第19話 依頼で北海道へ
遂に主人公やらかす。
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「……寒いな」
「まぁ神羅はバトルスーツだけだもんな。俺の予備の防寒具貸してやろうか?」
「助かる」
俺は綾人さんからジャンパーを借りると、速攻で羽織る。
現在俺と要塞メンバーは、A級依頼である『雪狐』と呼ばれる巨神獣を討伐しに、猛吹雪に見舞われた北海道へとやって来ていた。
依頼主が言うにはどうやら数年前に現れた『雪狐』の群れのせいで北海道の気温は常時マイナス3、40度くらいまで下がっているらしく、人を呼び戻すために間引いてほしいとの事。
全部殺すと夏が暑くなるので、3分の1くらいまで減らしてほしいらしい。
そもそも『雪狐』とは、巨神獣としては珍しく百匹ほどの群れを作って寒い所に住み、その土地の温度をどんどん下げてしまう少し迷惑な奴なんだとか。
体長100メートル前後の巨体は全身白い毛皮に覆われており、基本は魚型の巨神獣や爬虫類型の巨神獣を主食としているため、人間は襲わない温厚な種らしい。
それと、子供の見た目は可愛いらしいので、討伐するのは気が引ける。
「……それにしてもどうして神羅君は手ぶらできたんだい?」
「此処までとは予想外だったんだ」
目的地に向けて歩きながら、寒がる俺を見て困ったように頬を掻きながら洋介さんが訊いてくるが、まさか俺のステータスなら大丈夫だろ、とか適当なことを思って高を括っていたなんて言えるわけがない。
でもあの空間では気温は何処に行っても常に一定だったし、基本氷系の力も効かなかったから大丈夫だと思ったんだ。
「おっ、見えてきたよ☆ 相変わらずかわいー……くない!?」
「あ、あれ? 『雪狐』ってあんなに気持ち悪かったっけ?」
「いや……本来『雪狐』はあんな姿ではないはずだが……」
「わ、私も初めてみました……」
心さんが目を見開いてショックを受けており、綾人さん達も自身の記憶にある姿と違うせいか首を傾げていた。
だが、確かに俺達の目の前にいる『雪狐』は全くと言っていいほど可愛くないどころか、全身から不自然に骨が突き出ており、体毛も灰色から黒っぽい見た目へと変貌していた。
更に写真で見た愛くるしい顔の面影は一欠片もなく、牙が口から飛び出て、目は充血して真っ赤になっているので、もはやホラーに出て来そうな化け物である。
「グォッ€3$°¥#%$¥#3¥#$#ッッ!!」
「ぐっ……」
「何なんだよこの不協和音っ!? 本当はめちゃくちゃ綺麗な鳴き声なのに!!」
『雪狐』が突然生き物の鳴き声とは思えないノイズの様な不協和音を響かせ、俺達はあまりの不快感に思わず武器から手を離して耳を塞ぐ。
綾人さんが言うには本来はもっと綺麗な音色らしいが、そんなこと今はどうでも良い。
ただ単純に数億年生きた俺ですら耐えるのが苦痛に感じるほど不快で気色悪く、全身が勝手にゾワゾワと身震いをしていた。
「五月蝿い……っ!」
遠吠えの如くずっと鳴き続ける『雪狐』に俺はとうとう耐えきれなくなり、一瞬だけ耳から手を離すと、
そう———
「マズイ……ッ!」
———。
——————パァァァァンッッ!!
完全に物理法則を無視して放たれた光速にも届きうる拳圧が、『雪狐』を音もなく消し飛ばし、周りの雪や木々、果てには山も全て一緒に跡形も無く消滅させて、雪雲を吹き飛ばしながら遙か彼方へと飛んでいく。
終わった後には前方見回す限りに抉られた痕跡が広がっていた。
そんな恐ろしい光景に完全に動きを止めているのは勿論俺だけでは無い。
「……し、神羅君……?」
「これはヤバいって……」
「あわわわわ……っ!」
「す、すごっ……流石神羅君☆」
要塞メンバー達全員(心さんを除いて)が、目の前の殺風景な光景を見て、もう何と言って良いか分からないとばかりに狼狽していた。
しかし———
「……ふぅ……」
それは俺も同じで、心の中で過去一で焦りまくっていた。
完全に力加減ミスった……不協和音のせいで完全に力加減ミスった。
そう言えば昔……3億年前くらい前にも同じ様な方法で攻撃されて思わず異能使ってぶっ殺した記憶があるな。
もしかしたら俺は音系の攻撃が苦手なのかもしれない。
「お、おい神羅っ大丈夫か!? お前、表情は全然変わっていないのに顔真っ青だぞ!?」
綾人さんが俺の顔を見て驚いた様に声を上げるが、それは自分でも自覚している。
さっきから必死に現実逃避を行っているがあまり効果はなく、おそらく今の俺の顔は血の気が引いて真っ青になりながらだらだらと冷や汗を流しているであろうことが手に取る様に分かってしまう。
「あ、あ、あ、あのっ! こ、これはどうすれば……」
「「「「…………」」」」
目の前の悲惨な光景に誰もが———やっと事態の深刻さに気付いた心さんも———口を開くことが出来ない。
依頼はおそらく達成しているだろうが、その前にもはや人間が住める様な場所では無くなってしまった。
沈黙が続く中、突然心さんが『あっ』となにかを思いついたかの様に声を上げる。
「み、ミアなら何とかしてくれるかも……!」
「み、ミア? 誰なんだその人?」
「し、神羅さんのファンクラブ創立者ですっ」
「そうなのか!? なら神羅も会っているのか!?」
「まぁ……一度だけ」
「なぁ神羅、ミアさんって美人?」
「琴葉には敵わないがそこらではお目にかかれない程の美人ではある」
「お、おおおおお!! なら是非会ってみたい!!」
美人はあくまで性格を除いて、と言う言葉が付くが。
と言うかこんな時にまで女性に興味を持てる綾人さんのメンタル強いな。
そんな強メンタルな綾人さんとは正反対に、心さんはガタガタと震える手でスマホを持つと、ミアさんに電話を掛け始める。
しんと静まり返る空間の中で、何度かの着信音が鳴った後に掛かった。
『もしもし心? どうし———』
「た、助けてミアえもおおおおおおん!!」
『五月蝿っ!? ど、どうしたの心? そんなに震えた声なんて久しぶりに聞いたんだけど……』
「じ、実は……」
心さんがこうなった経緯と結果を話す。
「———と言う事で、ミアが何とかできないかなぁって思ったんだけど……」
『…………』
「や、やっぱり難しいよね。ごめ———」
『きゃあああああああああああああああああああああ!! さすが神羅様!! たった一度の拳圧だけで天変地異を起こすその力! まさに神の御技ですっ! 勿論知っていましたが、今まで手加減していたのですね!! ところで神羅様は今おられますか!?』
「いるぞ」
『し、しんらしゃまのおこえがわらひのお耳に———買いますッッ!! 今すぐに神羅様がお造りになられた聖域は我ら『神羅様♡を狂信する会』が買い取ります!!』
「……尻拭いをさせて申し訳ないな」
『何をおっしゃいますやら! これは尻拭いではありません! 本来この世界は神羅様のモノですので、取り返すだけです。 丁度何処か適当な所にファンクラブだけの街を作りたいと思っていたので……どうですか神羅様!?」
突然飛躍した話についていかれてない俺は答えに詰まる。
しかし彼女には俺のミスの尻拭いをさせてしまうわけであり、ここで否定はしていないと俺の本能が告げているのだ。
「……許可が取れるなら構わない」
『ありがとうございます! もう既に買い取りましたし、許可も出てます! ちゃんと私のポケットマネーで造るので、是非楽しみにしていてください!! それでは私はこれで失礼します!! あ、最後に1つ……神羅様のお声、大変かっこよかったでs』
「もう分かったから! 切るよ!」
『ちょっと待っ———』
心さんが耐えかねて電話を切り、大きくため息を吐いた。
「……まぁこれで無事解決ってことで! さっさと帰ろう☆」
「う、うん。後でミアちゃんにお礼言っておかないと、ですね」
「……そうだな。でもミアさんは絶対に止めといた方がよさそうだったなぁ……性格がなぁ……琴葉様信者の俺が言うことではないけど」
「神羅君、俺達もそろそろ切り上げようか。大丈夫。誰にでもミスはあるさ」
一瞬にしてテンションを切り替えた心さんが車に戻ると、他のメンバーもいつもよりも疲れた様子で車へと移動し、洋介さんに至っては俺を励ましてくれる。
自分のせいでこんなにも焦らせてしまったことに、物凄く申し訳なさを感じていた時———滅多に鳴らない俺の新しく買ったスマホから着信音が鳴り出した。
「神羅君……?」
「済まない、電話だ。終わったら追いかけるから先に行っててくれ」
「分かった。なら俺達は先に出発しとくよ」
そう言って洋介さんが離れた後でスマホを確認すると、そこには夕薙さんの文字が。
なにかあったのだろうか?
「もしもし」
『あっ! 支部長、神羅様に繋がりました!!』
「どうしたんだ、夕薙さん?」
電話越しにも夕薙さん達、協会職員が何か大慌てで対応しているのが分かる。
俺が何事かと訝しんでいると———
『———急いで沖縄へと向かってくださらないでしょうか!? 琴葉様達に命の危険が迫っていますッッ!!』
「………………は?」
夕薙さんによる突然の知らせに、俺は一瞬頭が真っ白になった。
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黒板とかのキィィィって音全身がゾワゾワするよね。
あれめっちゃ嫌い。
次回から再び琴葉達の視点に戻ります。
それと、マジでフォローと☆☆☆宜しくお願いします。モチベ維持に繋がるので!
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