第10話 面接

「ふぅ……」


 今から受ける結構大事な面接に私は少し緊張を覚える。

 前回会社に訪れてから一週間後、私はまたそのビルの前に立っていた。

 時間は10時、天気は晴天で、日光がさんさんと照らしてくる。

 格好は面接の基本でのスーツ……ではなく私服できている。


「ちょっと迷いましたけどこれの方がいいでしょう」


 面接への案内の資料には【すきな服装でお越しください】と書いてあった。

 普通、これは【そんなことが書かれてあってもスーツでくるよね】という前提を試すものなのだろう。

 しかし、私が受けるのはVtuber会社。個性は最もの武器である。

 だからそんな個性を潰すような見方はしないと思い、私服で来た。


 「ん?」


 さぁ行こうと一歩踏み出した瞬間私のスマホからメール通知がなる。

 私は少し気になり、スマホのメールアプリを開く。


 それを見て私はささやかにほほ笑む。


 詩織から送られてきたメールに答え、私はビルに入る。

 目の前の受付の人が此方を向き、ニコッと笑う。


 「叶様ですね。三階の会議室1にお越しくださいとのことです」

 「わかりました。ありがとうがとうございます」


 そう言われ、私は奥のエレベーターに乗る。

 この面接で私のこれからが変わるとなると緊張してしまう。

 

 「えぇと……これか……右……」


 カーペット質な廊下を私は右に進む。

 壁には会議室への案内が貼られていて部屋の場所がわかるようになっている。

 これを私だけのために……そんな私に光る物があったんですかね?


 「ここ真っ直ぐ……あ、あそこの部屋ですかね?」


 張り紙に沿って廊下を歩いて行くとスーツを着た人が前にいる部屋があった。

 張り紙はそこを指しているので私はその部屋に向かう。


 「えぇと……ここが面接会場ですか?」

 「有澤叶さんですか?」

 「はい」

 「ではここでお待ちください」


 そういうとスーツを着た男性は部屋の中に向かう。

 私は言われた通り部屋の前で立ってることにした。


 「だ、大丈夫ですかね?」


 私は自分の準備が万全かどうかが心配になり体の隅々を見る。

 さらに私はポケットに忍ばせていたメモ帳を取り出し、パラパラっとその内容を確認する。

 それでも気持ちが落ち着かなかったので、スマホを取り出し先程送られてきたメールを再度見る。

 そこには……


 ≪井澤詩織≫面接がんば!!!


 「ッ……」


 やっと気持ちが落ち着いてきた私はスマホを胸に抱き、天井を仰いで深呼吸をする。


 「やってやりますよ……これは私の人生を変えるチャンスなんですから」

 「有澤叶さん。どうぞご入室ください」


 部屋の中から聞こえた呼びかけに私は覚悟を決める。

 ドアに向き、一呼吸置く。私はドアをゆっくり開け、中に入る。

 部屋の中には6人の試験官がおり、その中に古鉄さんがいることに気づく。

 でも私はそんなの気にしない。


 試験官の方を向きその眼をまっすぐ見る。


「それでは自己紹介をどうぞ」


《有澤叶です。私を変えるために来ました》


 刮目せよ。私の個性イカれを。


 ――――――――――


 「これは間違いなく合格にするべきでしょう!」


 1人の試験官がそう呼びかける。

 私、古鉄美里は先程有澤叶との面接を終え、ほかの試験官と合格についての話し合いをしていた。


 「清楚で高貴な女性というキャラが確立されており、コミュニケーション能力も申し分ない!」


 彼女と最初にしゃべった時もそんな印象だった。彼女のその性格はVTuber活動でキャラを作るときに影響を与えるだろう。


 「何より一番はあの天性の美声!あれを聞いた人は彼女をきっと忘れられなくなる!これは採用以外ありえないでしょう!」


 確かにあの美声には本当に驚いた。聞いた瞬間に頭が真っ白になり耳が熱を持った。

 あれは本当に驚異的だ。あの子の声を独り占め出来たらきっとストレスもなく生活できるのだろう。

 しかし私は少し不安な点があった。


 「しかし彼女を採用した場合他の新規メンバーはどうなるのですか?」


 試験官全員がその疑問に対し唸り声をあげる。


 それは才能故の悩み。

 光があったら必ず闇がある。

 彼女のその個性はほかを覆い隠すほどの個性だ。

 そうなるとせっかく採用したメンバーたちは注目をあまり浴びず、私たちの利益としても少し痛い目を見ることになるだろう。


 「……才能は凄まじい。しかしそれは強大すぎて全体の利益を踏みつぶしてしまうですか……何かしらの解決策はないものでしょうか」


 試験官の殆どが案をひねり出そうと頭をフル回転させる。


 「いっそ4期生を彼女だけにするのはどうでしょうか?」

「できればそれがいいのでしょうが、それは無理でしょう。1人ということは少なからずリスナーからは特別枠だと思われてしまう。そんな立場にある人間ではないでしょうし……」


 試験官の一人が意見を上げるがもう1人に否定される。

 確かに4期生を1人にしてしまえばすべて解決する。しかし、それは特別な人間しかできないことだし、それなりの理由がないと納得しない人も出てくるだろう。


 ――それなりの理由があればいいんですけどね。


 こんな思考、一週間前の私はしなかっただろう。

実のところ私はこの面接まで彼女に興味がなかった。彼女がうちの会社に利益があるのなら入れる。それだけの思考だった。

 しかし、彼女にはあの美声がある。

 それは私の興味を十分に引くほどに。

 今の私は彼女を入れたいというなんの理屈もない感情に動かされているのだろう。


 そう思いながら彼女の経歴をパラパラっと見返す。


 その時、1つの情報が目に入る。


「あの!」


 私は立ち上がり、試験官たちに語りかける。

 その突然の行動に試験官はビクッと体を震わせる。それに対し、すみませんと小声で謝りながら発言をする。


「これを……」


 先程私が見た情報を試験官全員に見せる。


「なるほど。これを使えば1

「確かにこれを理由にすれば特別枠としてのデビューも夢じゃありませんね」


 試験官が感嘆の表情を浮かべ、その情報を元にどんどんデビューの案が練られていく。


「それではこういうのはどうでしょう」


 その案に私達は納得し、数十分で会議は終了した

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