第14話 初配信(1)

 コメント

▷うおおおおおおお

▷楽しみすぎる

▷待機

▷待機

▷全裸待機

▷服着ろ


「ふぅー……」


 目の前の画面にいくつものコメントが流れていく。

 現在の同接数が1万超えのこともあり、コメントは私が読むより早く、上に流れて行ってしまう。

 そのコメント数から伝わる期待の大きさにより私に少し不安が宿る。


「大丈夫ですかね……」


 がうまくいくかどうかが不安になり、つい声が漏れてしまう。この初配信はVtuberにとって重要なもので、これが成功するかしないかでそのVtuberの印象すら変わるのだ。


「……今心配しても変わらないですよね」


 今からすることを今心配してもなにも代わらない。身を運命に任せよ。

 そんな言葉が私の考えに突き刺さり、私はくよくよするのを辞めにする。


――――配信開始まであと5分


 私は近くに置いてあったペットボトルの水を少し飲み、気持ちを落ち着かせる。

 そのままWebカメラとアプリの連携を確認する。

 アリシア・アンモライトの体は正常に動き、現実の私の体は表示されていない。

 その様子を確認した私は次の工程に移る。


――――配信開始まであと2分


 パソコンでライブを開始し、事前に用意されたオープニングを流す。

 オープニングはゆったりしたBGMの中アリシア・アンモライトが(空想上の)大学を歩いているというもの。

 ループものとなっており、定期的に正門のとこでニーリャと会うという演出もある。


――――配信開始まであと1分


 《あー、あー》


 事前の喉の調子を整え、パソコンのマウスに手をかける。

 カーソルが示す先はオープニングを解除し、配信を始めるボタン。


――――配信開始まであと30秒


 息を大きく吸い、大きく吐く。


――――配信開始まであと10秒


 モニターを凝視し、私の配信画面を見ながらマウスを左クリックする。


――――配信開始まであと5秒


 ミュートを解除し、私はマイクに向けて配信開始の合図となる言葉を発する。


 「皆さん初めまして。私はアリシア・アンモライトと申します。気軽にアリアと呼んでください」


――――配信開始まであと0秒


 ――――――――――


 コメント

▷きちゃ!

▷オープニングきちゃ!

▷平和だぁ

▷オープニングにニーリャいるやんwww

▷やはり友人か……

▷間に合ったー!


「心配だ心配だぁ!」


 私、井澤詩織は大学での友達である有澤叶……もといアリシア・アンモライトの初配信を見ていた。


「ミュートし忘れては……ないね!よし!……ちゃんと画面操作できてるかな……事故ってWebカメラの映像そのまま流したりとかしないよね!?」


 パソコンに表示されている配信を隅の隅まで見渡し、配信の不備がないかを確認する。

 配信画面と音声で判断する限り不備は無いのだが私はものすごく心配になる。


「あの子純粋無垢のお嬢様って感じだからドジッちゃうかもしれないし……」


 そんなことを言っていると配信画面が切り替わり、アリシアの姿が配信に乗る。


「きたー!」


 コメント

▷きたー!

▷銀髪好き

▷あの声を聞きに来た


 あぁくるくる!事故起こさないでね!?

 私が緊張しながら配信を見ていると配信から声が流れる。


 《皆さん初めまして。私はアリシア・アンモライトと申します。気軽にアリアと呼んでください》

 「ふにゅ!?」


 初手その声は反則でしょ……


 ――――――――――


 さて……初手の感触はどうですかね……


 コメント

▷あ

▷声良すぎだろ

▷ヤバすぎ

▷ぎもちいぃ

▷おっほ

▷チャンネル登録したわ


 「チャンネル登録ありがとうございます。声は私も長所と認識しているので褒められると嬉しいです」


 コメント

▷これは清楚じゃな?

▷清楚枠追加ってマ?

▷いや!まだわからんぞ!後から化けの皮がはがれていくのはよくある!


 「これからも私をほめていただけると私も嬉しいです」


 コメント

▷これは清楚確定

▷疑ったワイが間違っていた

▷明るすぎて蒸発する

▷即落ちで草


 取り敢えず初期の印象は清楚で安定しただろう。

 VTuber界隈では【清楚】は一定の人気を誇っている。わたしはそのキャラで安定させることを選んだ。


 「それでは簡単な自己紹介をしていきますね」


 配信外に用意していた自己紹介カードを画面に拡大して配信に乗せる。


【アリシア・アンモライト】

 由緒正しい家出身のお嬢様で日本に留学してきた大学生。

 ニーリャとは年の差はあるものも昔からの親友であり、ニーリャの配信での所謂友人はアリシアのこと。実は一緒に日本に留学していた。

 VTuberにはニーリャからの誘いでなることを決意した。

 周りからは【アリア】という愛称で呼ばれている。

 お嬢様出身なので周りの文化には少し疎い部分がある。


 これもう留学とお嬢様をのぞいたらリアルでの私とそっくりですよね……

 そんなことを思いながら私は自己紹介カードを縮小化し、右上に配置する。


 コメント

▷お嬢様学生かぁ

▷アリアって発音いいね

▷一年ぐらい日本に滞在してるんか


 「まぁそうですね。一年日本に滞在させてもらってます。ニーリャとは年の差はありますけど対等な親友だと思ってますよ」


 私はにっこりと笑いながらそんなことを言う。


 コメント

▷惚れた

▷結婚しよ

▷天使……?

▷一生推す


 「ありがとうございます。……それでは次はマチュマロ返信の方をやっていきたいと思います」

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