第9話 ニーリャ・ファイブロライト

あれから数時間たち、今は20時50分。

 私は配信部屋にあるベットに座り、ゲーミングチェアをに座る友人を静かに見つめていた。

 詩織はテキパキと配信の準備をし、今はもう最終チェックをしている最中らしいのだが、その仕草の所々にはソワソワしている感じがする。

 私はスマホの音量をオフにして配信のコメントを見ながら目の前の詩織を見る予定だ。

 それを少しじれったいと思った私はベットに座ったまま詩織に話しかける。


「……何をソワソワしてるのですか?初めてではないでしょう?」

「あんたのせいじゃい!」


 私の話を聞き、こっちを向いた詩織は少し怒った様子でそう私に叫ぶ。

 なんで私のせいになるのか分からない私は首を傾げた。


「はぁ……んまぁ取り敢えず配信中の注意事項はわかってるよね?」

「はい。絶対に喋らない。できれば物音も立てない。でしょう?」

「そう!男と勘違いされたら炎上まっしぐらだからね!」


 そう言うと詩織はパソコンの方に向き、カーソルを【配信開始】に合わせる。

 手をマウスから離し、ひと呼吸。そしたらまた手をマウスに戻す。


「それじゃあ……配信スタート!」


 詩織が配信開始のボタンを押し、マイクに向けて声を発する。


 今思えばここで一回確認するべきだったのだろう。


 私のスマホの音量を


「「みんなー!こんちゃー!……あ」」


 詩織の挨拶は2重になって部屋に木霊した。


 詩織がこちらを見る


 ……やっちゃったぜ


 ――――――――――


 コメント

▷こんちゃー!

▷こんちゃー!

▷こんちゃー!

▷なんか今2重じゃなかった?www

▷草

▷草


 察しのいいリスナーには今の2重音声がバレているらしく、笑いながら指滴される。

 目の前の詩織は動転するわたしに向かって小声で「任せて」と言ってゲーミングチェアに再度座った。

 

「あぁ……今のは自分の配信をミラーで様子見してたら音量切り忘れたんだよね!いつもは切ってるんだけど!」


 コメント

▷なる

▷あるよなー音量流れてないと思ったら流れてたこと

▷あるある

▷ポンだったのか

▷納得

▷ニーリャならしそう


「おい!今ニーリャならしそうって言ったやつ体育館裏こい!」


 さすが現役配信者といったところだろうか。

 今の事故を自分のポンで済ますという誤魔化し方をし、なんとかそれが通った。


「取り敢えず今日はいつもの雑談枠だよ!それでね……話したいことがない!だからリスナー!話題頂戴!」


 コメント

▷おい

▷いつもの

▷うーん草

▷草

▷今日の夕食

▷最近友人とはどうなの?


 コメント欄ではいつもこの体たらくなのかそれ相応の反応がきたり、話題を提供してくれたりしている。

 


「夕食?今日はラーメ……あっ!そういえば今日の夕食は友人と食べたよ!」


 コメント

▷なぬ

▷詳しく

▷待ってた

▷ポテチ開けた

▷はよ

▷まだー?バンバン


 詩織が友人……もとい私の話題を取り上げるとコメント欄が一気に加速する。

 その勢いに私は驚きぎょっとする。


「今日ね~友人を初めて家に連れてきちゃいましたー!」


 コメント

▷!?

▷やっとか

▷逆に一年友達やっててなんで入れなかった

▷ワイは友人家に連れてきたことあるで

▷ワイは友人いないで

▷何したん?


「友人いないリスナーは強く生きてもろて。んでなんでこれまで家に連れてこなかったっていうと、まぁ普通に身バレ対策だね。ほら、これだし」


 そう言うと詩織が体を左右に揺らす。

 それに呼応し、Vtuber体も体を左右に揺らす。


「そんで家で何したかって言うと、まぁゲームとかだね。……あっ!ボードゲームのほうね。家に連れてきた目的は別だったから備えがあんまりなくて神経衰弱とかスピードとかしかできなかったんだよね」


 コメント

▷はえー

▷ボードゲームっていうことぐらい、わ、わかってたし!

▷真剣衰弱とか最近やれてない

▷目的は別だったのか

▷トランプしかなくて草

▷ちなみに勝敗は?


「友人の全勝だよ。ははっ……」


 コメント

▷www

▷草

▷ボコボコにされてて草

▷やはり友人

▷あれ?でもニーリャ結構コラボでスピード勝ってなかった?

▷友人何者


「ルール教えるために何回かやって、その後に友人が大体理解したっていうから少し本気でやったら見事にフルボッコにされた」


 コメント

▷有能すぎwww

▷初心者に負けたってこと!?

▷てゆうかスピードはまだしも真剣衰弱のルール知らないってどういうこと?

▷ボッチだったのでは?

▷なる

▷納得


 そのコメントに私はちょっとイラッとくる。

 記憶無くしたからルール知らなかっただけなんですけどね。


「まぁその後、夕食でラーメン食べた感じかな?チキンだけど」


 コメント

▷チキンラーメンはうまい

▷手軽に作れるのにアノ旨さは反則

▷卵落とすの好き

▷〆のご飯がうまい

▷ニートの俺氏、毎晩食べてる

▷残業後の体には染みる


「うわっ!社会の闇が垣間見えてるコメントがある」


 コメント

▷来いよ……こっち来いよ……

▷私の会社と契約してブラック労働者になってよ!

▷ニーリャお前も社畜にならないか?


「3連引き込みネタやめろ。社会人のみなさんはおつかれさん!君たちのお陰で社会は回ってるんだよ!ということで、あ!あとそういやこの話してなかったんだけど……」


 このあと約1時間、配信は続いた。


 ――――――――――


「どうだった?」


 配信終了のボタンを押し、一息ついた詩織は私に向かってにっこりと笑い、そういった。


「そうですね……やはり即興力が目に引きました」

「そこは私の得意分野だからね。注目してくれて嬉しいよ」


 そういうと私はベットから立ち上がる。


「じゃあ私は帰りますね。参考になりました」

「うん。じゃあね」


 詩織の家の玄関に行き靴を履く。

 ドアノブをひねり、ドアを開ける。


 「ふぅ」


 外はもう暗く、街灯の光しか光源がない。

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