第二章 発展の礎
第13話 父の悩み、息子の悩み
昼下がり。
窓の外は雨雲が垂れ込めている。
貴重な透明ガラスを透かしても光が少なく部屋は薄暗い。
「
窓から遠くを眺めながらため息を吐いたのは、キラル・ティ・ブルーレンス公爵。
執務が多い時は気にならないが、手が空くとふと思い出す。
カイツェル山脈の開拓へと送り出した三男で末子のフィゴーのことを。
たった4人のお供を連れて、魔境へ踏み出すことになった息子。
順調に行けば今頃は山脈の麓に広がる樹海を進んでいるはずだ。
しかし、正直なところ、生存は絶望的だと言わざるを得ない。
非力な青年奴隷。
料理の出来る老婆。
馬が操れる老爺。
得体の知れない犯罪者。
たったそれだけ。
山脈は愚か、到底、かの魔の森を通り抜けるには戦力が足りない。
6本足の怪牛。
嘴が4つに裂ける怪鳥。
8mを超える巨大熊までいるという。
他にも多種多様なモンスターが徘徊している。
せめてゴーレムの30は付けてやりたかった、と何度目か分からないため息を吐く。
それでもどうにかなるとは思えない。
あのバルトフェルトですら帰らなかった魔境なのだ。
聡明で穏やかな息子だった。
少々甘さが過ぎ、覇気が足りないと思うところはあったが、少なくともモンスターに嬲られるような最期を迎えるような逸材ではなかった。
「はぁー」
そして、息子の出立以来、すっかり塞ぎ込んだ母を思い出し、ため息が漏れる。
穏やかで、朗らかな笑顔の耐えぬ女だったのに。
今では近付けば仇のような目で見られる。
仇と思われても仕方ないのではあるが、弁明はしたい。
なんせ王命なのだ。
それも、逆らう術すらない、密室での王命。
「はぁー」
もう一度、笑顔が見たい。
空は重い。
☆☆☆
昼下がり。
抜けるような青空。
廉価の歪な色ガラスすらハマっていないただの窓穴からは、爽やかな草の香りが吹き込んでくる。
「二月かあ」
目の前の喧騒を見ながら呟いたのは、フィゴー・ティ・ブルーレンス公爵家三男である。
やることが多すぎて落ち着く間がないが、こうして一息つける時があれば、ここまでの道程を思い出す。
魔境の開拓という絶望的な王命は、実質的な処刑だ。
不憫なのはこの死出の旅に同行させられた仲間たちだろう。
しかし、この四人を付けてくれた父の恩情には感謝しかない。
暗殺術を習得したルロ。
剣の達人たるマルキニス。
不出世の射手ベッズ。
規格外の怪力を持つドレイク。
この四人がいなければ、山脈への到着はおろか、樹海を抜けるのも困難だっただろう。
6本足の怪牛、バルフィグは見た目は怖かったが、肉がたくさんとれた。しかも、見た目の荒々しさに似合わぬ、上品で柔らかく、得も言われぬ甘味のあるものすごく美味しい肉だった。
嘴が四つに割れる怪鳥、ランディル。こいつも見た目は不気味だったが、樹の上に群れを作って行われる『コロコロコロコロ~』という大合唱は、旅の無聊を慰めてくれた。
そしてペロタだ。
力持ちで心優しい愛嬌の塊だった熊は、今も元気にしているだろうかとその安否が気になる。また機会があればその背に乗せてもらって森を散歩したい。
今の暮らしも悪くない、ただ無事を届けたいとは思う。
優しく聡明だった母は、少し心の弱い所があったから、と。
「旦那さはぶっ!?」
物思いにふける隙をついて抱きつこうとする不審な影を取り押さえる。
気配遮断で極限まで気配を殺してから、抱きつきを敢行したのはミラルだ。
生殺与奪権を与えられてしまったため、身の回りの世話をしてもらっているのだが、決闘以来、変なスイッチが入ったようで、ことあるごとにくっついてくる。
あと、寝室に忍び込んで来たり、食事に変な薬草を忍ばせようとしたりと、色々賑やかだ。
「どうしたんだい、ミラル?」
「お食事ん用意ィできました!」
ニコニコ顔を見れば、随分と打ち解けたと思う。
最初は、親の仇を見るような目で睨んでいたのに。
「分かった。ありがとう」
今日の食事は何かな。
食事の質ももっと上げたい。
頑張らないと。
「あ!あの角のリヒタンさんとミヤさん、殴り合いになる前に止めて!」
〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎
※後書き※
おはようございます。
こんにちは。
こんばんは。
さて、第二章開幕です。
さあ!どうなるのか!
やっぱりさっぱり分かりません 笑
余談ですが、
何故か第4話が一番閲覧者数が多いです 笑
更に、8話より9話の方が見て頂いてる方が多い。
何が起こってるんでしょうか 笑
また次話でお会いしましょう。
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