第11話 面接結果

「いよいよだね」

「ですね」


 あの面接から二日後。

 私達は詩織の家に集まり、私のスマホを凝視していた。


「面接の感触はどうだったの?」

「まぁ良かったと思いますよ。初手の掴みも良好でしたし」

「あー。もしかして初手であの声出したの?」

「はい」

「それはまた……」


 詩織は首を横に振りながら少し呆れた表情を出す。

 確かにこの声を初手で使ったのは少し卑怯だろう。きっと面接官は頭からこの声を切り離せなかっただろう。

 でもあれは面接だ。どんな手段を使っても相手に自分の印象をつけ、合格を勝ち取るものなのだ。


「しかし詩織はあまり不合格の心配していませんよね?」

「だって叶が落ちるとは思えないんだもん」


 そう言うと詩織はこちらを向き私の目をとらえる。

 その仕草に少し恥ずかしさを覚え、そっぽを向く。


「もうそろそろじゃない?」


 時間はもうそろそろ午前10時を回ろうとしており、面接の合否発表は午前10時を指定されている。

 流石に時間が近づいてくると少し緊張する。私にとっては初めての面接であり、少し即興で考えた部分もあった。それに私にとってこの面接は人生を変える大きな一歩なのだ。絶対に不合格にはなってはいけない。


 その時、スマホからピロンという音がなる。


「ッ……」

「きたー!!!」


 私は顔を強ばらせ、詩織は目をキラーン!と輝かせる。


「……詩織はなんで嬉しがってるんですか」

「だって友達の人生の変換点だよー?盛り上がるに決まってんじゃん!」


 そう言うと詩織ははやくはやくと急かしてくる。

 その勢いに押された私はスマホのメールアプリを開き、新着メールの送り手を確認する。

 そこには……


「GO!ライブ!本社……」


 予想通りの送り主の名前が書いてあった。


「お!来たね!早速開こうよ!」

「ちょっと待ってください心の準備を……」


 私の発言に詩織は意外そうな顔をする。


「叶だって緊張するときあるんだねー」

「はい?私だって人間なんですからあるに決まってるでしょう」

「だって叶ってザ・お嬢様みたいな感じじゃん?」

「なんですかそれ……」


 私は敬語で顔にあまり表情を出さないタイプってだけ……あれ?結構お嬢様っぽいな?

 ふと思った事に若干の危機感を覚えたので頭を横に振り慌てて振り払う。


「とりあえず!今からメール開きますから静かにしててください!」


 私はスマホの画面に震える指を当て、メールの中身を開く。

 メールの題名が欄列していた画面から文面の画面へと瞬時に切り替わる。

 1回息を吐く。

 その仕草で若干緊張が無くなってきたので一気に文を読み上げる。


「有澤叶様。株式会社GO!ライブ!人事部の坂本と申します。先日は弊社の採用選考にお越しいただき誠にありがとうございました。厳正な選考の結果、有澤叶様は選考に合格されましたのでお知らせいたします……!」

「おぉ!やったねー!」


 私は思わず下を向き、ガッツポーズする。

 

「よしっ!よしっ!」


 柄にも無いことをやってるのは自覚しているがそれでも嬉しさのあまり続けてしまう。


「やりましたよ!詩織!」

「ハイハイ落ち着いてねー」


 その言葉でハッとなり、私は大人しく膝に手を置く。

 その顔は恥ずかしさで若干赤くなっているのが顔の熱で分かる。

 その仕草を見たのか詩織はクスクスと意地悪い笑みを浮かべ、私の肩に手を置く。


「へー?そんなに嬉しかったんだー?あの?クール系な叶がこんな感情剥き出しにするんだもんねぇ?」

「うっうるさいですよ!」


 この面接は私にとって大事なものだったんだからしょうが無いでしょう。

 そう思いながらメールの続きを確認する。


「つきましては、書類を発送致しますので一週間後本社に来てもらう際持参をお願い致します……」


 その文面を読み終えると私は後ろに壁に寄りかかる。

 その続きを見てみると住民票などの今準備できそうなものもちらほらあった。


「とりあえずは合格ですね」


 スマホの文面をあらかた確認した私は床から立ち上がり、荷物をまとめる。その様子を見て詩織が首を傾げる。


 「あれ?泊ってかないの?」


 一瞬固まる。


 「……家行って書類の準備しなきゃいけないじゃないですか」


 私はこれからしようとしていたこと詩織に告げると詩織は私の腕にしがみついた。


「そんなこと明日でもいいじゃーん!今日はせっかく来たんだし泊まってってよー!」

「えぇ……」


 その発言に私は頭を抱える。

 確かに私にとって友達の家に泊まることは初めてのことで非常に興味がある。

 しかし、入社のための書類を整理することはなにより最優先すべきことなのだ。

 詩織には申し訳ないが適当に他の理由をつけてる断ろう。


「泊まるための荷物とか持ってきてませんので」

「私の服とか貸すから大丈夫!」

「……財布も家にありますし……」

「家なら別に良くない?」

「と、戸締まりしてませんので!」

「あの叶がー?ないない!」

「くっ……」


 考えついた理由に対して解決策を平然と述べる詩織を見て私は少し苦い顔をする。対して詩織はその顔を見てふふん、とドヤ顔をしている。

 このままでは本当に泊まることになってしまう。

 傷つけないように本当のことを言う事は躊躇っていたが、流石にこれは言うしかあるまい。


「詩織、私は会社のことを優先したいのです」

「……確かに叶、これ凄い重要って言ってたしね……わかった。でも、今度泊まってね?」

「はい。約束です」


 詩織を無事説得することができた私は部屋から出て、玄関に向かう。

 玄関についた私は靴を履き、詩織の方を向く。


「それでは」

「うん!じゃーね!」

「お邪魔しまし……」


 プルルルッ!

 そんな音が私のポケットから鳴る。これは……


「すみません。電話が来たのでちょっといいですか?」

「あぁうん全然いいよ!」


 ポケットからスマホを取りだし、通話開始のボタンを押す。それを耳元に当て、話し始める。


「もしもし」

「もしもし、田村だけど」

「あっ社長。お疲れ様です」


 通話相手はさっきまで話に上がっていた会社の社長、田村井久だった。


「お疲れ様ー。面接の結果届いた?」

「無事合格と届きました」

「心配してなかったけどおめでと」


 そこは心配してなくても言わないのが普通でしょう。

 そんな心の声を押し込み、私は電話をした要件を聞く。


「それで、用件は何でしょうか」

「あぁ……君、バイクの免許持ってる?」

「?いちおう取ってはいますが……なにか関係が?」

「君のデビューはちょっと特殊な感じにしようって話が出てね。それで聞いたんだ」


 デビューにバイク関係あるのか?


「それだけでしょうか」

「うん。ありがとね」


 そこで通話は終了する。


「しゃちょー?」

「えぇ。そうですよ」


 そう言うと詩織は少し微笑む。


「いやー本当に叶がこっち側に来たって実感がするなぁ」

「あの合格通知でしててくださいよそれは」


 私は今度こそドアノブに手を掛け、ひねる。

 外はまだ昼時だからか明るく、青空と西側にある積乱雲が見えている。


「お邪魔しました」

「うん!じゃーねー」


 ドアが自然と閉まる。

 その音は初めて聞いたような音だった。

 

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