第4話 再登録と『error』

「———すまないな。わざわざ巨神獣を収納してもらって」

「ぜ、全然大丈夫です! 容量はパンパンになってしまいましたが……」


 俺は現在支部に案内してくれる覚醒者パーティー———『要塞』の車に乗っていた。

 どうやら支部は街から離れているらしく、車でないと時間が掛かるんだとか。


 そして車に乗る際、巨神獣が邪魔だったので『要塞』の《空間圧縮ウェストポーチ》なる物に収納してもらった。

 俺がお礼を言うと、要塞の荷物持ち兼回復係の中島咲良なかじまさくらと言う20代前半の見た目をした美人さんがワタワタし出す。

 見た目はクール系なのに残念系だったとは。


「悪いな神羅君。コイツは人見知りでな」

「わわっ! や、やめて綾人さん!」

「問題ない。初対面の人と話すのは緊張するからな」


 俺も昔はそうだった。

 今では全然そんな事ないが。

 

 因みに今咲良さんの頭に手を置いて俺に人見知りだと暴露したのが城原綾人しろはらあやとさん。

 見た目は20代前半で咲良さんと同い年くらいに見えるが、此方は随分と落ち着いていた。

 まぁ茶髪に染めてピアスをしているくらいだから根っからの陽キャ気質なのだろう。


「そう言えば神羅君は何処から来たの?」


 俺が綾人さんのコミュ力に感心していると、隣に座っている新井心あらいこころと言う、少しギャルっぽい女性が身を乗り出して聞いてくる。

 

 ……この際何と答えれば良いのだろう。

 EX級巨神獣の中に閉じ込められてましたとは流石に言えないし……。


「……隣町のマンションに住んでいる」

「あれ? 覚醒者なのに何で一般人のマンションに住んでいるの?」


 一般人のマンション……?


「覚醒者が住む所は違うのか?」

「勿論よ。だってもし一般人を傷付けでもしたら覚醒者のイメージが悪くなるじゃない。それに異能力の暴走とかも起きるから安全のために覚醒者と一般人で住む場所を変えているの」


 成程……15年の間にそんなことが決まっていたのか。

 やはりたった15年だが相当色々なことが変わっているな。

 何か現代についての本を読みたくなって来た。


「もう直ぐ着くぞ———ほら見えて来た。あの山の上だ」


 運転をしている『要塞』のリーダー、ムキムキの洋介さんが指を差して教えてくれる。

 その指の差す方に視線を向けると、確かに山の山頂付近に高層ビルの様な山には不似合いな建築物が建っていた。


「さてあと少しだ。此処からは少しスピード上げるからな」


 洋介さんがそう言うと、車のタイヤが収まり、その代わりに飛行機の羽とターボエンジンが現れた。

 そして空中に浮くと高層ビルに向かって一直線に飛んでいった。





 

 


「―――ようこそ覚醒者協会第10支部へ。覚醒者登録です……って洋介さん? 今討伐に行っている頃では……?」

「それがな、この青年が先に倒していたんだ」

「はい? B級巨神獣をですか?」


 協会の受付人が胡散臭さそうに俺を見る。

 まぁ俺の見た目は19歳の時と変わらないし、いきなり全く知らない若い男がB級巨神獣を倒して来た、何て言っても普通は信じない。

 俺も立場が変わればきっと信じないだろうからしょうがない。

 

「取り敢えず巨神獣は後でいい。まずは俺の覚醒者登録を確認して欲しい。もう何年も来てないから剥奪されているだろうが」

「? 分かりました。お名前は?」

「斎藤神羅」

「斎藤神羅様ですね。少々お待ちください」


 受付人は近くのソファーを指差し、「あちらにお掛けになってお待ち下さい」と言った後、何やらステータスボードの様な半透明なボードを操作し始めた。

 俺は、洋介さんを除いた『要塞』のメンバーとラウンジの様な所でソファーに座る。


「神羅くん登録してたの?」

「15年前にな。だからさっきも言ったが剥奪されているだろう」

「15年!? 神羅くん何歳!?」

「わ、私も気になります! 見た感じ20歳いってない感じですけど……」

「神羅くんが最低でも20代後半……俺達よりも年上じゃん」


 心さんだけでなく、咲良さんや綾人さんも俺の言葉に驚いていた。

 確かに幾ら覚醒者が老いるのが遅いとは言え、15年も全く容姿が変わらないのは少し異常だろう。

 しかし、俺はレベルが高すぎるので、多分もう数百年はこの体だと思う。

 一体何年生きればいいのか。


「多分今年で34歳だろうな」

「わぁお! 私達より本当に年上じゃんっ! でも確かに見た目にしては落ち着いてるもんね。綾人とは大違い☆」


 心さんが綾人さんを見て、ぷぷっと笑う。

 それに少し怖い笑みを浮かべた綾人さんが、挑発的な笑みを浮かべて言い返す。


「おっ、言ったな。お前も23のくせにいつまでギャルやってんだよ」

「あ? ギャルは50までは出来るんですぅ! 神羅くんはどう思う?」

「本人が好きにすればいい。やりたいなら飽きるまで、な」


 服装や見た目の自由な覚醒者は、本当にどんな格好でもいいと思う。

 普通の人と同じ様にオシャレして巨神獣殺す人も居たし。


 俺のこの言葉はどうやら心さんにとっては正解だったらしく、綾人さんにドヤ顔を向けていた。

 それに対して綾人さんは少し悔しそうだ。

 

「し、神羅さんはどうして15年も協会に行かなかったのですか? 一度くらいなら行きそうですけど……」


 そう言うのは先程まで2人の争いに苦笑いを浮かべていた咲良さん。

 しかしその質問に答えることは出来ない。

 

「…………」

「神羅さん?」

『斎藤神羅様、5番受付口にお越しください』

「少し行ってくる」

「ちょ、神羅さん!?」

「あい〜行ったら〜」


 丁度タイミングよく呼ばれたのでソファーから立ち上がり、先程の受付人の下へ向かう。

 受付には難しい顔をした洋介さんと、此方を更に疑惑の篭った目で此方を見る受付人の姿があった。

 

「どうだった? やはり剥奪だったか?」

「ああ神羅くん。……言い難いがどうやら剥奪されていた様だ。既に15年間何もしていなかったと言うことらしい」

「一応剥奪から5年は経っていますので、再登録が出来ますが如何しますか?」


 受付人がそう言ってくる。

 再登録か……俺の時代にはなかったな、そんな制度。

 この15年の間に出来たのだろうか。


「再登録をするにはどうすればいいんだ?」

「機械でレベルと魔力を測定します。これはすぐに終わりますが、次に攻撃力と防御力と敏捷性を測るため、仮想の巨神獣と戦ってもらいます。登録する等級によって敵の強さは変わりますが……どの等級を受けますか? 最高でA級までです」

「ならA級だ」


 俺が即答すると、再び疑惑の目を向ける受付人。


「……仮想とは言え、精神的なダメージは受けます。それに貴方の登録はF級でした。それでもやりますか?」

「勿論だ」

「大丈夫だよ。彼はB級巨神獣を1人で倒したんだ。しかも無傷で。きっとS級はあるんじゃないかな?」

「洋介様がそこまで言われるのであれば……いいでしょう。必要な機材を持って来ますので、少々お待ちください」

 

 俺の再びの即答に渋い顔をしていた受付人だったが、洋介さんの援護射撃のお陰で何とか受けれる様になった。

 1人で此処に来ていたらきっと門前払いされていただろうから、洋介さん様様だ。


 受付人が一度席を立つと、奥から不思議な丸い水晶の様な物を持って来る。

 俺の受けた時にはなかった代物で、ラノベにある様な水晶玉だった。


 俺が不思議そうに水晶を見ていると、それに気づいた受付人が説明してくれる。


「これはレベルと体力、魔力を測定できる物です。10年前に現SSS覚醒者の『技術者』が生み出しました。それでは手をこの水晶に乗せてください」

「分かった」


 俺は素直に水晶に手を乗せる。

 すると水晶が一瞬光ると、ホログラムの様な「計測中」と書かれた文字が飛び出した。

 成程、随分とハイテクな代物だ。

 これを開発した『技術者』と言う人には一度会ってみたい物だ。


「因みにこれはどれくらいまで測れる?」


 俺のステータスは999,999,999のため、流石に測れない気がする。

 しかし受付人は「安心してください」と言うと、少し自慢げに説明し出した。


「これは現SSS級覚醒者の最高レベルである900万台まで計れます。なので大丈———」

『———error。レベルを計測できません。error。魔力を計測出来ません。error。体力を計測出来ません』

「———………ほえ?」


 無機質な機械の声と受付人の間抜けた声が静かな空間に響いた。



—————————————————————————

 フォローと☆☆☆宜しくお願いします。  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る