28 瀬田 理陽


“南 総合病院” か...

霊視って すごいなぁ。部屋番号まで教えてくれたし。

南 ってだけ言った... ってことは、ここの市内の南区のこと なんだろうし、この前 マイカちゃんに会った駅の近くなのかな?


カイリと 一緒にお礼を言うと、トモキくんは あくびをしながら

『おう』って返してくれて

『姉ちゃん、自分から鬼神に乗ったんだって?

サミーから聞いたんだけどよ』って聞いた。


この、“姉ちゃん” って、凪さんだよね?

昨日も そう呼んでたし。

“サミー” とか “サム” って呼ばれてる人は、サングラスに黒スーツの サマエルさんっぽい。


ニガイ顔で「はあ... 」って頷く カイリの隣で、あれ? 霊視ってやつで、凪さんを視なかったのかな?... とも考える。

スミカくんのことは視たみたいなのに。


『ちょっと、視ていい?

昨日の夜のことだけ』


カイリに聞いてる。

あぁ、そうか!

緊急とか以外の時は、こうやって相手に許可を得てから、霊視?するんだ。

なんか いい。うん、いい人なんだ。


戸惑ってるカイリに代わって、オレが

「はい」って返した。

立ったまま見下ろす形になってるのもなんだし、床に座らせてもらうと、ハッとしてる カイリも座った。


『瀬田 理陽くん、まだ 24か...

いや ごめん。

鬼神のとこと、姉ちゃんのとこ 視るな』


オレを視てる トモキくんの眼は、虹彩が やたらに黒い。カラコンかな?

シュッとした印象の眼にかかってる黒髪と同じくらい。

っていうか、ちょっと見ないくらい カッコいいなぁ... この人。モデルかなにか とか?


『... うわ て! なんだ こいつ?』


「えっ?」

「あの、トモキ君?」


突然の声と、胸の高さまで上げられた両手に驚いてると

『ん? あぁ、ごめん。手ぇ痺れた。

オレ、追体験型だからよ』って言って、また オレを視ることに集中しだした。

追体験型 って... オレの経験を体験する ってこと?

じゃあ、鬼神の腕 掴んだところを視たのかな?


『こいつ、常夜の闇も解いちまうのか... 』


すごい。本当に視えてるんだ。


感心してる間に、トモキくんは眉間にシワを寄せて

『... 姉ちゃん、マジか』って、オレから視線が外れた。

切なそうだし、落ち込んでるようにも見える。


『ごめん、ありがと』って言った トモキくんに、カイリが

「あの... 凪さんの弟さんは、家出しちゃってるとか、行方不明か何かになってしまってるんですか?」って聞いた。


『“家出”... ?』


黒い光彩の眼を上げた トモキくんは

『いや、ちけぇのかな?』と 少し笑って

『ちょっとな。カミサマがたにも手が届かねぇようなところに行っちまってるんだよ。生身でな』と 答えてくれたけど、それって どこなんだろう?

生身 ってことは、生きてるんだよね?

なのに、神さまでも なんて。


『もちろん、鬼神とかにも あいつを連れ戻すのはムリ。

姉ちゃんは、サミーが留守なのをいいことに、鬼神に自分の精気と契約を結ばせて、ある意味 鬼神を縛ってるようなもんだな』


叶えられないって わかってる願いで、鬼神を釣ってるのかな?

でも、それに気付いた鬼神が 凪さんの精気を諦めて、他の人をそそのかしたら... ?


そういうことを聞いてみたら

『いや。簡単には反古に出来ねぇと思うぜ。

騙されて使われちまった大島くんと違って、姉ちゃんは、ハッキリと言葉で契約を交わしてるからな』だって。


『大島くんの場合なら、鬼神が 一方的に騙してるだろ?

大島くんは 唆されるまま流されちまっただけで。

けどよ、もし大島くんが 流されちまってなかったら、鬼神は、“コイツ使えねぇ... 他のヤツにするか” って、勝手に引くことも出来たんだよ。

姉ちゃんの場合は、“足 賭けて 約束してんだろ。叶えろ” って、逆に鬼神を縛ることが出来る』


えっ、そうなんだ... 凪さん、すごいなぁ。


『ただ』


ん?


『姉ちゃんに縛られたままでも、他の部位を 他のヤツから奪うことは出来んのかもしれねぇけど』


えぇー...


『大島くんの時は 一人だった鬼神が、黄泉軍を取り込んで 複数人になってる... とも考えられるしよ。

キミサマの相手をしながら、すぐ後ろで 誰にも気付かれずに、姉ちゃんを唆そうとしたくらいだからな』


それ、こうしてる今も ヤバいんじゃないのかな?

切実な願い事がある人なんて、いっぱい いるだろうし...


「どうしたら、いいんですか ね?」


カイリが聞くと、トモキくんは

『な』って返してきた。


5秒くらい無音になった上に

『相手は得体の知れねぇヤツと黄泉軍の人らだからな...

式鬼も効かねぇし、親父が伊耶那美命の お社に付きっきりになってるから、オレか透樹の どっちかは神社から離れられねぇしよ』って、お手上げ宣言されちゃってる。


『けどよ、もし誰かが どこかの部位 取られても、姉ちゃんからは取れんぜ。

鬼神は不完全なまま ってことだ』


「でも、両腕だけの不完全でも、あの強さでしたよ... ?」


『だな』


また無音の間。

これって、本当に “手に負えない” ってことなんだろうなぁ...

カイリ、この場面で よく トモキくんと見つめ合ってられるよね。すげー。


『とにかく、黄泉軍の正体はハッキリしてるだろ?

黄泉の人たち。伊耶那美命の配下だ。

鬼神は 元々は何なのか が 判れば、解決の糸口にはなるかもな。

たとえば、元通りに “鬼神と黄泉軍を分ける” とかのよ』


うん、そうか。そうだよね。

カイリも、“おぉ!” ってカオになってるし。

あれ?... 元々 鬼神のことを調べてみるつもりで、トモキくんに場所を聞きに来たんだった。

まぁ、いろいろ教えてもらえたし、方向も間違ってなかった ってことで。


『でさ、式鬼は効かなかったけど、半式鬼は付けれたんだよ。多分だけど』


半式鬼ハンシキ っていうのは、ひとつの式鬼神シキガミ?を半分に分けたもので、半分を追いたい対象に付けとくと、もう半分で追跡が出来るんだって。


「それなら、鬼神の居場所も判るんですか?」


カイリが聞くと、トモキくんは

『おう。半式鬼に追わせればな。

元の ひとつに戻ろうとするから』って頷いたけど

『ま、けど、キミサマの指令待ちだな。

今 追っても何も出来ねぇし、姉ちゃん狙って 向こうから来るかもしれねぇしよ』ってことらしい。


『病院 行ってさ、何か判ったら、こっちにも報せてもらいてぇんだけど』


「あっ、はい。

俺か リヒルくんが お報せします」


『おう、頼むわ。

じゃ、オレ もうちょい寝るから』


ってことで、トモキくんの お部屋からは お暇したんだけど、出る時に

『姉ちゃんの弟 ってな... 』って 言ってて、オレも カイリも振り返ると

『いや、わりぃ。何でもない。おやすみ』って、横になって、壁に向いてた。




********




「ここ か... 」


トモキくんの部屋を出ると、一階のリビングで トモキくんたちの お母さんと 小一こいち時間くらい お話をして、今は、南 総合病院の前。


場所を思い浮かべようとしても、どこにあるのか分からなかったから、スマホで調べた。

生前と変わらず、便利だよね。


カイリが ニガイ顔してるし

「来たことあるの?」って聞いてみたら

「いや。俺じゃなくて、今田が な... 」って落ち込んでる。


今田って、マイカちゃん?

じゃあ、お見舞いか何かで来たのかな?


そう聞いてみると、カイリは首を横に振って

「俺が取り憑いた時、今田は ここに運ばれてたっぽい」とか言うんだ。うわぁ...


でも「なんで わかったの?」って聞くと

「なんかさ、残ってるんだよ...

薄っすらとだけど、原沢... あ、今田の友達な。高校の同級。あと、その彼氏たちの焦りとか、恐怖心とかが... 」なんだって...

うーん... オレは何も感じないけどなぁ。


そう言ってみたら

「それは、リヒルくんに関係することでも、知ってる人でもないから なんじゃないか?」って返ってきたから、そういうことにしとこう。


「これって、残った “念” ってやつなのかな?」


さぁ... ?

首を傾げて答えたけど、だったら カイリは、マイカちゃんたちに 相当 怖い思いをさせたっぽい。


んっ? いや、もしかして これが...

「“ハク” ってやつなんじゃないの?」って言ってみたら

「いや。魄は、死人が地上に残すもの って、大神様が言ってた。

だから、ここに残ってるのは念だ って思う。

俺たちみたいな霊からしたら、生きてる人の念の方を強く感じるだけなんじゃないのかな?

肉体っていうヨロイがないから」だって。

うーん、そうかぁ...


「それに 俺、トウキくんに祓われて、サマエルさんの試練?にも合格したから、月の宮に上がれたんだ。

すっきりしてるし、だから俺の念とか魄とかは もう...

あれ? 今田たちも、みそいでもらったんだよな?

俺のけがれを」


祓われたり 試練とかって、本当に何したんだよ、カイリ...


でも まぁ、あまり触れたくないし

「だから、カイリの考え方でいくと、マイカちゃんたちの念 っていうか、記憶みたいなもの が、この病院にあるんじゃないの?

“怖い思い出” としてさぁ。

マイカちゃんたちは生きてるじゃん?

だから、それが まだ消えてなくて、カイリには分かったんじゃない?」って、その事件内容とは 少しズラした方向に 話しを持っていってみた。


そしたら真面目な顔で

「リヒル君と、こんな話するなんて、な... 」って言うから、「ね」ってだけ返す。


「とにかく、俺のことじゃないんだよな。今は」


「うん、そう。鬼神のこと。

手がかりを探しに来たんだから」


気持ちを切り替えたらしい カイリと、やっと病院に入ることになって、とりあえず、スミカくんの お母さんの病室を訪ねてみることにする。


「305号室だったよね?」って、病室の番号を思い浮かべて 移動しようとしたんだけど

「あなたたち、外出許可は?」って...

看護師さんの霊に捕まってしまった。

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