第12話 開拓の始まり

「出来たんじゃ!」

鍋から汁椀へトロリとした汁をよそうと、それを持って小躍りするモコモコの耳をしたウサミミの女の子。


「こいぞ旦那様もゴッチャりじゃ」

ポンポンのようなしっぽを揺らしニコニコする様はとても微笑ましい。


――汁椀から黒い煙と悪臭が上がってなければ。


「……ミラル、アンタ、フィゴー様を殺す気かい?」

シュッと汁椀を取りあげたマルキニスは、その汁椀の中身を躊躇なく捨てる。


「ああ! アチの特製子沢山汁が!?」

悲鳴を上げるミラル。


「何しょんじゃあクソババっ!!」

「クソババもへったくれもないよ! あんな怪しいモン、フィゴー様に出せるわけないだろ! なんだい子沢山汁って!」


ミラルはぐわーっとマルキニスに襲いかかるが剣の間合いであればマルキニスに一日の長がある。

「きゃうっ!」

腰から抜いた木刀で、躊躇なく叩き伏せる。


納得するためだけに殺し合いを必要とする野獣に主従関係を作るには、容赦してはいけないのだ。

この数日、マルキニスは身に染みて痛感した。


「フィゴー様は今、グルシア殿とカイツェルの開拓についてお話し中なんだ。変なことするんじゃないよ」

「変じゃなか!」

ぴょんと跳ね起きると、ぷくぅっとほっぺたを膨らませるミラル。

「この汁でアチは旦那様をゴッチゴッチにするんじゃ!!」


「ああ! もうこっちはいいからベッズのトコで掃除しといで」

「えー? アチは料理がええん……

「やかましいよ!」

口答えするミラルに木刀を振りかぶるマルキニス。

「は、はーい!」

ぴょんと耳を立てると脱兎のごとく駆け出すミラル。


「ったく、変なの押し付けられたもんだよ」

敗けたミラルはもう村に居場所がなくなったため、勝者たるフィゴーの下働きとしてオトモーズの一員へ加えられたのだった。



☆☆☆



「開拓っちゃ何すんじゃもん?」

フィゴーに与えられた家の中。

ピアスのついた耳を揺らしてグリシアが尋ねる。


「行程はいくつかあるんですが」

「お前んちゃガッチャを顎で使うんじゃ。国王っちゃどげほどガッチイんじゃろなあ」

耳がわさわさし、目がキラキラしている。

フィゴーの話は当然聞いてない。


「国王陛下は武人ではありませんよ」

「……ん?なんじゃ?」

耳がピっとルロを向く。

もう一度わさわさした後、改めてルロの方を向く。


「いえ、ですから国王陛下は武人ではありません、と」

「なんでじゃ!? したらフィゴーほどのガッチャがヘッチリに使われとぉ言うんか!?」

「いえ、僕も武人ではないで…

いくさじゃあ! おい、誰ぞ!! ワシん爪と膝ぁ出せえ!!」

グリシアが叫ぶ。

「「「へい! ゴイ様!!」」」

すると周りに控えていた〖カイツェル山脈の〗兎人族がぴょこぴょこと耳を出す。


「フィゴー! 戦じゃ! ワシらがお前を王っちゃヤツにしたるけえの!」

「「「へい! ゴイ様!!」」」

〖カイツェル山脈の〗兎人族にとって強さとは絶対だ。

弱者は強者に従う。

逆はない。

その理を無視する輩は、総じてゴミである。


後、暴れるのが好きである。

「カチコミじゃあ!!」

「「「へい! ゴイ様!!」」」

「待って!!」

すぐに動けた4人だけで一国に躊躇いなく殴り込みを掛けに行く命知らずたち。


「国王たら言うんヘッチリん首ぃカチホの肥やしぃすんじゃあ!!」

「「「へい! ゴイ様!!」」」

「待ってって!!」

カチホはこの村で育てられいている〖カイツェル山脈の〗兎人族の主食の草である。


「行くぞぉ!!」

「「「へい! ゴイ様!!」」」

「待ちなさいって!!……止まれえええ!!!」



☆☆☆



祖父じじぃが使ぉとんを見たことはあったが……」

鼻の頭に土をつけたグリシアがおののく。

「残滓と空蝉を組み合わせた究極奥義・川獺かわうそ……」

暴走が始まった〖カイツェル山脈の〗兎人族すらも黙らせたのは、8人に分身したフィゴーだった。


残像を作るのが残滓。残像に本体を出入りさせるのが空蝉。

この二つを組み合わせることで分身すべてが本物になるという川獺である。


カイツェル山脈への入植?を果たした、グリシアの祖父、兎人族史上最強の凶悪犯、理性がないとまで言われた狂人、ハリー。

そのハリーをして、『ウチの孫、ちょっと怖い』と言わしめたのがグリシアだったりするのだが……。


それはともかく。

ハリーを最強たらしめた究極奥義がこの川獺だった。


「とりあえず! 王国への攻撃は無しです! いいですか!?」

肩で息をするフィゴー。川獺は体力の消耗が激しい。

「「「「はい!!」」」」

いい返事をする狂ったウサミミたち。

強者の言うことは絶対である。


「開拓です。僕は開拓をしに来たんです」

「「「「はい!」」」」

「本来、開拓の一歩目は道を作り、街を作ることですが、すでに村がありますので、まずはこの村を生活しやすいよう住環境を整えます!」

「「「「はい!!」」」」


こうしてフィゴーは〖カイツェル山脈の〗兎人族の村を治める立場になった。





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後書き

おはようございます。

こんにちは。

こんばんは。


ここまでご覧いただきありがとうございます。


無事に第一章終了です。

念の為ですが、うさ耳さん達の言葉は適当です。どこの方言とかもないです。

フィーリングとか雰囲気って大事だと思ってます 笑


次は第二章。いよいよ武力の平和利用が始まる!といいなと思ってます笑

が、今から書くのでどう転ぶか分かりません 笑 プロットとかよう作らんし。作れる人凄いですよね。



さて、余談ですが……

フォロー率3割オーバー(第1話を130人にご覧頂いて、フォロー40人)って凄くね!?と作者はひっそり喜んでおります(ㅅ´꒳` )感謝

……第一章完結記念で星も付けて欲しいなぁって|´-`)チラッ笑


また第二章でお会い出来るのを楽しみにしております。

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