第18話 水野琴葉の実力(三人称)
「……早く終わらないかな……」
琴葉は飛行機の窓から澄み渡る空と海を眺めながら、1人寂しそうに呟く。
彼女の隣に座っている姫花は気持ちよさそうに爆睡しており、逆に起きている者の方が少なく、静かなのが逆に琴葉のドキドキを加速させていた。
(……会ったら神羅はなんて言うかな? 探してもらってたみたいだし、嫌われてはないはず……! 嫌われてない……よね? あ、そう考えると一気に不安に……)
琴葉はこのままでは不味いと思い、席を立って何処か気分転換が出来る所を探し始めた。
今琴葉達が乗っている飛行機は普通の旅客機ではなく、ステルス機能のついた最新式の軍用機で、大量の荷物に人も運べ、下のハッチが開く様になっているため大勢が一斉に飛び降りることも可能。
更に『技術者』が発明した結界によりある程度の巨神獣からの攻撃にも耐えられる。
こんなめちゃくちゃ良い飛行機を『夜明けの証』は幾つも所有していた。
そして現在琴葉が乗っているのはS級覚醒者以上のみが乗れる小型のステルス機である。
「あ、やっぱり君も寝られなかったんだね」
「そう言う会長こそ寝ていた方がいいですよ」
琴葉が少し息抜きに外が一望できる操縦席の所に移動すると、自動運転のはずなのに何故か操縦席に座っている直也が居た。
しかしそう言う自分も操縦席に来ているな、と少し面白くて琴葉は笑みを溢す。
「どうして笑うんだい?」
「いえ、何でもありませんよ。ただ『運転なんて出来ないのに何で操縦席に居るのかな?』と思っただけです」
「あれ? 僕って君の上司なのに貶されてる? ……ま、まぁそんなことはいいや。それより、そろそろ着くから皆起こしてくれない? 何故か僕だと皆起きないんだよね……」
あはは……と苦笑いを浮かべる直也に、神羅と違って頼りないなと密かに思ってしまう琴葉。
しかし特に文句を言わず『分かりました』と言って、操縦席を出る。
皆が寝ている真ん中で琴葉は魔力を声に込めて一言。
「———起きて」
「「「「「「「「「———はいっ!!」」」」」」」」」
魔力の効果で全員の耳に届いた言葉は、皆を即座に叩き起こした。
「琴葉様……そういった起こし方は私だけにしてください」
大体の者は不服そうな顔をしているが、琴葉信者の姫花だけは恍惚とした表情でサラッと独占欲を出していた。
勿論そんな戯言は無視して琴葉が話し出す。
「今からパラシュートを付けて。この辺りには私達の飛行機は降りれても、大きな奴は降りれないから空から飛ぶわ」
「琴葉様、大型の方に乗っているメンバー達はどうするのですか?」
「時空間ゲートで連れて来る」
「あ、俺がやらないといけない感じですか?」
『夜明けの証』に所属しておりS級空間系異能力の使い手———
そんな舐めた態度に、姫花が青筋を立てていたが、周りの人が押さえていたため何も出来なかった。
「そうよ。貴方なら余裕なはず」
「まぁ水野さんの命令なら素直に聞きますよ。魔力回復ポーションを何個かくださるのなら」
「はい」
「テンキュー……じゃなくて、ありがとうございます。じゃあお先に」
そう言ってパラシュートを付けた空は、綺麗に空へと身を投げ飛ばした。
「さて、僕も降りようかな。彼がサボらないか監視とかないと」
その言葉には誰も否定しない。
空のサボリ癖は昔からなので、今や誰もが直すのを諦めている。
直也が『アイツ……どうやったらちゃんと働いてくれるんだろ……』と永遠に解けなそうな謎について呟きながら空へと消えていく。
それに続く様にどんどん降りていき、最後に琴葉と姫花が残った。
姫花はパラシュートを着ながらサラッととんでもないことを告げる。
「———琴葉様。失礼なのは承知ですが、相手は徹底的に調べさせてもらいます。仮にダメなら潰しますので」
「え?」
素で驚きの声が出た琴葉だが、姫花は既に空へと身を投げ出しており、飛行機には自分自身しか残っていない。
琴葉は何かを堪える様に一度目を瞑り、少しの前を空けた後、ゆっくりと開いて飛び降りた。
「……後で姫花はお説教決定」
底冷えする様な低い声で呟きながら。
「———これから本島に向かう! しかしこの辺りには既に巨神獣がいるかもしれないから油断は絶対にしない様に!」
「「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」」
空が何度か直也に怒られながらも全員を小さな小島の戦艦に移動させた後、直也が気を引き締めさせる為に敢えて魔力を声に込めて軽く威圧する。
その効果は絶大で、寝ぼけていた者、安心し切っていた者など、心の準備が出来ていなかった者はビクッと体を震わせていたが、流石日本最強クランのメンバーなだけあり直ぐに意識を切り替えていた。
クランメンバーを載せた戦艦が時速80キロ前後で沖縄に向けて進んでいく。
戦艦の1番前では琴葉と直也がスタンバイしており、いつでも巨神獣と戦闘が出来る状態になっている。
———しかし本島に着くまでの数十分間、終ぞ一度も巨神獣に出会うどころか見かけすらしなかった。
その異常さに琴葉達は次第に険しい顔になっていく。
「……おかしいね。幾ら何でもこんなに少ないなんて有り得ない」
「私も同感です。ですが、一先ずは本島の巨神獣の討伐に入りましょう」
顎に手を当てて『うーん』と唸っていた直也に琴葉はそう言うと、全員に指示を出し、自身が1番に本島に降りる。
本島は人類が手放して既に数十年経っているため、辺りには巨神獣が放出する魔力によって変化した植物が建造物を覆っており、足場が非常に不安定になっていた。
そして目的の巨神獣はと言うと……
(……本島には沢山いる……でもまるで何かに怯えている様に動きがない。そこまでSSS級巨神獣は強大な力を持っているのかな?)
「皆、取り敢えず降りてきていい。ただし出来れば一気に降りてきて。戦艦には一時退避してもらうから」
1人1台持っているトランシーバーで琴葉の指示を聞くと無言で皆が頷き、続々と船から飛び降りる。
約半分が飛び降り終わった頃———
「———!? 急いで! 巨神獣達が動き出した!」
琴葉がいち早く巨神獣の動きに気付き、トランシーバー越しに叫ぶ。
しかし全員が降りて船が離島するまでまだ時間が掛かる。
(……マズいよぉ……足が速い奴らがもう直ぐ到着しちゃう……! ———こうなったら私が何とかしなきゃ。会長達には体力を温存していて貰いたいし)
「———会長! 私はこれから船が離島するまで殲滅に入ります。離島まで後どれくらい掛かりそうですか!?」
「……ざっと2分くらいだそうだ! 巨神獣の中には数キロジャンプする奴もいるから、更にもう少し時間が掛かる!」
「……分かりました。本島討伐チームは私について来て!」
「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」
琴葉の号令と共に、クラン『夜明けの証』ほぼ全てのメンバーが本島の中心部へ向かって走る。
それとほぼ同タイミングで『ドドドドドドッッ!!』と言う地響きが鳴り始め、ジャングルの様は所から次々と数メートルから2、30メートル程の比較的小さな巨神獣が猛スピードで此方に向かって来た。
(確認出来るのは……鼠型、虫型、狼型に熊型! 数は数百……このくらいならいける!)
「———皆止まって! これからは私が撃ち漏らした個体を殺して!」
琴葉は返事を待たずに魔力を解放。
———ブワァァァァァァ……!!
途端に魔力の奔放が起こり、琴葉を中心として風が発生する。
魔力の解放によって輝く瞳を巨神獣の方へ向け、異能を発動させる。
「【水創造】【絶対零度】」
———途端、空を覆い尽くすほどの1つ1メートル規模の水の球が生まれ、絶対零度によって一気に氷塊へと変化する。
その異様な光景に誰もが目を奪われ、巨神獣達も警戒してか動きを止めた。
「……女神みたいだ……」
ふと誰かがポツリと呟いた言葉は静かな戦場に響き渡り、誰もがその言葉に同意する。
空に舞う琴葉の周りに浮かぶ無数の凍った水滴が、『戦女神』の名を体現するかの如くキラキラと太陽の光を反射して神々しく輝いており、琴葉の美貌も相まって覚醒者達には女神の様に映っていた。
完全に戦場を支配した琴葉がゆっくりと手を振り上げ———
「殲滅開始———ッ!!」
振り下ろすと同時に数万にも昇る氷塊が一斉に地上にいる巨神獣へと放たれた。
1つ1つが音速を超えて飛来し、莫大なエネルギーを保有して———
———ズガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!
物凄い轟音を上げながら氷塊は巨神獣達を殲滅していく。
大抵の巨神獣は氷塊1つで絶命し、大きなモノでも数発、数十発当たるとグチャグチャになって絶命した。
「……ふぅ……これでどれくらい稼げるかな……?」
琴葉が地面に舞い降りる時、辺りはしんと静まり返っていた。
巨神獣の声や足音、果てには人間の声すらも聞こえない。
見ていたクランメンバーすらもあまりの凄さに衝撃を受けて声を出せずに唖然としていた。
そんな極度の沈黙を破る様に、再び巨神獣達の向かって来る足音が聞こえ始め、その数瞬後には新たな巨神獣が姿を現した。
同時に全員が戦闘態勢に入り、次々に異能を発動させる。
「私はそろそろ切り上げても大丈夫ですか?」
『ああ。もう大丈夫だろう』
「では帰還します」
更に数回異能力を発動させて敵を殲滅した琴葉は、そう判断して直也達精鋭の下へと戻った。
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水野琴葉
32歳(身体は18のまま)
Lv.5,786,700
体力:5,786,700/5,786,700
魔力:11,573,400/11,573,400
攻撃:SSS
防御:SS+
敏捷:SS+
【異能力】
《水創造》《絶対零度》
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次回は主人公視点挟みます。
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