第6話 社長
「え……えぇぇぇぇ!?」
私は驚愕のあまり声を出してしまう。
普通こういう時は担当の社員が来てくれるものだと思っていたが社長が来てくれるなんて思いもしなかった。
「そんなに社長っぽくないかな?」
「い、いえ。そういうわけではなく……」
そういうと田村社長は古鉄さんにこずかれた。
「いじらないでください。メンバーじゃないんですよ?」
あきれ顔でそういった古鉄さんは此方の方を向き話しかけてくる。
「改めましてようこそGO!ライブ!へ。歓迎します。有沢叶さん。この会社については理解されていますでしょうか?」
「あ、実は詩織に調べなくてもいいと言われて……パンフレットも読み終わってないんです。」
「ニーリャが言いそうなことだね」
それを聞いた古鉄さんはパンフレットを仕舞い、手元の資料を机に置いてくる。
その中から1つ取り出し、私に差し出してきたのでそれを受け取り一枚目の資料を読む。
ほかの1つは社長に渡し、もう1つは自分の手に握っていた。
「あ、あの……」
話が止まったとこで私はさっきから気になっていた事を聞いてみる。
「その【ニーリャ】って詩織のことでしょうか?」
「それについても今から説明するよ」
そういうと社長は手元の資料から目を離し私を直視する。
「では今からGO!ライブ!についての説明会を始める」
私は身を若干、強張らせる。
「まずこの会社ってどんな会社だと思う?」
その質問に私はパンフレットから感じた印象を素直に答える。
「アニメ専門の声優会社……ですかね?」
それを聞いた社長は若干笑い首を振る。それが否定の仕草だと察し私は首をひねる。
「取り合えずこの会社についてどんなことを知ってる?」
「えぇと……声が主体の仕事と創作キャラクターを使う仕事というのは知ってます」
社長が意外な表情をする。
「結構知ってるね」
「……私が声関係の仕事に入りたいと言ったら詩織がここに推薦してくれたのと、パンフレットをパラパラっと呼んだ時の印象からの予想です」
「ほうほう」
社長はそれを聞き、手を挙げて指を3つ立てる。
「この仕事大事な要素は3つある。1つは声。もう1つはキャラクター体」
そう言いながら指を1つずつ折っていく。
「そして最後の1つは……【ライブアプリ】だよ」
「ライブ?」
私はますますわからなくなり質問をする。
「すいません……つながりがわかんないんですけど……」
社長は隣に立ってた古鉄さんに声をかける。
「あの子ってまだしてる?」
「はい。まだ続いてますね」
「?」
それを聞くと社長は立ち上がり私に向かって、手を招く。
「きなよ。多分見た方がわかりやすい」
そういうと社長と古鉄さんは部屋を出ていく。
「は、はい……」
まだ意味が分からなかった私はそれについていくことにした。
――――――――――
応接室を出てから向かったのは4階にある一室だった。
この階にある部屋にはどこも【スタジオ――】と書いてある。
「やはり何か収録をしておられるのですか?」
「まぁ大雑把に言えばそうかな」
大雑把に言えば?
その言葉に私は疑問を持つ。普通、声などを録音するならそれは直球に収録だ。
なのにこの人は今、大雑把にと言った。
本当になんの職業か分からない。
「ここです」
そう言って止まったのは【スタジオ5】と書かれている部屋の目の前だった。
「ここからは私語厳禁だ。驚きの声とかも、もちろんだめだよ?」
「は、はい」
「あと中にカメラがあると思うけどできるだけその画角にも入ってほしくないかなぁ」
社長がドアノブを捻り、ドアを開ける。
その部屋はテーブルが一個とソファがあり、ソファには女性が座っている。
部屋全体は素っ気ないが、逆にテーブルの上はものがすごい置いてあった。
見る限り、パソコン、カメラ、マイク、モニター3枚という、普通テーブルに置くようなものじゃないものが一気においてある。
「ハイハイ……あっ!スパチャサンキュー!なになに?〔最近雑談配信ないけどマシュマロ溜まってない?〕……ッスー……痛いところつくな……」
その部屋に座っている1人の女性は誰かと話すようにマイクに声をかけている。
表情も友達とかと話すときのように笑ったりしているし、一体何をやっているのだろうか。
そこから10分ぐらいその様子を見ていた。
何故かそれを見ていると惹き込まれるような感覚に陥り、自然と時間が立っていた。
社長がトントンっと私の肩を突き、部屋を出るように促す。
私は部屋を出るまでその女性に目を引かれていた。
「さて……なんの職業か分かったかい?」
部屋から出た私達は先程の部屋の前で話していた。
「……すみません。もしかしたら私が知らない職業なのかもしれません」
「ふむ……ちょっとこれ見てもらえるかな?」
そう言うと社長はスマホの画面を私に向けてきた。
「これ、は……?」
そこには1人の女性のキャラクターが立っており、ニコニコと笑いながら陽気に喋っている。
録音された機械的なものではなく、今、なにかに反応しながら喋っているように見えた。
その様子に気を取られ、気づかなかったが右端には文字が濁流のように流れている。
「ほら、この子の声。さっき聞いたでしょ」
私はさっきの女性の声を思い出し「あっ」と声を上げる。
確かにこの声はさっきの人の声に似ている。というかそのものだ。
そう思っているとキャラクター体がニコニコしてたり、真顔になったりしているのに気がつく。
「もしかして……この子とあの人は連動しているのですか?」
さっきの部屋にはカメラがあり、それに向かってあの人はニコニコしたりしていた。
「うん。大正解」
社長はポケットにスマホを入れ、私の方を向く。
「これが俗に言う【Vtuber】だ」
「V……tuber……」
私は知らなかったことを申し訳なく思い顔を下げる。
それを見た社長は少し苦笑いを浮かべた。
「まぁ最近やっと日の目を浴びるようになった職業だし、なによりマイナーな部類に入っているから知らないのも無理はない」
「はい……」
「それよりもなにか質問ある?」
社長が私の目を覗き込むように顔を見てくる。私は少し思案して口を開く。
「……詩織ってVtuberなんですか?」
「うん。そうだよ。Vtuberのときの名前はニーリャ、【ニーリャ・ファイブロライト】さ」
「だから詩織のことをニーリャって呼んでたんですね……」
「他にはある?」
「……貴方達はVtuberなんですか?」
その質問に社長はポカーンと口を開ける。
刹那、社長はくくっと笑い始める。
「そういえば言ってなかったね。ここはVtuberという仕事の会社じゃなくてVtuberを支援する会社なんだ」
「支援?」
「そう。Vtuberと言っても誰でも最初は初心者だ。そんななか、コメントの管理や配信機材の準備、トレーニングの手配とかの質を高くすることなんて至難の技だろう?だから私達はその質を高める代わりに彼女たちが得た収益を分けてもらっているわけだ。」
「なるほど。つまりアイドル事務所と似たようなものですね?」
「確かにアイドル事務所に似ている。というか[Vtuberはアイドル]として雇っている会社も少なくはない。それとアイドル事務所と関連して言うと僕たちのような会社はVtuber界にある程度ブランドを刻んでいるのさ。それを利用してのし上がりたいって人もココに志望してくる。」
社長が喋り終わったタイミングで古鉄さんが横から出てきて口を開く
「続きは応接室でいかがでしょうか」
「……そうしようか」
少し申し訳無さそうに返事をする社長に古鉄さんはニコッと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます