第6話 ツワモノの足跡

――ぎぃええ――

――ぎゅのぉぉお――

――フィディイーー――

樹海は抜けたが森は続く。

時々響く奇妙な鳥?多分鳥の鳴き声が不気味だ。

「おや?なんかありやすぜ?」

馬を操るベッズが何かに気付く。


ベッズ、マルキニスの老人組が馬に乗り、フィゴー、ルロ、ドレイクの若者3人が歩いている。


ちなみに家はペロタに乗る時に捨てて来た。

代わりに巨大な荷物を背負っている。

忠犬としては度し難いが、『一番効率がいいんじゃない?』と言われれば反論の余地がない。


「ゴーレム?」

ベッズが見つけた何かに近付くと、それは壊れて廃棄されたゴーレムだった。


「先の開拓大隊のかな?」

「そうでしょうね」

頷くルロ。

その顔が青い。

「大破しておりますね」

馬から降りたマルキニスがゴーレムを触る。

魂の抜けた巨大な土人形は、胴体と言わず顔と言わず物の見事にベコベコに凹んでいる。

後、手足もネジ切られたような痕だけ残して無くなっている。


「このゴーレム、デカくねえか?」

ドレイクが呟く。

普段、よく使われるゴーレムは、2m強程度。

しかし、このゴーレムは3m近くあるように見える。

「屯田兵仕様のパワータイプだね」

貴族としてゴーレムに関する知識が必須なフィゴーが答える。


「あっちにもありやすぜ」

そっちを見ればそこにもゴーレムの残骸。

よくよく見ればあちこちに残骸。

どれもこれも無惨な有様だった。

光の消えた目が恨みがましく見える。

大隊の全滅は知識として知っていたとは言え、実際に残骸を見るとショックは大きい。


「通常兵より頑丈な屯田兵のセラマックス装甲がこんなにベコベコになるなんてね……」

ゴーレムが兵器として確率した最大の要因、それがセラマックスという新素材だった。


かつてゴーレムは『重い、脆い、ショボイ』という残念のトリプルアクセルだった。

これに『高い、ダサい』を加えて、クエンティプルアクセルと呼ぶ人もいた程である。


その常識をひっくり返したのが夢の新素材セラマックスだ。

軽く、強く、魔力伝導率が高いため、様々な機能を付加することが出来る。

更に安価で量産が可能で、加工もしやすいまで来たものだ。

以前は卵に短い手足が生えたようなずんぐりむっくりだったスタイルが一新、長い手足にコンパクトな頭の付いた、より人型に近いスマートなシルエットになったことで機動力が爆上がりし、スタイリッシュな装備も獲得したことで戦術の拡充を得た。


その効果は劇的で、当時の戦場の花形だった五元魔法使いを絶望の谷底に叩き落し、トドメとばかりにボディプレスを食らわせたのである。


かくしてゴーレムは一躍戦場のヒーローとなったわけである。


余談だが、セラマックスの開発は続いており、登場時より更に高負荷に耐えられる素材へと進化している。

その派生は多岐に渡り、専門的には様々な呼び方がされているのだが、一般的にはセラマックスとひとまとめに呼ばれている。

専門家にこの話をうっかり振ってしまうと、終わらなくなるので要注意である。


「草や木に呑まれてますが……」

ルロがキョロキョロと辺りを見渡せば、そこかしこにゴーレムの残骸が散らばっている。

「20や30はございますでしょうか」

マルキニスが言葉を引き継ぐ。


どれもこれもぐにゃぐにゃのベコベコのブチブチになっている。


「開拓大隊に同行したゴレミスト操作者は200人。帰ったのがわずか10人だったと聞くけど」

「腕利きのゴレミストが壊滅ですかい……」

「国を代表するエリートたちが、だからね」

言うと、フィゴーは右手を真っ直ぐ上げ、左肩、右肩を順に触り、胸の前で指を組んだ。


フィネル教での死者への弔いの儀である。

ルロ、マルキニス、ベッズもそれに倣う。

ドレイクは1人、剣を胸の前に掲げた。

これはかつて戦場で行われていた戦士への弔いである。


「なあ坊主、1つ疑問なんだが?」

瞑目を済ませたドレイクが口を開く。

「なんです?」

「……このゴーレムは……誰が?何が?やったんだ?」

「「「……」」」

ん?と固まるオトモーズ3人。


「うーん?ここまで壊せるって相当だよね。やっぱりカイツェル山脈に住むモンスターじゃないかな?どんなのかは分かんないけど」

小首を傾げるフィゴー。


「……俺もそう思うんすよ。だとしたらですよ? そのヤバいヤツらは、どこにいるんですかね?」

「うーん、そりゃやっぱりこの辺りに縄張りがあったりするのかな? あれ?」

「「「「……」」」」

フィゴーの言葉に反応したように、白い影がサワサワと揺れた。


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