心からの響き

鳴深弁

愛しい貴方へ


おわっちゃった


言葉にすれば悲しい響きでした。



別れを告げたのは自分で、傷付くことも泣く資格もないのに、自己嫌悪が張り裂けそうなくらい苦しい。

ぼろぼろと揺れては落ちる視界の中、震える指でやり取りのメッセージを打とうとする。

纏まらない想いと言葉がもどかしい。



纏めて伝えられたのは、別れの言葉だけだった。


好きだよ


大切なの


愛してる


ごめんね


エゴの言葉ばかり浮かんでは消えて、

貴方を苦しめた。


貴方の身体が心配なんです。


本来ならこういう時に、支えてあげるのが最善だと思う。

でも私は身体がままならないから、貴方への最後の愛を示す言葉は一つだけ。


「お互いお元気で」


これで貴方の負担が、一つ減りますようにと願った。


私に使ってた時間は、

できたら身体を休める事に使ってくださいね。

無茶したら怒ります、お伝えはしませんが怒ります。



負担と思ってなくても、

負担になっているんだよと状況が物語っていました。

私の身体はそうでしたから。

私以上に大変な貴方の事を思えばと、これすらもエゴなのでしょう。

貴方は私を大切にして、

負担なんかじゃないと言ってくれてた言葉を信じています。


一緒に過ごす時も、

会えなくても貴方が笑っていてくれる事が、愛おしいと思えるくらい、

貴方は幸せな時間と、生きたいと思える強さを、私に与えてくれた。


深く愛しています。

今も消えない痛みが、揺るがないでと決意した弱さが、心にしがみついて「どうして」と叫ぶ姿は子供のようで、撫でてあげられるなら諭してあげたい。


愛してるからこそ、手を放すんだよ。

貴方の笑顔と、生きたいと思えた言葉や想い出は、宝物として壊さないように、私の手の届かない所へ運ぼうね。

私は沢山の優しさをもらったから、ままならない身体だけど、誰にも私を背負わせないで生きて行こうね。


楽しかったと笑う貴方との想い出の一枚に、私の涙があめ玉のようにポタポタと落ちていく。

震えた手からスマホが落ちかけて、もう片方の手で、祈るように握り締めて目を瞑ったんだ。

優しい貴方へのエゴな私の愛し方です。誰かに言い訳するような独り言。


私が病気じゃなければ、


陽だまりのようなあの人の側で笑えていたのでしょうか。


貴方の拠り所になりたくて、丸ごと愛していました。

辛い中で頑張る貴方は、私の心配までしてしまう。

与えられてばかりで、私の願いを叶えてばかりいる関係に、私自身が赦せなかったんです。


「なにをしたらいい?」


私に寂しい想いをさせていると申し訳なさから出る言葉と、どこか別れを切り出されても仕方ないと諦める貴方が寂しくて辛かった。


私は貴方と過ごせる、この瞬間が奇跡で幸せなんです。


何度も伝えたけど、伝えきれなかったのかな。

私はフェアじゃなくなってきた関係と、悪化した自身の身体に自己嫌悪と心が諦めてしまった。


貴方や他人は甘える事を良しと言うかもしれないけど、

私は背負わせたくないんです。


病気を理由に貴方を縛り付けたくないから、会って伝えると愛しいが溢れて上手く伝えられなかったでしょう?

だから、精一杯メッセージを何度も自問自答しながら切り出したんです。


最後に会う時は、愛してるのエゴな言葉は言わない。泣いちゃいけない。手を伸ばしてはいけない。


貴方への最後の愛を示す言葉は一つだけ。


「お互いお元気で」


ままならない身体を動かして、最後は良い女だった。そう言われる為に磨き上げましょう。

きっとこれが最期の私の女としての美しさを飾るから。



おわっちゃった

この響きが強さに変わりますように。

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心からの響き 鳴深弁 @kaidanrenb0ben

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