第17話 製鉄と農具
「これン『カメ』じゃ」
今一度村に戻ったフィゴーたちの前にドーンと置かれたのは巨大なカメだった。
正確には巨大な亀の甲だった。
高さ2m、長さ4mほどある巨大な亀の甲。
「あぎりどんっちゅうたかな?」
「あんぎりじょんじゃろ?」
「…これはラビリフィドンですね」
「「それじゃ」」
ルロの指摘にふぇっふぇっと笑うヘルメスとウォーガン。
「ワシらァガジリガメぇ呼んどんけえど」
「こンカメぇ使やあ鉄が作れるんじゃ」
ラビリフィドン。
ノネズミのような小回りが利くカミツキガメとでも言うべきモンスターだ。
真っ直ぐ進む速度は遅いが、旋回能力が高く、どこから近付いても、クルッと回ってガブッと噛みちぎられる。
成体になると、その大きさは優に10mを超える。
「親は使えん」
「デカすぎて運べんけんのお」
この甲羅は、まだ子亀のものだ。
「こんカメん中に、あン石ぃ入れるじゃろ?」
「コマいたハナホジリん骨ン灰も入れるんじゃ」
「して、ヒィカズラぁで縛るんじゃ」
「したら、あっちン山ンある火溜りン中放り込むんじゃ」
当たり前だが、村に鉄工所などない。
鉄を加工するための小さな炉があるだけだ。
この村では、このバカでかい甲羅の首、足、尻尾と6個ある穴のうち後ろ脚の穴から中に鉄鉱石を詰め込む。
そして、ゾウウサギ――象のような長い鼻を持つウサギのモンスター――の骨を炭のようにした骨粉も一緒に入れる。
そして、ヒィカズラ――王国ではタダレクズと呼ばれる燃えない
「ジュウに溶けたら、引き上げて、口ン穴から出すんじゃ」
「したら鉄んなる」
そのまま3日ほど放置してから引き揚げ、今度は首の穴から溶解物を取り出すと、先に鉄以外だけが流れ出てくる。
甲羅の内側には溝があり、その溝には磁力があるため上手く鉄だけを残すことができる
一度に傾けすぎると、鉄まで混ざるので、その加減を調整するのが腕の見せ所だ。
後は、必要な鉄の純度に応じて、同じ作業を何度も繰り返す。
こうして鉄が作られる。
山を越え崖に行き、村を挟んで反対の山を越えて火山へ。
巨大な甲羅をゴロゴロ押しながら往復すること幾度。
「これだけあれば、十分でしょう」
「「あるじゃもん」」
やっと鉄製農具を作るに足る鉄ができた。
1カ月かかった。
「ちょっとぐらいええじゃろうが!?」
「「「「「イイワケあるかぁ!!」」」」」
たくさんできた鉄をくすねようとしたコーネルが、オトモーズに吊るしあげられたのは、些細な出来事である。
☆☆☆
雑草の絨毯の中。
巨大な男と、小さな子どもたち。
「手え切るんじゃねえぞ!」
「切らん」
「ダメだ! そういう油断が大怪我の元になるんだ!」
「切らんよ〜」
「いいから! 気をつけんだよ! 返事は?」
「「「はーい」」」
「よし」
ドレイクと村の子どもたちだ。
「新しい鎌はよく切れる。今までみたいに力任せに引くんじゃねえ! よし! やってみろ!」
「「「はーい」」」
「中腰でやるな! 腰を痛めるぞ! 膝をついて
「「「はーい」」」
ドレイク。
見上げる程の巨躯に隻眼。
凶相と呼ぶに相応しい危険な匂いのする男で、実際、手に負えない暴れん坊なのだが、実は農家の生まれである。
村の中でも立場の弱かった貧乏農家に生まれた彼は、子どもの頃から力の強かったこともあり、村中から馬車馬の如く扱き使われていた。
本人は認めないが、鎌や鍬の扱いは剣よりも上手い。
後、これも本人は認めないが、無類の子ども好きである。
「ようきれるんじゃあ」
「手がいとぉないんじゃあ」
「くさもようかれるんじゃあ」
雑草の絨毯の中で、ぴょこぴょこ踊るもこもこした耳。
カチホ畑で働く子どもたちの楽しそうな声が聞こえる。
「
「
「
きゃいきゃいと楽しそうな声を上げるが、内容は物騒である。
「……小せえけど、こいつらも〖カイツェル山脈の〗兎人族か」
「次は鍬の使い方だ!」
「「「はーい」」」
元気よく返事をする子どもたち。
街では子どもが好きでも子どもからは怖がられていたドレイクだが、この村の子どもたちはドレイク程度ではビビらない。
それどころか、教えるのが上手く、
「おう! フィゴーによう礼言うて、ドンセ働くんじゃあ!」
「「「はーい」」」
畑仕事が一息ついた休憩時間。
腕を組んで偉そうなのは、本当に偉いグリシア。
キラキラした目で返事をする子どもたち。
族長が村の未来を担う子どもたちに心得を説く。
大変に素敵な光景だが、その族長が酒臭いのは子どもたちの力が100%である。
グリシアは草の1本も抜かないので。
「ドンセ育てて、茶ァじゃ作れえ!」
「「「はーい」」」
「お前も働け!!」
胸を張るグリシアの頭をドレイクが叩く。
「何しょんじゃあ!!」
「どぅへえ!?」
しかし、その一撃は見事に躱され、カウンターの膝蹴りが飛ぶ。
ドレイクの巨体が子どもたちの頭上を綺麗な放物線を描いて飛んで行く。
「鍬振るんは上手いけど、ヘッチリなんじゃ」
「カワエエんじゃ」
「ケンカはレキチョじゃあ」
「ワシん相手ンならん!」
吹っ飛ぶドレイクのことは誰も心配しない。
「ゴイ姫さまぁ!」
そんな朗らかな昼下がりに、泡を食った村人が駆けてくる。
「なんじゃあ?」
「角ツキん来ょりやしたぁ!!」
村人が叫ぶ。
「角ツキ?」
グリシアが訝しげな顔をした。
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