第10話 従順な先輩

「あーあ。腕が寂しいんですけどぉ〜」


「どうぞどうぞ」


「あーあ。ドーナツ食べたいなぁ〜」


「どうぞどうぞ」


 どうやら先輩は嘘告だと思っていたことに責任を感じているのか、珍しく従順になってる。


 学校の帰り道。

 こうやって先輩と二人でショッピングモールに行くの、夢だったんだよね。


「これで許してくれたり……」


「何言ってるんですか先輩。私、ずっと言ってますよね。別に許すも何もないって」


「いやいやいや。そういうのいいから。許してくれる?」


 ふむ。私が許してあげないと納得しないみたい。

 かわいそうだから許してあげればいいんだけど。

 こんな従順で可愛い先輩、みすみす手放すわけにはいかない。


「許すわけないじゃないですか。私、嘘だって思われて悲しい思いしたんですよ? 心の傷は一生消えません……」


「す、すまない。なにかしてはしいことはあるか?」


 心の傷って言っても、実際のところは家に帰って10分泣いたところで嘘だと思われてるんじゃないかって気づいて泣き止んだんだけど。


 先輩を意のままに操るためには真実を言わないほうが吉!


「う、うぁー。自分でドーナツを口に運んだらトラウマがぁー。先輩に食べさせてもらったら食べれそうだなぁー」


「おう。任せろ」


 先輩は純粋に私の機嫌を取ろうとしていて、自分が今「あーん」してるところだって気づいてなさそう。


 よし。今度は私がしたいな。


「先輩。私もあーんしたいです」


「おう。任せ、ろぁ!?」


 疑問に思いそうだったので、空いてる口にすぐドーナツを入れた。

 

「おいしいですか?」

 

「うんうん」


 恋人みたいなあーんがしたかったけど、まぁ夢が叶えられたからいいや。


「なぁ桃華」


 ドーナツを飲み込んだ先輩はさっきまでの従順な様子と打って変わって、明るい笑顔を向けてきた。

 正しこの笑顔は心から明るくはない。


「思ったんだが、従順な俺を使って遊んでないか?」


 気づくの早すぎる。


「な、何を言ってるんですか。私は心に傷がついてるんですよ? この傷、誰につけられたと思ってるんですか……」


「そのわりには傷をつけた本人と楽しんでるな」


「…………」


 あっこれ、ダメなやつだ。


「おい。なんで黙るんだ? なんで目を逸らすんだ? おーいおーい」


 ぐぬぬ。

 

「静かにしてください先輩。ここ、周りに同じ学校の人とかいろんな人がいるんですよ? 私たちのこと、痴話喧嘩をしてるカップルだって思われてるかもしれませんね」

 

「それがどうした。桃華はそういう関係になりたいんだろ? あ、もしかしてこれ遠回しの告白か? なんか……すまんな」


「告白じゃないです! なんで朝と立場逆転してるの……」


 全く。いじわるな先輩なんだから。


 でも、こっちの先輩のほうが好き。

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嘘告ばかりしてくる生意気な後輩が真面目に告白してきたが、どうせまた嘘だ でずな @Dezuna

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