第23話 歌レッスン

 歌ってみたの曲が決まった日の一週間後、私達はいつも通り大学の食堂に集まっていた。

 

「それで叶は今歌ってみた録ってるの?」

「ええ……今はまだ練習ですけど」


 今は歌ってみたの練習をしており、実際に取ってみるのは2週間後とかそのくらいになる。


「やっと叶も歌ってみた録る気になったかぁ……」

「そんなに録るの遅いんですか?」

「そりゃそうだよ。やる人はデビューの一日後にもう歌ってみた投稿してる人だっているんだからね」

「それはまた……」


 いろんな人がいるなぁと思いながら私は自分の投稿の日にちを見る。


「確かにそう考えると私って少し遅いんですかね……」

「でしょー?インパクトをつけるには歌ってみたって結構重要だからね?それに叶は声綺麗なんだから早めに投稿したほうがいいんじゃないかなぁって私は思ってたよ!」

「思ってたんなら言ってくださいよ……」


 そういうと私はコーヒーを啜り、詩織の方を見る。


「詩織は歌ってみた何を投稿したんですか?」

「私ー?私はね……これ!」


 すると詩織はスマホを私の前に突き出してくる。その画面にはピンク色の背景にニーリャが上目遣いでハートを作っているサムネがある。

 曲は案の定可愛らしいもので、サビの方に入るとこの曲が最近ショートとかで流れてくる曲だということがわかった。


「これが詩織……?いつもと違いすぎるではありませんか?」

「どういう意味だ!?」


 そのまんまの意味ですよ……という言葉を喉の奥に押し込みながら私はその動画のコメント欄を見る。

 どうせ『ニーリャがこんなの歌うわけがない』『ニーリャがかわいい……?』とかそういういじるコメントばかりなのだろうと思っていたが……


「……なんかコメント欄いつものノリと違いません?」


 そう。意外にもコメント欄には『かわいい』『ニーリャ推す!!!』など称賛のコメントが並んでいた。

 それを聞いた詩織は呆れた表情を取りながら嘆息する。


「あいつらいつもは面白がってイジるけど本当は私のこと大好きなんだよ。ツンデレってやつ。だから配信のコメントは全部ウソッパチなワケ。ほんとは私のこと清楚だって分かってるからねあれ」


 いや多分清楚は本気で思ってないと思う……という言葉も喉の奥に押し込む。


 ふと時計を見ると時間が3時に差し掛かりそうになっていた。


「もうそろそろ行きましょうか」

「そうだね!」


 そう言いながら私達は食堂を出て大学の正門に向かった。


 ――――――――――


「アリシアさんそこもう少し高いです」

「りょ、了解です」


 あのあと詩織と一緒に本社に行った私はスタジオで歌のレッスンを受けていた。

 歌のレッスンなんてそんなに大変じゃないだろと思っていたが普通にきつい。

 そんなことを思っていると先生が手を叩く音が聞こえた。


「一旦休憩です!」

「はい」


 休憩と言われた私は部屋の隅に座り、水筒を口に当て水を飲む。

 水を飲み終わった私はワイヤレスイヤホンを取り出し、片耳だけつけて音楽を流した。イヤホンからは軽快な音楽が流てくる。

 これは私が歌ってみたをする予定の音楽で、休憩時間のときも欠かさす聞いて音程やりずむを身に染み込ませようとしているのだ。


「アリシアさん。少しいいですか?」

「あっはい。何でしょうか?」


 するとスタジオの隅でレッスンを見ていた坂本さんがこちらに近づいてきて、私に話しかけた。


「このあとの配信なんですけど本当に大丈夫なんですか?結構疲れてるように見えるので。レッスンは週2なんですから被せなくても」

「あぁ………問題ないです」

「いやしかし……」


 私は坂本さんの方を向き、笑う。


「心配ありがとうございます。でも本当に大丈夫なんです」


 その言葉で坂本さんは諦めたような表情を取る。


「……わかりました。でも無理はしないでくださいね」

「はい」


 そう言うと坂元さんは部屋から出ていった。


「もうそろそろ再開しますよー!」

「はーい」


 坂本さんがでていったあと、すぐに先生に声をかけられ、私は立ち上がろうとする。


「ッ……」


 一瞬目眩がする。

 予想以上に疲労を溜め込んでいたのかと考えるも何もなかったかのように平然を装う。

 目眩ごときで私は立ち止まってられないと思い、レッスンを再開した。


 ――――――――――


「ということで今日もゆったりと雑談配信をやっていこうと思います」


 コメント

▷わーい

▷いつもの

▷ほっこりする(?)


 レッスンが終わり、帰宅した私はいつものように雑談配信をしていた。


「……と、始める前に少し告知をさせていただきます。明日の配信では初めての参加型配信をします。ゲームタイトルはスマ○ラですね」


 コメント

▷きちゃー!

▷腕がなるぜ

▷拙者が魔境と手合わせ願えるってマ?


「今現代風の侍いました?」


 コメント

▷誰でござるかそれ

▷拙者知らぬで候

▷草


 最近はリスナーとの距離感が縮まってきており、何かとノリを理解してくれる人も増えてきた。


「魔境って言っても2ですからそんなに強くないですよ?」


 コメント

▷魔境に行ってる時点で強いんだよなぁ

▷俺的にはVIPの時点でって感じ

▷なんかVIP余裕とか言ってる人いるけどそれってスマブラ長年やってる人だけなんだよなぁって……

▷実際VIPって3%やろ?


「VIPは上位3%ですね。……でも解釈によってはもう少し広いかもですよ?」


 コメント

▷ふえ?

▷Do You koto?

▷詳しく


「上位3%っていうのはオンライン戦を一回でもしたキャラが入ってくるから一回やって放置してるキャラも全体に含まれますからね」


 コメント

▷成程

▷それでもVIPは強いや

▷明日楽しみにしてる


「私も楽しみにしてますよ」


 雑談配信はいつも通り1時間半ほどで終わった。

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