第16話 採掘する武神

村から見える山を超えた先にある崖。

そこを進む4つの影。


「なんでフィゴー様がこんなことを……」

「なんかいいように使われたんじゃないんですかい?」

「こういうのも楽しいよ」

「旦那様ぁ! 案内はアチに任せるんじゃ! じゃけ、こン紐ぉ要らんのじゃ!」


ルロ、ドレイク、フィゴー、ミラルの4人だ。

ちなみにミラルの腰には紐が結ばれており、その紐の先はルロが握っている。


ここは、鉄の取れる鉱山。

ヘルメスとウォーガンの2人に鉄を取って来いと頼まれたのだ。


「赤っぽい石だったね」

「適当に掘り返しゃいいでしょう」

「いつもはどうやってるんだ?」

「知らんのじゃ!」

「……じゃあなんで来たんだ?」

「旦那様ン傍におるためじゃ!」

「案内はどうしたんだよ?」

「さん気にしたン負けじゃ!」

一行は賑やかく進む。



「この辺りかな?」

「やってみましょう」

「おう!」

キサラんじゃ頑張れよ!」

「「お前もだ!」」

適当にツルハシを振り回し始める。



「あらんじゃもーん!」

「やかましい! 黙って掘れ!」

「ないね」

「なかなか難しいもんすね」

ガンガンとツルハシを振るうことしばらく。

しかし、出てくるのは瓦礫ばかり。

それらしい鉱石は見つからない。



「も、もう腕が……」

「クソ! 硬ぇ!」

「………」

「あんまり出てこないねー。場所が悪いのかな?」

懲りずに掘り続けることしばらく、それらしいものもあるが、思うように集まらずにいた。


「うーん……もっと思い切った方がいいのかな?」

「「「はい?」」」

「そうだね。崖が崩れるのも困るかと思ったけど」

「「「え?」」」

「崖の目は見えたから、そこを避ければ、崩落もなさそうだ」

「「「はい?」」」


1人だけ涼しそうな顔のフィゴーが、ツルハシを肩に担いでトントンとすると、おもむろにツルハシを構えた。

何故か逆手のツルハシ。

何故か八相のような構え。

「「「何を――


――空気が変わる。

先程までチュイチュイ、ギョエキョエと鳴いていた鳥の囀りすらピタリと止む。


「「「―――」」」

その迫力に息が詰まるオトモーズ。

静寂ではなく、静謐。


1秒が1分にも感じられる程の緊張感の中、フィゴーがすーっと静かに息を吸う。


「――シッ!」

短い呼気とともに逆手に持たれたツルハシが振り上げられ、閃光が疾る。


――カーーーン!!――

崖にツルハシが当たったとは違う澄み切った高い音が響く。


「さ、ちょっと離れるよ」

残心を解いたフィゴーが、ゆったりとオトモーズを離れた場所へ連れ出す。


「「「………」」」

何が起こるか分かってるけど、いやまさかね?信じられないよね?というオトモーズがちょこちょことフィゴーの案内する方へ離れると、フィゴーを守るように前に立つ。


――コロッ――

その直後、フィゴーがツルハシを突き刺したその一穴から、カラリと岩が零れる。

「「「………」」」


――ゴロッ、ガラッ――

1つ、また1つと岩が零れると、段々その量が増えていく。

「「「………」」」


そして、崖がフルフルと震えだす。

まるで、巨人が叫びたいのを我慢して肩が震えているように。

――ゴガーーー!!――

そして、ついに咆哮が起きた。

「「「!?」」」


一穴から始まった崩落が、崖の中程まで進み、一気に土砂が崩れ落ちる。

「あれ? 思ったより激しい?」

フィゴーがコテンと首を傾げるなり、ふわりと宙を舞う。


「「「へ?」」」

自分たちの頭上を超えて舞い上がったフィゴーを狐に摘まれたような顔で追いかけるオトモーズ。


――ドンッ!!――

震脚。


右足を前に、腰を低く落とした姿勢で着地すれば、巨人の咆哮に負けない轟音が轟く。


それだけで崖より流れ出した瓦礫は、残らず綿毛のように、ふわりと宙を舞う。


「シッ!」

逆突。


気合とともに繰り出された一撃で、空を飛ぶ綿毛は、風に誘われたように一斉に向きを変えフィゴーの拳の向かう先へ流れる。

――ゴゴゴゴゴゴゴ――

そして、小高い瓦礫の山ができる。


「「「…………」」」

「うん。大丈夫だったね」

くるりと振り向くと、いつもの柔らかな笑顔を向けれフィゴー。


その場には、ぽっかり穴の空いた崖、ぽっかり口の空いた3人のオトモーズがあった。



☆☆☆



「こりゃあ……ゴッチじゃのお……」

〖カイツェル山脈の〗兎人族が長年掘り崩してきた崖にできた大きな穴と、瓦礫の山を見てウォーガンの鉢巻がずり落ちる。


「流石にこれを全部運ぶのは手間ですので」

「……そうじゃろのう」

「こんじゃ、カメん入れてまんま山ぁ運ぶのがええじゃろ」

切れた耳をぴくぴく動かしながらヘルメスが提案する。


「カメ?」

「ふん!!」

「おお、カメじゃ」

「どりゃあ!」

「石ぃから鉄溶かすンに使うんじゃあ」

「おおあ!!」

「アチが30人ぐらい入れンカメじゃ」

「でやあ!!」

「へえ、そうなんですね」

ところどころ混ざる謎の合いの手は、一行の隣で必死に壁に膝蹴りを繰り出しているグリシアたちである。

『なんか面白そう』と呼んでもないのについてきた暇人どもだ。

暇人どもはフィゴーが一撃で作った、高さ4メートル、幅3メートル、深さ2メートルほどの巨大な穴を自分たちも作ろうと暇人らしく頑張っていた。


「どがんしたン、こがいな穴ン空くんじゃあ!?」

「はい、もういいですから、村からそのカメを持って来てください」

パンパンと手を叩き、グヌヌ…と唇を噛むグリシアたちに仕事を振るフィゴー。


「ならん!! まだじゃうあぁ!?」

「はーい、もういいですからねー」

当然、言った程度で言うことを聞くはずのないウサミミたちのしっぽを掴んでポイポイ投げ、強制終了させる。



「使えそうな石もたくさんありますし、鉄が取れそうですね」

「こっからじゃけどな」

こうしてまともな鉄器導入の第一歩が踏み出された。



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