第11話 オトモーズは元気です(今は)
村の端。
「なかなかええのう!」
「そうか?」
巨体に隻眼のドレイクが眼前の岩に繰り出す膝蹴りを見て、がっしりした体格の〖カイツェル山脈の〗兎人族ベルガが褒める。
「動きがトロいけえ、当てんが難儀やろが、当たりゃあなかなかなもんじゃ」
「おめえらみたいに飛び込めねえからな」
「盾が使えるんじゃけ、そいで動き押さえりゃいけんこたなかろうがや」
そう言うと、細かなフォームの改善点を丁寧に教える。
「ここで、腰ぃ切るんじゃ!」
「ふん!」
「そうじゃ! 右足ぃの小指しっかり踏め! そうじゃ! ええぞ!」
「ふん!」
とても、むさ苦しい。
☆☆☆
井戸の傍。
「緑を感じるんだ」
「緑……」
「草には草の流れがある」
「流れ……」
ポエミーなことを言うのはユノ。
その隣で戸惑いを隠せないのはルロ。
「気配遮断は、遮断じゃない。同化だ」
「同化……」
「岩の影にいるのなら、岩の呼吸と合わせる。草の中にいるなら草の流れに体を合わせる。川に入るなら川の体温を感じるんだ」
ユノの情熱は感じるが、言ってることはさっぱり分からない。
ルロは【忍足】を習熟させるため、先んじているユノにそのコツを習っていた。
「ほら、星を見上げてごらん」
空を見上げれば清々しい青空が広がり、白い雲が穏やかに流れている。
「星の瞬きは命の揺らめきと等しいんだ」
「??」
「そう! 素直に感じるんだ」
「……何を?」
「ふふ。簡単なことさ月明かりを浴びる月光草は、月明かりの下で光るだろ?」
「……そうですね」
だって、そういう草である。
「それと同じさ。さ、やってごらん!」
キラキラした笑顔で勧めてくるユノの話を聞きながら、ルロは思った。
『聞く人間違えた』
☆☆☆
石壁を直したばかりの家の前。
「鋭いけど切れ味はそうでもないんだね」
「刺すもんじゃけえの」
ダガーネイルを装備したマルキニスがその刃を触りながら感想を漏らす。
それに答えるのは、右耳の先っぽが欠けたおばあちゃん兎人族だ。
名前はヘルメス。
「鉄に
ヘルメス嫗はダガーネイルの職人だった。
体力が落ちたため現役を引退しているが、その知識は健在である。
「かためいし?聞いたことないね」
「ないじゃろな。山にしかあらんじゃろん。目が細こぉて整った砂礫岩じゃ。練ると鉄が
「この長さをモンスターにぶっ刺すんだからね、硬くないと無理だわな」
「鹿の角は粘り気ぇじゃ。ナニのガッチイ
ふぇっふぇっというヘルメスの笑い声が不気味だった。
「
何を思い出しているのか何とも言えない顔をしている。
「……使いにくいね、やっぱり」
ヘルメスを見ないようにして、手にはめたダガーネイルを振り回すマルキニス。
「マタグラぁなら作れんぞ」
「マタグラ?」
「おう! 手ぇに持って突っつき回すんじゃ」
「レイピアみたいなヤツかね?」
「ガキんベッコじゃけ
そう言うと、ヘルメスは蔵の方へと歩いて行った。
「アナホリシカねぇ………一度見てみたいもんだね」
不敵に笑うマルキニスだった。
☆☆☆
「もう一回じゃ!!」
「もういいんじゃないですかい?」
キーっと耳を振り回しているのはグリシア。
呆れた顔のベッズ。
「ならん!!」
「もう100回以上やってますぜ?」
「たったん100じゃ!」
手に持った弓を振り回すグリシア。
その50メートルほど先には、雑な木の板が立っており、そこには数本の矢が刺さっている。
「1000でも2000でも勝つまでやるんじゃあ!!」
ふしゃーっと尖った牙を剥くグリシア。
「さっき勝ったじゃねえですかい」
「勝ったんちゃうじゃろ! お前がグリに負けたんじゃ!!」
二人がやっているのは、漫才ではない。
競射だ。
5本ずつ射て、遠くの的にどちらが多く矢を当てるかという簡単な遊びである。
遊びであるが……
「わしゃ負けんがドンセ好かん!!」
グリシアの負けず嫌いが爆発していた。
ベッズは【百発百中】の天職を持つ、生粋の
対するグリシア…というか〖カイツェル山脈の〗兎人族は、『無理やりでも近づいて殴る』という超近接戦闘に特化しており、弓矢そのものが触るのが初めてというレベルだ。
勝負になるはずがない。
最初は、『おい、じじい! ワシん弓ィ教ええ!』とか言っていたグリシアだが、目を瞑ってても話しながらでも当てるベッズと、狙っても狙ってもほとんど当たらない自分との力量差に募ったイライラが爆発し、いつの間にやら勝負になっていた。
更に――
「ゴイ様ぁ! ビシイッと決めてつかあさいや!!」
「そげんジジイ、ぱっとチョセぇてくだせえ!」
――などなど、ギャラリーが煽るので余計とヒートアップしている。
ちなみに勝負が始まってもう4日目、流石にげっそりしているベッズである。
☆☆☆
ユノたちに会って以来、ずーーーっと息を殺し、殺し過ぎてチアノーゼみたいな顔をしていたオトモーズだったが、最近、村人たちとも仲良くなり、笑顔も見られるようになって来た。
村人と交流を深める4人を見ながら、穏やかに微笑むフィゴーだった。
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