第9話 慰める後輩

「……おはようございます」


 絶対昨日のことを引きずっていて落ち込んでいる桃華が、さも平然を装ってあいさつしてきた。


 あれからいうもの。

 普段なら夜、ラインが来ているが来ず。

 逆に俺の方からラインをしてもハムちゃんスタンプ一個で返されてしまっている。


「先輩、眠そうですね」


「いや……まぁな」


 隠れてあくびをしたところを見られてしまった。


 さすがに一晩中、どんな大切なことを勘違いしてるのかと考えるのはよくなかった。

 でも、そのおかげで大体わかった。


 多分だがこの前空き教室でされた嘘告。

 あれが告白だったんだろう。前後の会話を思い出すと、本物の告白だったんだろうと予測がつく。


 そんなことするわけない、という先入観のせいで全く気づけなかった。

 

「先輩、なにかあったんですか?」


 この前、俺が何度もした桃華への質問を返されてしまった。

 

 そんな顔に出てるか?


「なんでそう思う?」


「いつもの先輩じゃないからです」


 いつもの俺ってどんなだよ。


「もう仕方ないですね……。なにがあったのかはこの際聞きません。ですがそのかわり、左腕を貸してください。腕を組んで慰めてあげます」


「お、おう」


 俺が慰める側の人間じゃねぇか?


 桃華はそんな疑問を考える隙を与えてくれず、すぐ腕を組んできた。

 いや。これは腕組んでいる、というより腕に抱きついているという方が正しいな。


「今の私たち、何も知らない周りの人たちの目にはどんなふうに映ってるんでしょうかね?」

 

「……さぁ」


 昨日、何も知らず告白を断ってしまっているというのに。

 なんで桃華はこんなにも普段通りでいられる? 


 嘘告だと思ってたって早く言うべきだよな。


「桃華。実は俺、言わなくちゃいかないことがあっ……」


 小さな手で無理やり口を塞がれた。


「言わなくていいです」


 腕を抱きしめる力が増した。


「実は昨日の夜から、嘘だと思われてたんじゃないかなって思ってたんです。……あれは私の方も嘘じゃないって言わなかったせいでもあります。なので、何も言わないでください。そうすればまた、0から始められます」


 なんて大人な対応なんだ。

 

 「先輩」「先輩」だなんて言われてるが、今のこの瞬間だけ桃華のほうが先輩にふさわしい。


「あれれ? 先輩? なーんかニヤニヤしてません? もしかして0から始められるって聞いて、また告白されるんじゃないかって思ってるんですか?」


「思ってます」


 思わず本音が出てしまった。


「残念でしたぁ〜! もう私の方からは告白しませぇ〜ん!」


「まじ?」


 また本音が出た。


「まじのまじです。だって私、嘘だと思われてたんですよ? もし先輩がどうしても……どうしてもそういう関係になりたいのなら、考えてあげてもいいです」


 くっ。さっきは「私の方も嘘じゃないって言わなかったせい」とかって言ってたのに、手のひら返しがすごい。


 でも泣かせちゃってるから何も言えねぇ。


「あっもしかして今告白するんですか!?」


「しねぇよ!」


 俺が生意気な後輩に告白なんて……告白なんて……。

 

 



【あとがき】

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