第18話 族長グリシア
♪♪♪
ツェラルドの悪魔がやってくる
人をさらいにやってくる
娘を隠せ
さらわれる
チュレルの油に火を灯せ
緑の炎を怖がるぞ
ツェラルドの悪魔がやってくる
悪魔に娘は渡さない
~ハメイティ地方に伝わる手遊び歌~
☆☆☆
『ずおおおおん』という効果音が響いている。
〖カイツェル山脈の〗兎人族の村の入口である。
村側には完全武装のウサミミが長い爪を構えている。
対して、入口に向かってズラリと並ぶのは黒いカッチリした服を来た頭に角、背中から小さな羽が生えた人たち。
全員が引き締まった体をしているウサミミに対し、黒服たちは筋肉質だ。
控えめに見ても、チンピラとマフィアの抗争にしか見えない。
一触即発という言葉がこれほど分かりやすい場面は無いだろうと言う緊張感だ。
「なン用じゃ?」
ウサミミ集団より1歩前に出るのは、ウサミミ軍団総大将グリシアだ。
特製の一際長い爪を付け、メンチを切って黒服を威圧する。
「相変わらず行儀が悪いな、浮浪児は」
その威圧を柳に風と受け流すのは、黒服の真ん中に立つ髪をピッタリ後ろに撫で付けた品のいい男性。
「ゴッチバリがぁ!」
睨み合いは始まって数瞬にして騒乱へと突入した。
グリシアの煽り耐性はゼロである。
売ったつもりすらなくても、勝手に買い上げて殴りかかって来るのがグリシアだ。
気配遮断からの奇襲戦法を得意とするウサミミたちだが、その正面戦闘力が低いかと言えば決してそうではない。
単純に身体能力が高いし。
ただ正面からの殴り合いより、不意打ちからであれなんであれ、圧倒的な勝利が好きなのだ。
弱いのは嫌いなクセに、めんどくさいヤツらである。
閑話休題。
そんな性質の中、ある種、異様なのがグリシアである。
殺気を全開にして、小細工無しに正面から一直線に殴り込む。
これがグリシアである。
その上で村で1番強い。
それがグリシアである。
先のバルトフェルド将軍との死闘では、仲間は下がらせ、将軍の乗り込んだゴーレムと、その右腕たる親衛機の2台ゴーレムを相手取り、大陸に比肩なしと言われたダブルタクトを真正面から叩き折ったのだ。
――バガーーーン!!――
グリシアの姿が霞むと同時に、オールバック黒服の目の前で岩の壁が爆ぜる。
真空飛び膝蹴りを、黒服が作り出した岩壁により防いだのだ。
その礫を足場にグリシアが跳ねる。
――ガジャン!!――
それを読んでいたかの如く、空中に岩のトゲが殺到する。
――ガガガガガガガ!――
グリシアはその岩のトゲを両手足を使い弾き飛ばしつつ、その一つを掴むと、投げつける。
――ガン!――
しかし、新たに生まれた岩壁に阻まれる。
――ドン!!――
着地と同時に土煙を上げてグリシアの姿が消える。
――バガーーーン!!――
今度は黒服の背後。
やはり生まれた岩壁が砕ける。
――バガーーーン!!――
続けて黒服の左側。
――バガーーーン!!――
右側。
「はっ!」
――ガガガガガ!――
黒服が掌を上に向けると、地面から無数のトゲが生える。
トゲはヘビが走るごとく、地面を割りながら走る。
微かに見えるグリシアの影を追いかけている。
トゲを躱して走るグリシア。
――ゴゴゴゴゴ――
その先に、岩壁が生まれる。
「しゃあ!」
――バガン――
気合い一喝。
追い詰めるように聳えた岩壁が砕け散り――
――ドン!!――
土煙。
――バガーーーン!!――
黒服の目前に現れた岩壁が現れ、グリシアの突進を止める。
――ガン!!――
更にその岩壁を潰すように巨岩が落ちてくる。
「ちっ!」
岩を砕くための一瞬の硬直に合わせた、神憑り的な一撃。
その場を飛び退くグリシアを追うように、次々と岩が落ち、地面からトゲが生える。
村の入口が岩で埋もれるほどの、岩石の乱舞。
「相変わらずコチョコチョしょるわ!」
「ふん。品のなさは変わらんな」
もうもうと立ち込める土煙が収まれば、元の間合いで睨み合う2人。
「ワシらンガッチ見したれぇ!!」
グリシアが叫ぶ。
「「「「うおおおおお!!!」」」」
その叫びに呼応し、揺れるウサミミ。
「この浮浪児どもに、神罰を!!」
黒服も叫ぶ。
「「「「うおおおおお!!!」」」」
同じく気炎を上げる黒服集団。
頭同士の一騎打ちは終わり、あっという間に総力戦に突入した。
☆☆☆
「珍しい薬木が多かったね」
「さすがカイツェル山脈ですなぁ」
ポコポコと馬を歩かせるのはべッズ。
その隣を歩くのはフィゴーである。
「この山を普通に歩いている自分が怖い……」
「まぁ、慣れでしょう」
「アチを縄で縛るのは何故じゃ?」
フィゴーの護衛をしながら、並んで歩くルロとマルキニス。ハーネスのように縄をかけられ、その先をマルキニスに握られているミラルである。
5人は先日の鉄作りの途中に、薬草や薬木など貴重な植物を見つけたのでその採集に出掛けていた。
その雰囲気は危険なモンスターが跋扈する魔境を歩いているとは思えないほど和やかである。
爪をギラギラさせ、所構わずケンカに明け暮れるウサミミに囲まれ続けた結果、尋常ならざる胆力が身についた一行であった。
「ん?」
フィゴーが首を傾げる。
「何がです?」
フィゴーの様子に首を傾げるべッズ。
「いや、村の方が騒がしいみたいで」
「「「??」」」
森の中、村まではまだ遠い。
3人の耳には何も聞こえない。
「ホントじゃ! なんじゃ騒いどる!」
ミラルの耳がピコンと村の方へ向くと、ピョコンと飛び跳ねる。
「襲われてる?」
フィゴーが心配の声を上げる。
モンスターの巣の真ん中に作られた村である。
「早う! 早う! 戻るんじゃあ!」
ピコピコ跳ねるミラル。
村の心配……
「
……などするわけがなかった。
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