第17話 沖縄奪還作戦(三人称)

 朝4時。


「———おはよう琴葉副会長。昨日はよく寝れたかな?」

「おはようございます、朝霧会長。昨日は安心してよく寝れました」


 日本最強のクラン『夜明けの証』の会長である朝霧直也は、2番目に早くやって来た琴葉に挨拶を交わす。

 しかし直也は挨拶をした後、誰も居ないことを良い事に、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「まぁ15年も探してた愛しの彼が見つかったんだからしょうがないか」

「!? そ、それは言わないで下さいっ!」


 そう直也に揶揄われて恥ずかしそうに頬を染めて素を曝け出す琴葉は嬉しさを全く隠せていない。

 普段なら冷静に返しているはずだが、今日だけはモロに受けていた。


「どんな男にも靡かなかった『戦女神』を虜にする神羅君は凄いね。これで実力もあるんだから是非とも我がクランに欲しい」

「……無理強いはしないで下さいよ。したら抜けますから」


 琴葉が殺気立った瞳を直也に向けると、直也はぶんぶんと首と手を横に振る。


「そんなことするわけないじゃないか。君にも抜けてもらっては困るしね。あっ、他のメンバーも来たからもうこの話はお終いね」


 直也は琴葉の後ろから現れた『夜明けの証』メンバーの下に直行。

 その姿を見ていた琴葉は『逃げましたね』と思いながらも、いつも通りの自分を演じる。


「おはようございます琴葉様。相変わらずお美しいですね」

「おはようです琴葉ちゃん。今日の僕はいつのも10倍頼りになりますからどんどん頼ってくださいね!」


 現れたのは琴葉と同じSS級覚醒者で『刀神』と名高い橘姫花たちばなひめかと、S級覚醒者で回復系の異能力を持っている遠藤優えんどうゆう

 2人とも『夜明けの証』の主要メンバーで、日本国内でも姫花は最強格、優も回復系としては日本最高峰の実力を持っている。


「2人ともおはよう。緊張は……してない様ね」

「勿論です! 琴葉様と一緒なら例え火の中水の中雲の中———(以下略)、どんな所でもついて行きます!」


 長い黒髪を後ろで括っていて、和服のバトルスーツの腰には2振りの刀が挿している姫花の見た目はとても大人っぽくい美人だが、中身は琴葉大好きでファンクラブにも入っている生粋の琴葉オタクである。


「琴葉ちゃん! 今日こそはこの作戦が終わったら僕といっ———」

「絶対に行かない。それに作戦後は予定があるの」

「ええ!? 琴葉ちゃんに予定!?」

「琴葉様、一体どう言った予定なのですか?」


 普段滅多にプライベートの予定はなく、殆どクランにいる琴葉が予定があると聞いて、2人が即座に詰め寄る。

 しかし琴葉は2人の質問に全く取り合わず、終始『秘密よ』としか言わなかった。


「それよりそろそろ全員集まるから静かにして」


 尚も騒ぎ続ける2人に琴葉が喝を入れると、ピタリと時間が止まったかの様に、先程の騒がしさが嘘に思えるほど静かになった。

 『夜明けの証』は1000人程のクランで、SSS級が1人、SS級が2人、S級が7人、A級が100人程度、B級が500人程度に、C級が約350人と他のクランよりも上位覚醒者が多い。


 そしてこのクランで1番な実力者で権力者は、会長で日本に1人しかいないSSS級覚醒者の直也だが、実質クランメンバーが恐れているのは副会長の琴葉である。

 琴葉は圧倒的な人気を誇り、実力も会長に次いで高く、どんな等級の覚醒者とも一度は共に戦うので直にその強さを見た覚醒者は誰も逆らえないのだ。


「さて、静かになったことだし……そろそろ僕から話をしようか。まず、今回の『沖縄奪還作戦』についてだ」


 先程の言葉を揶揄う様な無邪気さは鳴りを潜め、真剣な眼差しで皆を見る直也。

 そんな会長の姿にクランメンバーも自ずと緊張感が高まっていく。


「———『沖縄奪還作戦』。これは昔から何度か計画されていた物だが、遂に我がクランに依頼があった。それも、協会と日本政府からだ。依頼内容は———『沖縄に生息する全ての巨神獣の討伐と、目覚めたSSS級海竜型巨神獣を討伐』である。失敗は許されないが……我が『夜明けの証』の皆ならいけると思っている! 絶対に成功させて、全世界に日本の最強クランは『夜明けの証』だと示してやろう!!」

「「「「「「「「おうッ!!」」」」」」」

「「「「「「「「はいッ!!」」」」」」」


 クランメンバーの気合いの籠った声が貸切の空港内に響き渡る。

 その声にうんうんと頷いていた直也に代わり、皆が鎮まったタイミングで琴葉が詳しい日程を伝え出した。


「これから私達は飛行機で沖縄の近くの島にパラシュートで降り、そこから船で本島まで移動。そこで海竜型巨神獣を討伐するメンバーと本島の巨神獣を討伐するメンバーに分かれないといけない。なので、海竜型巨神獣討伐チームは朝霧会長と私、姫花と優の4人。そして残りのS級覚醒者と他のクランメンバーには本島の巨神獣を駆逐して貰うわ」


 琴葉がそう言い終えると、1人のA級覚醒者がゆっくりと手を挙げた。


「どうぞ」

「ほ、本島の巨神獣を討伐するメンバーにはSS級が居ませんが……大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫よ。現在本島に確認されている巨神獣の等級はF〜A級まで。S級覚醒者が6人居るのだから安心していい」

「そ、そうですか……」


 質問した覚醒者だけでなく、他のA級以下の覚醒者達も安堵のため息を吐いたりしているが、そんな覚醒者達に琴葉から無慈悲な一言が放たれる。


「———まぁざっと数万頭は居るけど」

「「「「「「「「「「「「え……?」」」」」」」」」」」」


 完全に固まる場の空気と皆の挙動。

 それを起こした張本人の琴葉は全く表情を変えることない。

 これには直也や姫花、果てには優を入れたS級覚醒者達まだもが苦笑いを浮かべており、それ以外の者達は軽く絶望した様な表情になっていた。


「あ、あはははは……琴葉君相変わらず何でも正直に言うね……」

「何も言わないよりはマシでしょう? どうせこの後自らが目にするのですから」

「いやまぁそうなんだけどね……」


 全て事実が故に、直也はあっさりと論破されてしまった。

 更に重くなる空気の中で琴葉が皆の様子を見て、はぁ……とため息をつきながら付け加える。


「勿論上級回復ポーションも魔力回復ポーションも無制限に支給する。そして―――初めは私も本島の討伐に参加する」


 そう宣言した瞬間にどんよりとした重い空気が吹き飛び、あちこちから安堵による歓声が上がり、何なら膝をついて感謝の言葉を述べながら泣き出す者まで現れた。


 しかしそれもしょうがないことだろう。

 琴葉は日本のSS級覚醒者の中でも随一の広範囲異能力の持ち主であり、日本で1番人気の覚醒者と言っても過言ではない。

 そんな彼女が参加してくれるとなれば、一気に自分達の勝率は上がるのだから。


 そんなお祭り騒ぎのクランメンバーを見ながら、琴葉は疲れた様にため息を再度吐く。


「……こうなりそうだったから言わなかったのに」

「優しいですね琴葉様は。本来彼らだけでの作戦で、貴女様が出る必要などないのに。ですが、それでこそ我が崇高なる『戦女神』ですっ!! 私も琴葉様の剣として頑張りますっ!!」

「……別に彼らの為じゃないわ。ただ早く終わらせたいだけ」

「そこまでしてこの作戦を早く終わらせたい理由は何なのですか?」

「……秘密」

「やはりダメですか……はっ!? もしかして……男ですか? あ、別にダメとは言いませんよ? だって貴女様は私達のものではないのですから。ですが……相手がどんな奴か徹底的に調べ尽くして駄目そうなら……」


 などと瞳のハイライトを消し黒い笑みを浮かべて呪詛の様にブツブツと恐ろしいことを呟く姫花を前に、琴葉は何も答えない———というよりは、言いたくても言えないといった方が正しい。


(姫花に言ったら間違いなく神羅に迷惑が掛かる……それだけはダメ。だから神羅と会うことは会長以外の誰にも知られてはいけない。神羅と付き合って外堀を完全に埋めるまでは……)


 琴葉は、特に自身のファンクラブ会員だけには知られない様にしようと心に決め、姫花と共に沖縄行きの飛行機に搭乗した。

 

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 次回も三人称で、初めての琴葉の戦闘シーンです。


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