第22話 歌ってみた

「というわけで皆さん。収益化、無事成功しました」


 コメント

▷きちゃああああ

▷これでスパチャが投げれるー!

▷¥1000 やったああああああ

▷¥1500 きたあああああああ

▷¥10000 くぁwせdrftgyふじこlp


「スーパーチャットありがとうございます。1万円のひとは本当にそれでいいんですか……」


 コメント

▷¥5000 問題あるかい?♠

▷やばw

▷草


 【収益化】

 それは配信者なら誰しもが憧れる1つの目標。

 それをなすためには『公開動画の総再生時間が直近の12か月間で4,000時間以上』というようなとても厳しい条件が提示されている。これを突破するのは決して容易なことではない。

 

 だが私は企業に所属しているVTuberだ。条件のほとんどはもうデビューした時にはクリアしていた。

 なので申請は一週間前にはしており、一昨日正式に受理されたのだ。


「メンバーシップについてはまだ準備中なので楽しみにしておいてください」


 コメント

▷はーい

▷メンバーまだかぁ

▷¥2000 スパチャできるだけでもよし!


「まぁ今日は特に特別というわけでもない雑談をしますよ」


 コメント

▷雑談ー

▷今日の夕飯

▷ゲーム実況の予定ある?


「ゲーム実況……まぁスマ○ラの参加型とかはよく見ますよね……今度やってみますか。今日の夕飯は鮭の塩焼きですよ」


 コメント

▷スマ○ラ参加型は楽しみ

▷スマ○ラ参加型ボコボコにしたろとか思ったけどそういやこの人魔境だったわ()

▷鮭の塩焼きとかシンプルで草

▷シンプルで笑うこの時代は末期だな……


 いつもと変わらない他愛もないコメントを目で追いながらペットボトルの水を飲む。

 収益化と言っても私がすることは変わらないのでそんなものかと思いながら見ていると1つのコメントに目が留まる。


 コメント

▷歌枠は?


「歌……ですか」


 私は少し考え込む。

 確かに歌枠はやってもいいかもしれない。


「まぁ……やるとは思いますよ」


 コメント

▷うい

▷歌苦手なんかな?

▷いやこの声で苦手はないやろ……

▷声で判断すんな(定期)


「いや歌自体は苦手ではありませんよ。歌枠という発想自体が抜けてただけです」


 わたしにとって 歌はどっちかというと得意な分類に入る。

 詩織とカラオケに行ったときは90点代を何個も出していたから。


 コメント

▷歌ってみたとかもあるよね

▷苦手じゃないならいいや

▷歌枠待機してる


「歌枠はいつかやりましょうね。……歌ってみたですか……私に機会が回ってくるといいのですが」


 コメント

▷来るやろwww

▷これで来なかったら運営潰しに行くわ

▷運営潰すぞォォォ!!!


「過激派が何人かいらっしゃる……」


 リスナー達の歌ってみたへの熱意に私は少し引いてしまう。


 しかし歌ってみたですか……


 私は少し考え込んだがまぁまだ先になるだろうと思い、その思考を脳の片隅においた。


 ――――――――――


「アリシアさん!歌ってみた候補上げておきました!」

「なんで???」


 はずだったのだが次の日に本社に来たら坂本さんが勝手に候補を上げていた。


「え?だってアリシアさんが歌ってみたやりたそうに言ってたからですけど」

「……展開が急すぎるんですよ。それで歌ってみたですか」

「はい!」


 確かに歌ってみたというのはいいかもしれない。ハマれば登録者数も増えるし、ナニよりアリシアが有名になる。の為にこれは結構いい手なのではと思う。


「本社の許可は……?」

「取れてます!」

「昨日言ったばかりなんですけど?」

「いつかすると思ってたって社長が10分前くらいに許可してくれました」

「……」


 何やってんだあの社長。


「……わかりました。歌の候補、見せてください」

「はーい!」


 私は手を伸ばして坂本に候補欄を見せるように促す。そうすると手の上に坂本さんのタブレットが乗せられたのでそれを私の目の前まで持ってくる。

 そこには縦に歌の候補が並んでいる。

 それも1曲や2曲とかではなく画面の下まで続いており、スライドするとまだまだ続いているのがわかる。


「すごい集めましたね……」

「そりゃあマネージャーですから!」


 そう言いながら坂本さんはこっちに親指を立ててくる。その顔はどこかに焼けているように見えるがきっと気のせいだろう。

 この歌を1つ1つ聞くのは困難極まりないので題名をみて気になったものを聞いていく。


「この曲いいですね」

「あ!それ私1番好きなんですよ!」

「ふむふむ……こっちの曲はかっこよくていいですね」

「それも1番好きです!」

「……いっそこれのような可愛い系のやつもいいかもです」

「1番好き!」

「1番とは」


 私は坂本さんの1番の多さにツッコミながらさらに歌のリストを見ていく。

 そうすると1つの曲に目が止まる。


「over the past……?」

「あぁそれですか?私も聴いたことはあるんですけど一番って感じじゃないです」

「そうですか……」


 私はその曲を見送ろうとするがどうしてか惹かれてましう。気になった私はそれを聴いてみることにした。

 ボーカルはいろんな曲でも使われているVOICEROIDが担当しており、全体的にどこか意志を感じる歌だった。


「……いい曲じゃないですか」

「それじゃあこれにしますか?」


 その言葉に私は少し黙ってしまう。

 これはいい曲だ。できればこれを歌いたい。

 だけどこの歌は気がした。


「いえ。違うのにしましょう」

「……そうですか」


 私はそう言ってリストを下に流していく。


 結局私は最近動画でよく流れている流行りの曲を歌うことにした。

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