第4話 オトモの実力
「ぶもぉおおお!!」
ダカラッダカラッと大きな土煙を上げて爆走する黒い牛。
角が8本あり、脚は6本ある。
バルフィグというモンスターである。
爆走するバルフィグの前に立つ巨大な人影。
盾を構えたドレイクである。
「ふぬりゃあ!!」
分厚い鋼鉄の盾をバルフィグの頭をかち上げるように下から叩きつける。
「ふぇみょお?」
まさかの反撃にバルフィグの頭の周りをぴよぴよとヒヨコが飛び回る。
「やあ!」
その隙を突いて背にヒラリと飛び乗る細い影。
ルロである。
その手には、肉厚なナイフが握られている。
「せい!」
両手でナイフを振り掲げると、勢いよく牛の頚椎へ振り下ろす。
「ぶみぃ!?」
ザカザカと6本の脚が土の上を滑ること3度。
巨大な牛がズドンと横倒しになる。
「大物だな!」
「さあ! 血抜きして処理しましょう」
ハハハと肩を叩き合う2人。
〖怪力〗の天職を持つドレイクが自慢の膂力で獲物を止め、〖
人の姿に慣れていないカイツェル樹海のモンスターたちは、獲物とばかりにドレイクの巨体に襲いかかっては、見事に返り討ちにあっている。
「いやあ!最初はイケすかねえもやし野郎だと思ってたが、なかなかどうしてやるじゃねえか!!」
「ハッハッハ!こちらこそ最初は脳筋下品な下劣下等筋肉だと思ってましたが、意外と頭にも血が回ってるじゃないですか!」
「ダーッハッハ! ひでえ言いようだな、おい!」
樹海に入って10日。
ドレイクとルロは仲良くなっていた
「なかなかいい大きさじゃないか。さて、さっさと捌いちまうよ」
後ろからカポカポと1頭の馬にベッズと2人乗りでやってきたマルキニスがひらりと馬から降りる。
そして、身の丈程もある巨大な包丁を構える。
「血の匂いに釣られたヤツらは、ワシが片付けときやすぜ」
馬に跨ったまま弓を構えるベッズ。
〖上等剣士〗の天職を持つマルキニスが、巨大な包丁を軽やかに操れば、冗談のようにバルフィグの皮が剥げ、身が切り開かれていく。
恐るべきは全く血が出ない。
「どんどん吊るして行きな」
「おう」
「はい」
ドレイクとルロが切り分けられた枝肉を吊るすと、無造作に刃を突き立てる。
すると、思い出したようにドボドボと血が落ちてくる。
「何度観てもおっかねえ技量だな」
「なに、50年も包丁振ってりゃこうなるんだよ」
ふぇっふぇっふぇと笑う巨大な包丁を持った老婆。
かなり怖い。
「ベッズ翁も大概かと」
ちらりと横目でベッズを見るルロ。
「そりゃ、ほい、それ、うりゃ」
その横で、ヒュンヒュンと無造作に矢を放つベッズ。
その度に、奇妙な悲鳴が森に響く。
〖百発百中〗の天職を持つ天才弓術士、それがベッズである。
2人とも生まれた時代が後200年早ければ、吟遊詩人の題材にされ、今世まで語り継がれたであろう逸材だった。
今世では武人の戯曲は人気はないが。
「うわあ、大きいねー」
トコトコと遅れて到着したのはフィゴー。
「あの、フィゴー様、申し訳ないですが、あちらに」
別人のようにかしこまるドレイク。
「この辺りは血の匂いに惹かれて魔物が集まりますから。こちらへ」
ルロが慌てて案内する。
「あ、分かったよ。ありがとう」
「「「………」」」
フィゴーを見送る3人。
「……あの体で信じられないね」
「〖剛力無双〗ってヤツですな」
「ひ弱な坊ちゃんだと思ってたのに」
トコトコ歩くフィゴーだが、その後ろ手で『家』を引き摺って歩いている。
最初の広場に仮設した丸太小屋。
それをいちいち建てるのはめんどくさいという理由で、なんとそのまま持ち運んでいる。
ちなみに既にフィゴーは木を切るのに刃物すら必要としない。
歩きながら邪魔な木をヒョイっと足蹴にすれば、バキっと折り倒すことができる。
その倒れた木を片手で無造作に掴んでポイっと放り投げれば、唸りを上げる丸太が目の前の森をへし折って飛んでいく。
すると、あっという間に向こう300mぐらいの道が拓ける。
そうして出来た道を丸太小屋を引きずりながら歩くのである。
5人は知り得ぬことであったが、かつて重ゴーレム大隊は樹海の攻略に3ヶ月掛かった。
「樹海も初めて見た時はどうなるかと思ったけど、案外何とかなるもんだね。みんなのおかげだよ。ありがとう」
5秒で作った広場に設置した丸太小屋の中で、バルフィグのステーキを流石の所作で上品に食べながらニコニコと話すフィゴー。
いやあ、と曖昧な返事を返す面々。
そうして、一行が樹海を抜けたのは、樹海到着からわずか2週間後のことであった。
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