第14話 罠
「———此処が『双頭の大蛇』が管理する土地の1つにして我がクランの原点とも言える『大蛇の森』だよ。昔はSS級巨神獣が居たけど、私達が既に倒したし、もうA級程度しか居ないよ。それで此処で私達の実力を見せて欲しい……だったっけ?」
「ああ。俺は自分よりも弱い人に付かないようにしてるんだ。アンタらが力を見せてくれたら俺も力を見せる———等価交換だ」
俺は誘われた時、直ぐにでも断ることは出来たが、久しぶりのそれなりの相手にテンションが上がっていたのかもしれない。
先ほど言ったように相手の力を見れば俺の力を見せると言う約束をした。
まぁ1番強い上杉誠哉でも括りで言えば雑魚と大した変わりはしないので絶対に俺が奴の傘下に入ることはないしな。
それで連れて来られたのが此処、『大蛇の森』? とか言う場所で、昔で言う熊本県が丸々森になっているらしい。
なんとも奇妙な森で、生物の気配が一切しないし、濃密な霧で森が包まれているので視界も悪い。
名前からして蛇系の巨神獣達の棲家だとは思うが、数も強さも全くの未知。
「それじゃあ行こうか。神羅君は私達から離れないでくれよ」
「分かった」
上杉誠哉が躊躇いもなく森の中に入っていき、それに続くように入っていく部下達について行く。
やはり中は外からも見たように霧で数メートル先すら見えず、更にはこの霧が俺の感知と生物の気配を撹乱させている。
どうやら思った以上にこの環境は俺に不利に出来ているらしい。
「この霧の中でどうやって巨神獣を見つけるんだ?」
「それはね……こうやってやるのさ」
上杉誠哉が空間圧縮ポーチから一頭の生きている牛を取り出す。
そしてその牛の首に濃密な魔力が宿った首輪が付けられ、牛は霧の中へと姿を消したが、真面目そうな眼鏡を掛けた……
「これでレーダーの反応が消えれば牛の近くに巨神獣がいると言う事です」
「まぁいい手だと思うが……面倒だな」
極論だが、この一帯の霧を全て吹き飛ばせば良くないか?
そうすれば霧が再び発生するまでに何頭かは見つけることが出来ると思うが。
俺はそんなことを考えたが、どうやら相手側にそんな考えは一切ないらしく、
「まぁでもこれ以上のことは難しいからね」
と肩をすくめていたので、俺の考えは脳筋が過ぎたようだ。
意外といい案だと思ったんだけどな。
「———誠哉さん、食いつきました」
「もうかい? 意外と早かったね。それじゃあ行こうか」
牛を離して僅か数分で巨神獣が釣れたようで、3人が足早に移動を始めた。
反応が消えたのは此処から数キロ程の場所で、近くに寄ると川が流れており、その川の土手に牛を絞めることなくそのまま齧り付いた全長2、300メートル程の長さの大蛇がいる。
「あれがA級蛇型巨神獣の『ボア』です。奴だけでなく、蛇型の巨神獣は大きさの割に警戒心が強く、基本的に人前に姿を現しませんが、こうして狩りの時だけ姿を現します」
「警戒心が強いならどうやって倒すんだ?」
「勿論既に罠は仕掛けてあるんだ。ほら……何かおかしいと思わないかい?」
上杉誠哉が言った様に、確かに蛇の動きが止まっている。
「牛に何を仕掛けていた?」
「麻痺毒だよ。それも我がクランが20年掛けて作り上げたSS級蛇型巨神獣の毒を使った最強の毒さ。あれは私でも数分動けなくなるよ」
「その間に殺すのか?」
「うん。まぁ巨神獣は図体が大きいから直ぐに切れるんだけど、目的は逃がさないことだからね」
そう話している間にも部下の2人が巨神獣に既に攻撃を仕掛けていた。
「———"瞬斬撃"」
「そろそろ俺もS級に上がりたいなぁ———"煉獄"ッッ!!」
始めに高橋学が刀に手を添えたと思えば、一瞬のうちに巨神獣の顔面を中心に幾重にも斬り刻む。
「キシャアアアアアアア———ッッ!?」
硬そうな表皮から青い血を流した巨神獣が威嚇するかの如く甲高い咆哮を上げる。
しかしその咆哮はもう1人の部下の赤髪の男が放った極大の炎によって止められたが、巨神獣は直ぐに逃げようと方向転換をして川の中に移動しようとしていた。
しかし———
「———逃がさないよ」
上杉誠哉が一瞬で蛇の下に移動すると、その極太な首を
ズゥゥンンンンンン……と言う音と共に数メートルもの蛇型巨神獣の頭が地に落ちた。
その断ち切られた断面は綺麗で、物凄く鋭利な物で斬られたのが分かる。
おそらく異能だと思うが、どんな異能かまでは流石に分からない。
「どうだったかな? 私達の力は?」
「……凄いな」
素直にそう思う。
個々としての力は大したことはないが、搦め手や連携の技術が相当上手い。
相手にすれば普通に面倒だし、これなら下剋上も不可能ではないだろう。
「それでは神羅君、君の力を見せてもらおうかな?」
「……ああ、分かった」
そう言う約束なので破る訳にはいかない。
「だが、まだ牛はいるのか?」
「居ないよ」
「なら———」
どうやって見つけるんだ? と俺が問いかける前に突然地鳴りと共に地面が揺れる。
それも相当な揺れで、地震ならば7くらいはありそうだ。
そしてふと気配を感じると同時に、森の奥から音速の壁を越えて超速の速度で俺の下に悍ましい色んな色をない混ぜにしたようなドス黒い何かが飛んできた。
俺は咄嗟に避けようとするが、後ろに上杉誠哉達がいる事を思い出して空中で体勢を変えると、拳を振るう。
ズバァアアアアアアンンッッ!!
俺の拳圧とドス黒い何かが直撃すると少し拮抗したが直ぐにお互いに弾け飛んだ。
そして弾け飛んだドス黒い何かが木や地面に触れると、そこの部分だけ焼ける様な音を鳴らして溶けていく。
「酸液、それか毒か」
どちらにしろ興味深いな……と俺は近付こうとするが、突如目の前に現れたモノに視線を移す。
俺の目の前には先程の『ボア』と呼ばれる巨神獣とは比べ物にならない程巨大な蛇が居る。
上空数百メートルから俺を見下ろしているソイツの全長は大きすぎて視認できないが、頭の大きさから推測するに、間違いなく1キロメートルはあるだろう。
「……なんだアイツは?」
「———大蛇型巨神獣『オオアナコンダ』です。等級はSS級……一体何故奴が此処に……奴は誠哉さんが倒したはずでは……」
高橋学は驚愕に眼鏡を直す手を止め、目を見開いており、赤髪の男———
「———戦闘準備!!」
上杉誠哉が叫ぶと同時に『オオアナコンダ』が地を揺らす咆哮を上げる。
その咆哮は衝撃波となって俺達に襲いかかった。
「ぐっ!!」
「うわっ!? これはヤバいって!」
「…………」
高橋学と赤司翔吾は腕を顔の前でクロスして防御体勢に入ったが、まるで紙のように吹き飛ばされた。
だが2人ともそれなりに強いのでこの程度では死ぬことはないだろう。
「……この森には既にSS級巨神獣は居なかったんじゃないのか?」
「そのはずなんだけどね。これは私も予想外だよ」
「予想外……か。俺には予想外には見えないんだがな」
俺は上杉誠哉に目を向ける。
そこには予想外と言いながら、全く顔色も心拍も発汗も変わらない、普段通りと言わんばかりの柔和な笑みを浮かべた上杉誠哉の姿がある。
「……どう言うことかな? 私を疑っているのかい?」
「当たり前だ。この蛇の力はお前よりも強い。それなのにお前は突然現れたコイツを見て全く驚いていない」
「一度戦っているからじゃないかな?」
「それはない。人間は一度戦ったからと言って驚かないはずがない。例外があるとすれば現れる者より強いか、予め知っていたかのどちらかだ」
「たったそれだけで私を疑っているのかい?」
一見飄々としている上杉誠哉だが、奴の顔からは段々と笑みの消えていき、更には心拍の上昇、発汗などの異常が見られた。
明らかに何かを隠している。
俺が疑惑の目を向けていると、上杉誠哉が馬鹿にする様に肩をすくめて首を振る。
「はぁ……たったそれだけで私を責めるのはやめて欲しいな。他に根拠があるのかい?」
「ある」
「———っ!? な、なら言ってみなよ」
俺がはっきりと断言すると、上杉誠哉が少し目を見開いた。
「先程お前の部下の高橋学が言っていたな。『蛇型の巨神獣は大きさの割に警戒心が強く』と。警戒心の強い奴が、それも野生の生物が1番始めに狙うのは誰だと思う?」
「? 誰なんだい?」
「———
それに今この瞬間に『オオアナコンダ』の奴が攻撃をしてこないことも考えると、自ずと裏が見えてくる。
これは偶然鉢合わせたわけでも、『オオアナコンダ』が狙って俺達を狩ろうとしているわけでもない。
「———お前、コイツを操ってるな?」
「…………ふふふ……あはははははははははは!! よく分かったね神羅君! そうだ、私がアイツを操ってお前を殺そうとした!!」
突然顔を喜悦に歪ませ、理性を失ったかの様に、狂った様に笑い出した上杉誠哉を守る様に『オオアナコンダ』が控える。
「だがそれが分かった所でもう遅い!! 君は此処で私と『オオアナコンダ』に殺されるんだ!」
「……何故俺の命を狙う? 弟の敵討ちか?」
「…………は? 何を言っているんだ君は」
先程まで笑っていた上杉誠哉だったが、弟という単語を聞いて一気に顔を歪ませる。
それは先程の様な喜悦ではなく、明らかな侮蔑が奴の顔を支配していた。
「何故私があんな出来損ないの愚弟の敵討ちなんかしないといけない? 逆に君には感謝しているくらいだよ」
「なら何故だ?」
「———君は強すぎる。間違いなく私よりも強い。SS級の中でも弱い方の私には、君に居てもらうと非常に困るんだ。だから始末しようとした、それだけだよ」
「……そうか。用は自分よりも強い俺を妬んでいるのか」
「———あ? お前、なんて言った? もう一度言ってみろ」
完全にキレた上杉誠哉が顔を真っ赤に染め、全身を怒りでぶるぶると震わせる。
その体からは魔力が溢れ出し、無数の透明な刃に変化した。
「斎藤神羅……先程言った言葉、もう一度言ってみろッッ!!」
怒り狂い透明な刃の雨を降らせる上杉誠哉の姿を見ながら、俺は拳を構えて言う。
「———妬むくらいなら修行しろ愚図が」
———瞬間、俺を斬り刻もうと疾駆していた全ての刃が粉々に破壊された。
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