第8話 配信

「なんで終わった後私に連絡しなかったのぉー!?」

「いっ痛い!痛いです!詩織!」


 GO!ライブ!本社に行った翌日、私と詩織は毎度のごとく食堂に集まっていた。

 私はいつも通り食堂で軽くなにかを食べて、雑談をしながら帰るものだと思っていた。

 しかし、詩織は来た瞬間「おいゴラ叶ー!」と叫びながら突撃してきた。

 今はその続きでこめかみを両拳でグリグリされている。


「ねぇー!私が誘ったんだから終わったら普通私に連絡するでしょーが!」

「わかりました!わかりましたから!こめかみグリグリやめてぇー!」


 私の反省の声を聞いた詩織は「今回は許してやろう」と言いながら私のこめかみから手をどかせる。

 まだまだ少しズキズキしていたので私は頭を抑える。


「それで?どうなったの」


 ため息と同時に詩織が機能のことを聞いてくる。

 私は昨日の話を思い出しながら口を開く。


「……来週の土曜にある面接で合格すれば入れてくれるってことになりました」

「へー!すごいじゃん!メンバーからの推薦って今まで通ったこと無いから少し心配だったけどよかったー!」


 ほぼ成功の報告を聞き、胸をなでおろす詩織。その詩織を見ながら私ははぁ~と息を吐く。


「Vtuber、いつからなってたんですか?」

「GO!ライブ!に入ったのは昨年だね」

「そうだったんですか」


 そりゃ私も彼女の職業に気づかないわけだ。と思いながらコーヒーを啜る。

 コーヒーのほろ苦い味が私の脳内をリフレッシュさせてくれる。


「【ニーリャ・ファイブロライト】。GO!ライブ!3期生。チャンネル登録者数は91万人。GO!ライブ!内ではトップクラスの人気でトークのバリエーションの多さが売りですか……」

「ウッソそこまで調べ上げてんの?照れるなぁ」


 そう言いながら詩織は後頭部をかく。その様子を見た私は他の調べた内容を話す。


「性格は陽気、設定上の職業は日本に留学してきた高校生……年齢サバ読んでるんですね」

「ふぐっ!?そ、それは設定上しょうが無いことだからぁ……てゆうか!これからVtuberになる予定の者が設定とか言うな!」


 自分の秘密を暴露された詩織は私を指差し、焦ったような口調で私に言葉を吐き出す。

 そんなことも気にせずに私は一番印象に残った情報を口に出す。


「売りである雑談配信で一番人気な話題はある友人の話ですか。……これ私ですか?」

「い、いやぁ……それはどうかなぁ……?」


 目を泳がせる詩織。その様子を見て私の仮説はあっていたと確信する。


「ちゃんと配信で話すときはぼかしましたよね?」

「そりゃネット界隈では常識だから!」


 親指を立てながら詩織は凄い元気な笑顔をこちらに向けてくる。

 勝手に人の話してるくせに……とか思いながらも私は「それならいいです」と返す。


「……よく一年でトップになりましたね。先輩とかもいるでしょうに」

「私天才だから」

「ハイハイ天才天才。……ところでそんな天才さんに質問があるのですが」

「なになにー?ヒエッ!」


 私は彼女の戯言を聞き流し、詩織の隣に座る。

 それに気づいた彼女はこちらを向き、怯えた顔をする。


「私の声を社長に流したことは反省してますか?」


 きっと彼女には私が鬼に見えただろう。


 ――――――――――


「誠に申し訳御座いませんでした」

「よろしい」


 あれから数時間たち、私達はとある一室に二人でいる。

 部屋のベットの上では詩織が綺麗な土下座を披露しており、私はその前にあるデスクに添えてあったのゲーミングチェアに座っている。


「……ここが詩織の配信部屋ですか」


 そう。ここは目の前の個人情報流失野郎の家なのである。

 詩織の部屋に来たのはなにげに初めてであり、私は色々な家具に目を奪われた。

 今は詩織が私を部屋に招待しなかった理由がわかる。

 Vtuber……その職業柄上、中身の人がバレるというのはVtuber生命一発アウトの事件だ。

 信用してる人とかでも同業者以外はなるべく見せたくなかったのだろう。


「でも私がVtuberになるから別に入れてもいいと判断したと……」

「全く持ってその通りで御座います」


 私は未だにベットの上で土下座を続けている詩織に目を向ける。


「……人の声を漏らすとか、普通にマナーなってないですよ。さらに私の声は特殊なんですから……」

「ごめんなさい」


 その様子に私はため息をつく。


「もういいですよ。普通にしてもらって」

「ありがたき幸せ」

「それで?私が言ったこと……忘れてませんよね?」

「私にお金くれるって話?」

「もう一回土下座しますか?」

「ごめん……そんじゃあとりあえずそこ、変わってくれる?」


 立ち上がった詩織は私にゲーミングチェアを降りるように促す。

 それに従い私がゲーミングチェアを降りるとデスクにあったパソコンを操作し始める。


「ははぁ……パソコン操作、すごいですね 」

「そりゃ毎日のように触れてますから」


 そう言うと次はデスクの上につけてあったカメラを椅子の方に向け、電源を入れる。

 最後に上にあったマイクを口元に近づけて、「あーあー」と声を発した。


「しっかしとは……なんか意味ある?」

「面接対策です」

「ふーん……取り敢えず限定配信サブ垢で開くからURLから飛んできて」


 そう言うと詩織はパソコンのカーソルを動かし、配信開始を押す。

 私は詩織のラインから送られてきたURLを押し、その配信をスマホ越しで見る。

 画面には1人の少女が中央に写っている。

 髪はオレンジ色でロングヘア、紫紺の瞳はまっすぐ私を見ている。服は紺色が主体の少し派手な高校の制服というイメージで、首にはネクタイがされている。


「どもどもー」


 詩織が言葉を発するとスマホから少し遅れて同じ声が流れる。

 その次に詩織が顔を左右に揺らすと画面の少女も顔を見左右に揺らす。


「とまぁこんな感じで声はこのマイクから、顔の動きはWebカメラから取ってる感じだね。顔の表情もいちよう取ってるけど精度は80%くらいってとこかな。目を細めるだけで瞼閉じることもザラだし。」

「とすると、やはり大事なのはトーク……って事になりますね」

「そう!」


 私の意見を聞いた詩織は画面に新しい物を持ってくる。

 それは大きな枠のようなもので一番上には【comment】と書いてある。


「トークを発展させるためにはリスナーからのコメントを読むのが大切!試しにスマホからコメント打ってみて」


 スマホを見ていた私は画面にコメントを打つ欄を見つける。

 そこから適当に文字を打ってみる。


 コメント

▷あいうえお


「いや適当」

「いいじゃないですか」


 私が打ったコメントは画面にあるcomment枠の上から出てくる。


「こんな感じでリスナーがコメントを打ってくれるからそれを読むの。でもウチは結構人気な会社だからコメントが早く流れてくと思う。だから適当なコメントを拾うだけでいいよ」

「なるほど」

「あとは……まぁゲーム画面の表示とかあるけど今はいいかな」


 そう言うと限定配信が終了する。


「今日は21時から配信予定だからそれまで家でゆっくりする?」

「そうですね」


 配信が終わり、マイクをあらかた片付けた詩織は配信部屋から出ていく。それに続き、私も配信部屋から出ていった。

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