9 及川 浬
返信、するべきなのか... ?
迷っていると、リヒル君が スマホ画面を覗いてきて
「あっ、やっぱり彼女だった子?!
メッセージ 入れてくれてるじゃん!
どんな子だったの?!」... と 騒ぎはじめた。
「だから... 」
今田は 高校の時の同級生だっただけで、ちゃんと彼氏がいる ってことを説明して
「俺、取り憑いたんだよ。しかも勘違いで。
かなり 酷い目に合わせちゃって」と 教えると
「えっ、カイリが?」と 眼を丸くして
「勘違いで取り憑いた って、女の子に?... サイテー」と
わかってるよ。言ってくれ 好きなだけ。
責められた方がラクだ。
「でもさぁ、相手は連絡 取りたがってるよ?
イマダ、マイカちゃん。
マイカちゃん って 呼んでいいかな?」
知らねぇよ。本人か彼氏に聞いてくれ。
それより、どうするべきなんだろう?
やっぱり 大神様に相談して...
あ。新しいメッセージが入った。
“及川くん、見てるの?” って。
“既読” って付いたか...
で、ビビってるウサギのスタンプも。
「カイリー、“うん” って 返事しなよ。
失礼だよ。取り憑いたクセに無視するなんて」
じゃあ、“うん” ってだけ...
返信してみたけど、今田は無反応だ。
もしかして、俺から返信が入ったことに ビビッたんじゃないか?
なんで 入れてきたんだよ...
「ダメじゃん。怖がらせちゃ」
はぁ... こいつなぁ。もう。
おまえが 返事しろ って言っただろ。
顔、見てやったけど
「“どうしたの?” って 聞いてあげなよ。
マイカちゃん、きっと何か悩んでるんだよ」と、眼を見返されてしまった。
“久しぶり。どうした? 何かあった?”
また負けた。
でも、これで 返信がなかったら、もう こっちから送信するのは やめよう。
今田も、気まぐれに入れてみたのかもしれないし。
“うん、実はね”
返ってきた。
モジモジしたウサギスタンプまで。
“うん” と 返信すると
“やっぱり、文字にするの怖いかも”... と。
で、怯えてるウサギスタンプ。何なんだ?
“電話は、ムリだよね?”
また、モジモジしたウサギ。
いちいちスタンプなんだな。まぁ、和むけど。
“どうだろ?
試したことがないから わからないけど、ムリかもな”... と 返すと、画面が 着信画面になった。
もちろん 今田からだ。
あれだけの思いさせちまったのに、勇気あるよなぁ...
取ってみるか... と、通話ボタンをタップしたけど、何も聞こえない。
「今田?」と 聞いても、無音だ。
スマホを持つ俺の手に 耳をくっつけてる リヒル君が
「あー、通話まではムリなのかもねー... 残念。
だって 霊と話す時って、霊能者の人が 降霊術してたもん。テレビで」と、ひとり納得して
「一度 切って、そう伝えてあげて」と、やっと 手から耳を離した。
言う通りにするのは シャクな気がするけど、そうした方がいいか...
通話を終了させて
“電話はムリみたいだな” と 送信すると、少し時間を置いてから
“及川くんは、もう、こっちに来れないんだよね?
お墓のところにとか”... と 入ってきた。
うん、霊と言えば お墓イメージなんだろうな。
手を合わせに来てくれたことは知ってるし、つながってはいるんだけどさ。
“行けるかもしれないけど、今田、お墓 怖くないのか?”
好奇心で聞いてしまった。
今田は 相当な怖がりだったはずだ。
すると、泣いているウサギのスタンプが入ってきた。怖いんじゃねぇかよ。
「“彼氏と来たら?” って 言ってあげなよ。
取り憑いた男に 一人で会うなんて、絶対に怖いよ!
それに カイリだけじゃなくて、オレも居るんだし。
“増えてるう!” ってなっちゃうよ?」
もし、今田に会うことになっても、仕事じゃない。
だから、リヒル君は お留守番でいいんだけどな...
まぁ、“彼氏か誰かと 一緒に来たら” と入れてみた。
“やだ”
なんでだ、今田...
あんなにしっかりした いい彼氏なのに。
ケンカでもしたのか?
“私、一人で行く”... と、目がキラキラしたウサギスタンプだ。
“お墓じゃなくても大丈夫だけど” と 送信すると
“どうして先に言ってくれなかったの?” と、怒りウサギのスタンプが入った。
あんまり ふわふわしてないやつが。
“ごめん。
あと、もし そっちに行くにしても、神様の許可がいるから、すぐには行けないかも”
返信すると、今田は
“じゃあ、神さまに聞いてみてくれる?
出来たら、明日の夕方 17時半頃に、駅前で待ち合わせられたら 嬉しいんだけど”... と、やたら細かく指定してきた。うーん...
“聞いてみる” と 返すと、吹き出しに “待ってまーす!” と入った ウサギスタンプが入ってきた。
********
「あっ。ほら カイリ。大神さまだよ!」
リヒル君は、相変わらず 花を見ていたけど、月影という愛馬に乗った 大神様を見つけて
「カッコいい!!
ね? 大神さまって カッコいいよね!」と 喜んだ。
うん、カッコいいよ。いつも思う。
でも 俺は、今から、スマホのことを打ち明けて、今田のことを 相談しなくちゃならない。
とにかく、近づいて行ってみよう...
あれだけ “カッコいい!” と騒いだ リヒル君は、大神様と距離が詰まっていくにつれ、俺の後ろに隠れるようにして ついて来ている。
大声じゃなくても、声が届く距離まで近付くと
「大神様」と 呼んで、こっちに顔を向けられたから、走った。
「あっ、カイリ... 」と リヒル君も走ってる。
大神様もカッコいいけど、月影もカッコいい。
生きてる間に馬を見たのは、テレビ越しだったけど、なんてきれいな白馬なんだろう。
「どうした?」
「は、はい。実は、スマートフォンの霊を呼んでしまったんです」
大神様に スマホを見せると
「榊も持っておった。小型通信機器であろう?」と、全然 普通に返されてしまった。
「はい、それで... 」
今田のことを話すと
「お前が取り憑いた娘であるな。
通常であれば、現世の者と交信など出来んのだ。
その娘に そうした力があると みえるが... 」と、じっと スマホを見られた。
「うむ。娘に 何かが憑いておる事もないが、透樹が 桃の木護りを持たせておるな... 」
トウキって、あの お祓いの人か...
「話を聞いて参れ。罪滅ぼしにもなろう」
う... 許可は下りたけど、罪滅ぼし か。
「はい。ありがとうございます」
俺に頷かれた 大神様は、次に「理陽」と 呼ばれて、リヒル君は、俺の後ろから そっと隣に出て来た。
「はい、大神さま... 」と、何故か 怒られている子供のような声で 返事をしている。
「お前は、家族や親しき者に 会わぬで良いのか?」
「はい、あの。まだ... 」
「そうか」と微笑われた 大神様を見て、“怒られなかった” みたいに、ほっとした顔になった。
嬉しそうだ。
「お前も、浬と現世へ下りるつもりであろう?」
「はい... 」
また不安そうな顔だ。忙しいな。
「まぁ、その
「良いな?」と確認された リヒル君は
「はい!」と、やっと 普通の声で返事が出来た。
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