第7話 VTuber
「さてさて……じゃあ続きを話そうか」
「はい」
応接室に戻ってきた私は真ん中のソファに座る。
社長はその対面に座り、資料を手元に持ち直した。
「さっきも話した通りここはのVtuberの席を狙う人は大勢いる。元々個人でvtuberをしていた者や、最初っからリードしてVTuberにデビューしたい者とかね。だからこの会社は何十もの審査を実施し、その中から最も才能あるものをうちのVTuberとして受け入れている。本当はこの方法でしか受け入れていない。」
「……しかし私は今このように会社の案内を受けている……」
社長は静かに頷く。
「……今回のようにうちのメンバーからの推薦は何回もあった。でもほとんどは審査の案内を送るだけなんだ。でも今回は事情が違う」
「……どんな事情ですか?」
「君にはこの仕事の才能がある。それも君を審査に入れたらほかの子が凡人に見えるような……ね」
私はその意味不明な事情に疑問を浮かべる。
「なんで私達は初対面なのにそんなこと言えるんですか……?」
「えっと……実は……」
すごく申し訳なさそうに社長は此方に近づき……
「君の声……ニーリャから送られてきたんだよね……」
小声でそう囁いた。
「えぇ!?」
「これ誰にも言わないでね?後から説明するけど簡単な面接あるから。武器はのこしておきたいでしょ?」
「は……はぁ……」
曖昧な返事だったがそれを聞いた社長は満足そうに笑い、また対面に座る。
「それに君、ニーリャに先越されて劣等感抱いてるでしょ」
「む」
そういうのはストレートに言わないでほしいですね。
「ドストレートに言うなこの屑」
そうそうドストレートに言わないで……え!?屑って言いましたこの人!?
驚きの発言に私は古鉄さんのほうを振り向く。
「ん?……あぁ気にしなくていいですよこの人思っているより屑なので」
「そういう問題ですか!?」
瞬間、パンッと手を叩く音が部屋に木霊する。
「と!いう訳で君には是非ともうちにVTuberとして入ってもらいたい」
社長が少し慌てた様子で話題を変える。
その言葉に私はあっけを取られた。
それに呆れた目を向けながら古鉄さんは私の方を向く。
「……この会社の待遇や大学との両立については正式に入ってから説明しますので今質問するのは遠慮ください」
「はい……」
私は二人を見据えながら思考する。
私の今の取柄は声の良さ。
その得意点から私は声優希望だった。
それは私が声という武器を最大限活かせるのが声優だけだと思っていたからだ。
だけど今は選択肢がある。
VTuberか声優。
私にはこの2つを区別する項目がない。
リンゴとイチゴが赤いという共有する特徴しかないと区別しようがないように、私はこの2つの仕事を区別できない。
「……」
区別が出来ず、選ぶことをできず、私は黙り込んでしまう。
そも、私の存在を認めてくれる人なんてこの世界にはいない。
私は
きっと挑戦したらその道はマイナスな方向へ進む。
そんな思考の沼にはまっていた時、社長から話しかけられる。
「これは君自身を変えるチャンスでもあるんだ」
「は……」
私を貫く視線は鋭く、私のすべてを見据えているように感じた。
「君自身で決め、君自身の道を選ぶんだ」
刹那、私の脳がフラッシュを起こしたかのように真っ白になる。
何も考えれない、何も分からない白の中、私は自分の原型を探す。
「君の目標は何だ?君の過去はそんなに安いものなのか?」
そこは何もない白では無くなる。
過去が見える。
前世で無惨にも殺された私が
今が見える。
周りを恐れ、総てを疎外的に接している私が
未来が見える。
孤独となり、誰にも注目されない私が
私の脳内に光景が浮かぶ。
それはさっき見たVTuberの女性の方が配信している様子だった。
私よりも元気に話し、私よりも相手を見て、私よりも笑顔で、
私よりも……世界から認められてるようなそんな姿。
「ッ!?」
刹那、私の体に尋常じゃない熱が走る。
なりたい……あんな姿……
その感情は激しい願望であり……決意。
白の中に1つの
周りなんて知らない。アリザワカナエのための人生なんて知らない。ただ……ただ私が
世界が私を受け入れる?周りが私を認める?
否……それは周りの判断に過ぎない。
激情に動かされ、私は回答をはじき出す。
「私……やる……VTuber……私は私がこの世界に居てもいいって思えるようになる……!」
その眼には激しい渇望の炎が宿っていた。
――――――――――
「1週間後……ですか……」
私は自宅に戻り古鉄さんから渡された書類を見て私は呟く。
私がVTuberになるには面接を一度受けなければいけないらしい。
「面接……対策を立てときましょうか」
私はテーブルに備え付けのノートを取り出し、ペンを走らせる。
「私の武器は【美声】。そこは譲れないでしょう……」
そんな感じで私はノートに面接で意識したいことや、話し方のコツをメモしていく。
そんな作業に夢中になってしまい、時間はどんどん経っていた。
「……もう夜ですか」
いったんノートを片付け、寝室に向かった。
ロッカーに入っている部屋着を取り出し着替えようとする。
ロッカーから香る洗剤の良い匂いに心がフレッシュされ、頭もスッキリした。
着替えた後は台所で簡単に夕食を作って食べ、歯磨きをする。
「ん……ふぅ……」
そして今、私はベットに寝っ転がり、スマホをいじっている。
「今日はなんか濃い一日でしたね……」
会社への推薦で会社の人に会うかと思ったら社長だったし、その会社は私のしらない未知の職業だったし、詩織がなんかニーリャっていう別名持ってたし……
私の目標が決まったし。
「ふふ……」
思わず私は笑みをこぼしてしまう。
私のような敵役、世界から望まれていない存在が世界を覆し、主役になる。そんな最高な未来を実現できるかもしれない。
私が
「この体は私のものだぞ……アリザワカナエ」
――――――――――
「面白いね。あの子」
僕、田村井久はGO!ライブ!本社の屋上にある社長室で呟く。
「……有澤叶のことですか?」
隣にいた古鉄美里が僕のつぶやきに疑問をぶつけた。
「あぁ。そうだよ。彼女は天性の美声を持っている……これは話したかな?」
「えぇ……聞いた人は耳が快感に包まれ、脳が震えたような錯覚に陥る……にわかには信じられませんね」
「あぁ……僕も聞いた時は驚いたさ……君も面接の時に聴いたら驚愕するよ」
僕は手元にあったワインを一口飲む。
「それが面白いことだと?」
「いいや。あれはあくまで身体的な特徴に過ぎない。人間の面白さは内心に現れるものさ」
「彼女が何かを抱えていると言いたいのですか?私にはそんな仕草は感じられませんでしたけど……」
僕は彼女の方を向き、彼女に語り掛ける。
「彼女は何か……自分をイカれさせるほどの過去を背負っているよ」
彼女がVTuberになると決意した時の眼……あれは何かが過去に起きないと出来ない。
「そうですか」
「興味なさげだね」
「実際ないので」
素っ気なく返された僕は椅子から崩れ落ちそうになる。
「まぁいいか……あの子は僕が直々に育てよう」
「……これまでのメンバーも育ててるのでは?」
その質問に対して僕は首を振り、否定の意を示す。
「いいやちがう……彼女の才能はまだ開花していない。これまでのメンバーは才能が表面化していて、もう個人でその形が定められていた。だけど彼女はまだ枷にそれが埋もれてるだけなんだ」
「それではどのようにして育てるのですか?」
質問の多い秘書は僕にさらなる質問をする。
「その枷を外す。無理矢理でもいいからいろんなことに挑戦させていく」
僕は窓辺に行き下の街を見下ろす、見下ろした先は車の光で幻想的な風景を作っている。
「はぁ……この屑が」
その様子を見た古鉄がそうつぶやく。
「ははっ……よく言われるよ」
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