6 瀬田 理陽


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わぁ、草原だ...

星の中を昇ってきたのに、なんでだろう?

いきなり、足が地面についてた。

なんか、走りたくなる...


でも、ここが 月? あの 銀白色の?

だけど、カイリが言ってたから、きっと月なんだ。

だって、カイリは 嘘つきじゃないって わかるから。

死なないと見えない世界 って あるんだな...


「リヒル君」


「ん? “リヒル” で いいよ」


カイリは「うん... 」とだけ返して

「大神様に、報告に行くよ」って、手を離された。

なんで 呼ばないし、手まで離すんだよー。


カイリは そのまま、蒼白い星みたいなものが流れてる河? の近くにある、大きな木に向かって歩いてる。

歩くの速いなぁ。


後について行きながら、大神さまかぁ... って、ぼんやりと その言葉だけを考えてみる。

神さまなんか、想像つかないな。


けど、今から会うんだ。

そして、“月に居たい” って お願いをする。

服も ちゃんと着れたし、大丈夫... だといいなぁ。


カイリに “何か着ようか?” って言われた時は

“どうやって?” って 怒りながら聞いたけど。

だって、何にも触れないし、着かたも わからないのに。

そしたら、“服にも記憶があるから、イメージしてみて。着てるところ” って言われて、やってみたら、イメージ外だった くつ下まで履けてた。

その後に、スニーカーもね。


あっ。木の下に、白い服の人が立ってる。

ポニーテイル男子だけど、オーラすげー...

きっと、あの人が大神さまだ。

ヤバーい。どきどきしてきた...


神さまに お願いしたことなんて、一度もなかったな。

“あぁ、いやだな” ってことがあっても、最終的には いつも、“ガマンするかー” とか、“諦めなくちゃな” ってなってたし。


「大神様」


カイリが 声を掛けてる。

やっぱり、この人が 大神さま なんだ... って、え?

わ すっげー 美形!!

これは 本当に神さまだ。本当に本物。


「戻ったか」


「はい!」


大神さまの声には、艶があった。いいなぁ。

何 言われても、カイリみたいに “はい” って言っちゃいそう。

でも、月に居るのはダメって言われた時だけは 気をつけないと。


「一人で、ようやったのう」


あっ、ほめられてる。

カイリ、「はい! ありがとうございます!」って 嬉しそう。出てるもん。喜んでる何かが。

なんだろう? うらやましい。

オレも カイリみたいに ほめられてみたい。


「瀬田 理陽」


えっ、オレの名前、知ってるの?


「は い」って 返事したけど、もそもそとした返事になった。緊張してるのかも。


「詰まらぬ事をしたものよ」


ガーン... って、こういう時の擬音なんだ。たぶん。

キメセク中に死んじゃったし、何も返せない。


「まぁ、良い。済んだ事だ。

身に沁みておろうからな」


「はい... 」


泣きそう...

頭の中も 真っ白。ただ じくじくと 胸が痛い。


「さて。お前は 仏教徒であったな」


えっ? オレ、修行とか何もしてないよ。

まだ お葬式にも出たことないし、全然 そういうの...


「まぁ、暫し 休息するが良い。

仏界へ向かう時までのう」


う...  口が開かない。やだ。やだやだ...


「大神様」


カイリだ!!


「何だ?」と、黒い眼を流してる 大神さまに

「この、瀬田君なんですけど、俺のように、月に居たいと希望しているんです。

大神様の下で、仕事がしたい と」って 言ってくれてる... カイリは 約束を守ってくれた!


嬉しくて、口を開くことも 動くことも出来なかったのに

「どうか、おねがいです」って、頭を下げれた。


「ならぬ」


あ...


「お前は、せいを軽く扱うた。

仏界にて 己を見詰め直し、しっかり修行するが良い」


何も 返せない。涙が出てくるだけ。

大神さまは、イジワルで言ってるんじゃないのが わかる。

オレの為に 言ってくれてる って。


でも...  だったら いっそ...


「おそれながら、大神様!」


大神さまの眼が また カイリに流れたけど

「何だ? お前が “畏れながら” などと...

意味も解っておるものか?」って、呆れた風に見せて、優しい顔をしてる。あーあ。いいなぁ...


「瀬田君が、生きることに軽かったのは、愛情不足だったからです」


「ほう...

しかし その様な者は、幾らでも居ろうよ。

お前が知らぬであっただけの事。

いや、見ぬであっただけ か」


きっと 大神様は、人間は たくさん居るのに、どうして そういう人も たくさん居るのか考えてみろ って、言ってるんだ。

オレも、自分のことだけじゃなく、同じように すき間を持ってる人のことなんて、考えたことがなかった。

だから、オレみたいな人は いなくならない。


「すみません... 見ていませんでした。

気づきもせず、もし気づいたとしても、“俺には 関係ない” と 思って、何もしなかったかもしれません」


カイリが 頭を下げた。オレのせいだ。


「ですが、今から見たら、ダメでしょうか?

今から知って考えたら、遅いのでしょうか?

魂は、死んで終わり ですか?

だったら どうして、死んでも修行するんですか?

見ていなかったものを見て、知って、考えてから修行するのでは ダメなんですか?」


カイリ...


だめだ... オレのことを お願いしてくれてるのに、オレ自身は 泣いてるだけなんて...


「大神 さま」


鼻をすすりながら

「ごめんなさい」って 謝った。

ほんとうに、ごめんなさい。

ずっと、適当で。寂しいって泣くことすら 放棄して。


「はじめて、探してもらえて、嬉しかった です」


カイリの手は、温かかった。

あの瞬間とき、オレは


黙って聞いてくれてる 大神さまに

「満ち足りました。

だから もう、オレを消してしまってください。

生まれてから死んだ記憶ことも全部。

修行がイヤなんじゃないです。

もっと生きれるはずの 誰かに、生きたい人に、オレの魂を洗って、透明にして、あげてください」って、お願いした。心から。


やっと、探してもらえた。

きっと生きてても、いつか誰かが探してくれたかもしれない。

時間の中に生きていたら、ずっと同じ じゃないから。

それに本当は、ずっと 誰かを、何かを探したかったんだ。

動こう と、考えもしなかったくせに。


「うむ」


大神さまは、白い両袖の中に組んでいた腕を解いて、右手を伸ばしてきた。

はじめて、誰かのためになれる。

それを しあわせに思えることも、知らなかった。

そんなこと、一度もしたことが なかったから。


額に 大神さまの指が触れると、きれいなものが流れ込んできた。

胎内に居る時って、こんな風なのかもしれない。


「根は未だ、野の者にちこうあるのう」


大神さまの 指が離れた。


「良い。浬、お前をつける」


「... ハイッ!

ありがとうございます!」


大神さまは、カイリに

「要らぬ苦労もしようがの。物好きな事よ」と添えて、オレには

「泣き止め。仕事にならぬ」って、微笑わらってくれたんだ...

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