27 及川 浬
草原の真ん中を悠々と歩いて行く月影に乗った大神様の背が遠ざかって、見えなくなると、浅黄君に向き直って、さっきのリヒル君の非礼を お詫びした。
「いや、良いのだ!
最近は、ルカやら何やらで慣れておる故」と、リヒル君にも微笑ってくれてるけど、まったく。
初対面で失礼過ぎるよな。
「あの、オレも...
なに考えてたのか わからなくて... 」
リヒル君も頑張って謝ってみてるけど、あの行動の意味が お前に分からないなら、誰にも分からないだろう。
「浅黄さんが、狐さんの時もカッコいいからじゃないですか?」
「おぉ、柚葉。おべっかなど覚えたものか?
あまり現世に降りぬ方が良かろうの」
笑い合ってるし、リヒル君も少しホッとしてるみたいだ... けど、浅黄君の眼が リヒル君に向いた。
何故か見つめられている。
「あ... やっぱり、あの... 」
リヒル君、“怒ってますか?” って聞きたいんだろうな。
代わりに聞いてみたら、浅黄君は
「いや、すまぬ。違うのだ。しかし... 」と 首を傾げている。
そして
「付かぬ事ではあるが、死した際も
どういう意味だろう... ?
リヒル君もキョトンとしてるし、代わりに
「はい。もうちょっと痩せてて、不健康そうだったんですけど、俺が迎えに行ったんです」と答えると、浅黄君は
「うむ、そうか... 」と、どこか腑に落ちない って顔で「いや、辛い事を。すまぬ」って話を打ち切った。
「しかし、鬼神とやらが
黄泉の事は、俺も ようは知らぬが」
話を変えてくれようとしてるんだろうか?
いや、今は この話をするのが正解なんだけど、月の宮に居ると穏やかな気分になってしまうんだよな。
「黄泉軍様等は、
「はい。
道祖神さまでもあった お地蔵さまのことも考えると、動ける範囲が限られてるみたいですけど... 」
あ。柚葉ちゃんの方が対等に話せてるな。
リヒル君は ともかく、俺より全然。
「あの... 」
あれ?! リヒル君?!
「じゃあ、鬼神が スミカくんに目を付けた場所... って考えられる、スミカくんの お母さんが入院してる病院に行ったら、なにか わかる... かな? って... 」
尻窄みになっていったけど、浅黄君は
「うむ。元は、力無き霊の如し であったが、人霊とは何か
鬼神となった者が何者であったのか、何かしら得られるやもしれぬ」と 頷いた。
俺、リヒル君に負けてるのか...
「だが
つい「あの、“里” って 何ですか?」と聞くと、浅黄君の様な狐も暮らしている場所らしい。
神隠しが かかってるし、今はジェイド君が
そんな場所、本当にあるんだな...
榊さんも狐 っていうのにも驚いたけど。
天女様か何かなんだろうと思ってた。
「オレ、行って来ます。カイリと」
あっ... 俺も立候補しようと思ってたのに、ちょっとだけ脱線してる間に、リヒル君に先を越されてしまった。何か悔しいな...
「えっ、おふたりで ですか?
私も行きましょうか?」
心配されてるよ、柚葉ちゃんに。先輩だけどさ...
でも浅黄君が
「いや、柚葉が居らねば、万が
榊であれば、高天原に昇り、黄泉へ下りる事も
「じゃあ、行って来ます!」
リヒル君に先を越される前に言って
「うむ。しかし、間違うても鬼神に近づく などはせぬが良かろう。
「ほら、行くよ」と、リヒル君の腕を掴む。
大木の向こう... 蒼白の星の河へ飛び込んだ。
「ねー、カイリー」
蒼白の瞬きの中で呼ぶ リヒル君に顔を向けると、アッシュがかったピンクブラウンの髪を緩やかに揺らしながら
「病院って、どこの だろうね?」と、軽く眉根を寄せた。
********
『南 総合病院。305号室』
「あ、はい... 」
「ありがとうございます... 」
雨宮さんの お宅に居る。
目の前、ベッドに座って ムスッとしているトモキ君は、お兄さんの透樹君と交代での仮眠中だったようで、邪魔をしてしまった。
星の河から降りている時、病院のことを リヒル君に聞かれて、一度 月の宮に戻ったんだよな。
で、浅黄君や柚葉ちゃんに相談してみると、柚葉ちゃんが
「朋樹さんなら わかるかもしれないですよ。
霊視が出来るから、大島さんから いろいろ視てるかも」って教えてくれたんだ。
浅黄君には
「もう、大人しくしゅうしておくが良いかもしれぬがのう」って笑われたんだけどね。
神社に降りてみたけど、居たのは 寝不足気味の顔の透樹君だけで、トモキ君も凪さんもいなかった。
もう昼間だったし。
俺と リヒル君に気付いてくれた 透樹君と、お社の裏で
『あれからも大変だったみたいだね』って 鬼神の話をして
『朋なら、部屋で寝てるから起こしていいよ』と 許可を貰った。
雨宮さん宅は、神社のすぐ近くにある 立派な お宅だった。ザ・日本家屋って感じの。
門から玄関までが遠い。
あ。ついでに、凪さんは仕事は休んだらしいけど
『凪は 客間で寝てるけど、起こさない方がいい。
機嫌悪くなるから。
腹 減ったら自分から起きてくるし、サムも居るから大丈夫』だそうだ。
うん。触らぬ神に祟りなし だよな。素直に聞こう。
いきなり トモキ君の部屋に現れるのも何だし、リヒル君と話し合って、ピンポン押してみる事にした。
これでトモキ君が起きてくれるかもしれない。
凪さんは起きませんように... と 願いながら。
『はい』と 応対してくれた声は、母さんくらいの女の人の声だった。
この人に、俺やリヒル君... 霊の声が聞こえるんだろうか?
でも「こんにちは、突然すみません」と言ってみると
『あらっ、昨日 お世話になったって子達かしら?
月夜見様の?』って具合だった。
こういう人たちも
玄関を開けてくれた人は、品の良い おばさん... というか、おばさまで、目鼻立ちの整い具合から、透樹君たちの お母さんなんだろうと思う。
見た目に反して
『浬ちゃんと 理陽ちゃんよね?
まあまあ、昨日は本当に ありがとうねぇ。
朋なら 二階で寝てるから、起こしてやって頂戴。
お話が済んだら、リビングで お茶と お菓子を お供えするから、食べていって頂戴ね!』と、朗らかに よく話しながら、通してくれた。
二階で、人が居る気配がする部屋のドアをノックすると、返事がなかったから、リヒル君と目を合わせて入ってみた。
ベッドに横たわって、壁に向いている トモキ君に
「あの... 」と 声をかけてみると
『あぁ... せっかく寝入ったところだったのによー... 』って、だるそうに こっちに向いて、半身を起こして 俺を見た。
で、まだ何も聞いてなかったのに、先に答えられてしまって、今に至る。
霊視って、何なんだろう?
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