「山桜」

@J2130

第1話 見る人なしに

 桜の季節ですね。


 結婚してからはどこかしらにお花見にでかけています。

 綺麗です、美しいです。


 千鳥ヶ淵、不忍池、荒川の堤や伊豆高原などなど。


 桜は好きです。

 でもこの季節は毎年毎年、システム室にいても物流にいても薬局に勤めていても…


 落ち着かない、忙しい、なにか気忙しい季節で、なんとなくなんとなく悩ましい時期なのです。


 季節の変わり目、新年度、法律改正と重なってね…

「ああ…春だな…」

 という気持ちと

「春が来ちゃったな…」

 そんな感じなんですね。

 システム室にいたころや、システム変更にかかわったときなど、会社に寝泊まりした記憶が鮮明で…

 そのあたりはまたいずれ書きたいと思います。


 皆様の作品を読んでも感想も書けず、せっかく頂いたコメントにも返信できず、すいません。

 去年も同じようなことを書いています。


 さて、今回は珍しく「山桜」なんていう題で書かせて頂きます。


 日本の桜としてはやはりソメイヨシノが有名です。

 そうですよね、いっせいに咲いて本当にきれいです。


 勿論この樹は改良されて造られたものですが、山桜とは野生の桜の樹をさして言われます。


 ソメイヨシノと違い、花だけを最初に一斉に開くのではなく、葉も伸びてしまいます。


 なので見た目はあまりよくないのですが、野生種独特の逞しさがあります。


 さて…


 なんだ、この作者は自慢したいのか…と思われるのも覚悟で書きますが、義父の持つ別荘の庭にはたくさんの樹があり、柿、蜜柑、栗、梅、桜、桃などが植わっているなかで、大きな山桜が1本一番大きく枝をはっています。


 2階建ての別荘の屋根まで幹があり、毎年この時期に花と葉を同時に見せてくれます。


 僕はこの樹が好きです。

 華やかさはないですが、地味なその姿がかえって僕の心に

「かっこいいな…しぶいな…」

 と訴えるのです。


 あとこんな小説を読んだからでもあります。


 吉村昭さんの作品に「手首の記憶」という短編があります。


 樺太に戦中に取り残された若い看護婦達が、ソ連軍に殺害されたり捕虜になり乱暴されるくらいなら自決をしようと決意します。


 集団自決を前に、彼女らは歌のうまい若い看護婦に「山桜の歌」をお願いするのです。


「山ふところの山桜

 一人匂える朝日影

 見る人なしに今日もまた

 明日や散りなんたそがれに」


 婦長以下二十数人の看護婦は睡眠薬などで自決を試みますが、描写は切ないのでしません。


 結果として婦長、副婦長と4人の看護婦がなくなり、十数名が重傷となりながらも生きながらえます。


 戦後、彼女たちの慰霊祭がはじめておこなわれるさいにその女性たちの取材をするお話が「手首の記憶」という作品です。

 生存者達はみな泣き崩れ、記者もつらく取材どころではなかった。

 そんな悲しくも切ないお話です。


 詳しい描写は避けますね。


 山桜です。


 花と葉が同時に育ちますので、ソメイヨシノのような華やかさはありません。


 ですが咲くのです。


 人に見せるためでもなく

 山の中に咲くのです。


 別荘の山桜は僕や家族に見てもらえますが、きっと日本の山中には鳥や動物達にしか見ることができない、だけどたくましく咲いている樹がきっとあるのだろうな…などと思うのです。


 鳥や動物にも見ることができない厳しい山中にもあるのかな…それでも春がくると葉といっしょに花を咲かせているのかな…などとも思うのです。


 見る人なしに…だけど華やかでもない花を咲かせているんだろうな…と。


 山桜を見るとなんとなくシンパシーを感じてしまうのですね。


 久しぶりに投稿します。

 お付き合い頂きありがとうございました。


       了


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