ふぅ……危機一髪だったね」

「あ、ありがとうございます会長」


 姫花は決め台詞の途中でやられたことが恥ずかしかったのか、真っ赤な顔を刀で隠している。

 そんな珍しい姿に皆が和む中、1人、この天候で絶対的に有利な者がいた。


「わざわざ雨を降らしてくれるなんて……そんなに殺してほしいの? なら殺してあげる———《絶対零度》」


 水を操ることに長けた琴葉である。

 

 琴葉は一帯に降る全ての雨粒を全て凍らせて、『リヴァイアサン』へと機関銃の如く撃ちまくる。


 ズドドドドドドドドドドッッ!!


 何百万、何千万もの雨粒が『リヴァイアサン』の鱗を破壊せんと突撃し、少しずつ鱗の耐久力を減らしていく。

 そしてそんな琴葉を手助けする様に直也が異能———《物質変換》を発動。


 氷の粒が直也の異能の効果範囲内に入ると、全てダイヤに変わっていた。

 もはや機関銃よりも速度も破壊力も強力になったダイヤの雨が、無情にも『リヴァイアサン』の鱗を一気に破壊して身を抉る。


「グァァアアアア———ガァアアアアアア!!」


 しかしSSS級はタダでやられる程弱く無い。

 即座に全身を海水で覆い、ダイヤの雨の速度を低下させる。

 更には口から高濃度の魔力が篭ったレーザーの様なブレスを吐き出して琴葉達を強襲。


 しかし———


「《物質変換》」


 直也の異能により、ブレスが水素と魔力に変換されて霧散する。

 しかしブレスを防いだ張本人は肩で息をしていた。


「いやぁSSS級の攻撃変換するの死ぬほど疲れるなぁ……」

「さすが会長! 僕も頑張りますよ! 《疲労耐性向上》《身体能力向上》《異能力規模向上》」


 その瞬間に全員の体が光り、姫花は動きがより速くより鋭くなり、直也と琴葉の規模が広がり更に攻撃速度が上がる。

 

「悔しいですが腕だけは良いですね」

「腕だけじゃ無いわい! もっと良いところが……って危ない!」

「それくらい見えてますよ! ———《刀術・水流》」


 姫花は背後から襲いかかって来た巨大な尾を流れる水の様に受け流してダメージを無くすと、そのまま尾に飛び乗って———


「———《刀術・回転斬り》」


 常人離れした動きで回転しながら前に進む。

 『リヴァイアサン』は即座に振り落とそうと海水を操作してぶつけようとするが、


「「させないよ(させません)!」」


 琴葉と直也が姫花を護るように異能を発動させる。

 2人の援護により、琴葉は再び『リヴァイアサン』の顔付近まで辿り着いた。


「ありがとうございます琴葉様、会長!! これで倒せます! はぁああああああ———《刀術・斬く———「逃げて!!」———ッッ!?」


 姫花が異能を発動させようとした直後、琴葉が叫び、その数瞬後に突然海から2体目の『リヴァイアサン』が現れ、姫花目掛けて口を大きく開きながら飲み込まんと迫る。

 姫花は咄嗟に異能を発動。


「———《刀術・天歩》ッッ!!」


 ギリギリ姫花の異能の発動の方が速く、姫花が空を駆けて避けたお陰で、牙が太腿を軽く切り裂いたくらいで飲み込まれることはなかったが、完全に倒すタイミングを逃してしまった。

 着地した姫花が、震える足で立ち上がり刀を構える。


「……ど、どう言うことですか……? SSS級巨神獣が2体……?」

「……僕もこれは流石に予想外だけど……あり得ない事でもないよね……」


 直也は狼狽しながらも、何処か納得していた。

 最近頻繁に『リヴァイアサン』の目撃情報が出ていたが、それは沖縄付近と本州の付近の2つの地点でのことだった。

 始めはお腹を空かせた『リヴァイアサン』が移動していたのだと思っていたが、どうやら2体いて、片方が沖縄の自身の縄張りを。

 もう片方が餌を取りに外に出ていたのかもしれない。


 それに生物は生きるためには子供を作らなければいけないわけで、それは巨神獣も同じ事。

 つまり、今現れた『リヴァイアサン』は先程まで戦っていた『リヴァイアサン』の恋人か夫婦と言うわけである。


 直也は険しい顔で2体の『リヴァイアサン』を睨んでいると、姫花を心配した琴葉と優が2人の下に駆け付ける。


「大丈夫? 怪我はない?」 

「大丈夫ですか!? 僕が今から治しますからね! 《再生》」


 優の掌から温かい光が溢れ出し、姫花の怪我した太ももへと移ると、見る見る内に傷が逆再生するかの如く治っていった。


「あ、ありがとうございます優」

「そりゃ仲間だから治さないといかないですし、別にお礼を言われるほどではありません!」

「言い争いは後にして! 皆、兎に角片方を倒すことに専念しよう! もう片方は僕が何とか押さえておくから!」

「「「了解!!」」」


 皆が各々戦闘態勢に入り、2体の『リヴァイアサン』もそれに呼応するかの如く大量の海水と雨雲を操り、ブレスを溜め始めた。


 ———こうして戦いは佳境を迎える。


 

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