第15話 ダメな大人

森の中の拓けた場所にできた集落。

その集落の周りの余った場所にカチホの畑を作っている。

畑の作業は子どもの仕事だ。

中にはまだ畑担当なのに、ワガママを炸裂させて狩りに同行するダメな子ミラルもいる。


大人たちはもっぱら狩りと喧嘩だ。

昼間っから酔っ払って喧嘩してるか、徒党を組んで凶悪なモンスターを狩りに行く。


しかも、このダメな大人たちが真にダメたる所以は、その主食が、子どもたちが育てているカチホというところだ。


山脈のモンスターは大型なものが多く、肉はたくさん取れるのだが、美味しくない。

臭いのだ。


美味しい肉を持つモンスターもいるのだが、そういうのは小物で手応えがない。

つまらないので滅多に狩らない。


なので、〖カイツェル山脈の〗兎人族たちは結構、ベジタリアンだ。


「この辺、形は歪つぅじゃが、土地はよう肥えとるんです」

家から出たフィゴーとディアガは村の外れ、グリシアが畑と言い切る雑草の絨毯を指しながらディアガが説明する。

「ゴイてならして、辺りん伸びちゅう木ぃじゃ刈って、ほんもうちぃとちゃんとすりゃあ、カチホぉ倍は採れんと思んじゃ」

「なるほど」

「採れンカチホぉも、半分は茶ァにしちょうけん」

「……なるほど」

ディアガの頭の中にはやはり、構想が――構想と呼べるほどではないが、より暮らしやすくなるであろうイメージは持っていた。


「あっちの木ぃが邪魔しちょうです」

「ここからあの岩までは傾斜がありますから、こっちから溝を切れば水路は作れますね」

「ここン吹き溜まるぅ枯葉ぁば集めりゃ、もっと肥えるはずじゃあ」

「捨てられてるモンスターも肥料に使えるんじゃないですかね?」

2人が未だかつてこの村ではされたことの無い農地改革ただの開墾の話をする。


――スパーン――

「こら! 邪魔するな!」

手にもったハリセンを振るい、ギャラリーがフィゴーに腕試しを仕掛けようとするのを止めているのはルロだ。


逞しくなった。


「今は大事なお話し中だ!」

そんなルロのハリセンを掻い潜ってフィゴーに近付くしょうがないヤツを捕まえて投げ返すのはドレイクだ。


本当に逞しくなった。


「もう1回じゃ!!」

「へいへい」

ちなみに一番タチの悪い人は、ベッズが競射で釘付けにしている。


すっかり慣れたものである。



☆☆☆



「爪ン鉄で鎌ぁ?」

畑について大体話を終えたフィゴーは、今度は鍛冶屋に向かった。

ディアガとは別れている。


「なんでワシが鎌ァみてえな、ベッコ作らにゃならんのじゃ?」

頭に鉢巻を巻き、キセルを咥えたおじさん兎人族がフィゴーに苦ーい顔をする。

爪職人のコーネルだ。


この村で武器職人や防具職人は特別な地位を持っている。

ディアガとは話すらしない。

後、プライドも高い。


グリシアの言うことであっても、気に入らなければ逆らうのがこのスミスたちである。


「鎌っちゃんなベッコぉ打つんわ、ガキん仕事じゃ」

キセルの煙を盛大に吹き出す。

「子どもに打たせるにしても、鉄が要ります」

「鉄ンじゃもん、ガキん触るもんないじゃ!」

かあっ!と痰を吐き捨てるコーネル。

鉄はこの村でも希少だ。


「鉄がなかったら鎌が作れません」

「はん? お前みたいなニンゲンのノトに言わりぅこたなか」

しっしっとキセルを振るいフィゴーを追い出そうとする。

しかし、フィゴーは下がらない。


「従えないなら徴発しますよ?」

グリシアが自分より強いと認めたフィゴーは族長より強い権限を持つ。

フィゴーの強い言葉に、コーネルが目に見えて怯む。


「おお! やっちゃろん!!」

そして、怯むと折れなくなるのは、ウサミミたちの特徴だ。

啖呵を切ると、腕を組み、どんとその場に胡坐をかく。

コーネルに倣い、二人の弟子もその隣に座り込む。


「お前が、ワシん爪ぇ折るっちゃ言うじゃら、こン耳ん落としゃあ!!」

耳を落とす……つまり『切腹するぞ』と自分の命を盾にするコーネル。

タマを握らせろと言わない辺りが、いやらしい。



「いっそ、あの耳斬り落としたらいいと思いますが?」

ちょっとイライラしているのは、フィゴーの後ろに控えるルロだ。

「暴力は良くないよ、ルロ」

そんなルロに苦笑いを返すフィゴー。


『なぜそんなことをする必要があるのか?』というグリシアと、『そんなことやりたくない』というコーネルである。


ちょっと瞼がぴくぴくするほど怖がりながら腕を組んで座り込んだ職人を前に、フィゴーもさてどうしたものかと腕を組む。


「ワシらぁが手伝うちゃろか?」

「!?」

突然、後ろから声を掛けられビクゥっと驚くルロ。


「いいんですか?」

対してフィゴーは驚きすらしない。

フィゴーの気配察知能力は、神眼と武神の合わせ技により、この村の中のどこに誰がいるかは把握出来るほどになっている。


「なんじゃバレとるんか」

「お前さんの気配遮断が下手なだけじゃろ」

「なんじゃとぉ!?」

現れるなりやいやいと喧嘩を始めたのは、片耳が切れたおばあちゃん・ヘルメスと、耳に黒いブチが入ったおじいちゃん・ウォーガンだ。ウォーガンは元、膝当て職人である。


「老いぼれがなんの用じゃ!」

突如現れた闖入者にコーネルが吠える。


「お前がワケん分からんことハジェっとるけ、見に来たんじゃ」

「あんヘッチリが偉げぇなっとおのぉ」

気にせずフェッフェッと笑うご老体。


「手伝って頂けるというのは?」

色めき立つウサミミを気にせずフィゴーが問う。

「おう!そうじゃ!」

ウォーガンがフィゴーをへと向く。


「鎌ぁや鍬ぁやったらワシらでも出来んけん、やっちゃるぞ」

「なん!? なん勝手言うとんじゃ!?」

「勝手はお互い様じゃろ」

「やりたいやぁにやるんがワシら職人じゃけぇの」


「よろしいんですか?」

「ああ、ええぞ。鍛造するんは骨やが、鋳造やったら出来んじゃろ」

「年寄りの手慰みぃじゃ」


「よろしくお願いします!」

フィゴーは明るい笑顔で答えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る