第7話 圧倒する後輩

「おいおいおい。あの桃華ちゃんと親密な仲らしいけど、お前どこまで行ってる?」


「返答によっては終身刑ですね」


「許せるわけがない……許せるわけがない……」


 例の噂が広まってから数日。


 俺の机の前には、名前も知らない奴らが集まっている。

 この全員男の3人組は桃華の自称追っかけらしい。

 正直、めちゃくちゃうざい。

 こうやって休み時間の度、この人たちに言い詰められろくに休めれてないのだ。


 桃華はあの日を境に、全然教室に来ないし。

 徹は面倒事に巻き込まれる前に逃げたし。

 

「はぁ」


 こいつら俺が何言っても信じてくれないし、どうすりゃいいんだよ。


「ちょっとあなた達。先輩になにしてくれてるんですか」


 聞き慣れた声が聞こえてきた。


「も、桃華ちゃん! 少し聞きたいことがあるんだけど!」


「私達のことを裏切りませんよね」

 

「嘘だ……嘘だ……」


 桃華はキッと目を鋭くさせ。

 

「私はあなた達のような気持ちが悪い人、知り合いにいません。先輩のことを困らせる人は全員敵です。今すぐ立ち去ってください! 消えてください! 喋りかけてこないでください!」


 桃華の絶叫に3人組は圧倒され。

 俺に一礼し、今にも泣きそうな顔をしながら教室を出ていった。


 あいつら意外と従順なんだな。

 

「さて、先輩。大丈夫でしたか?」

 

「なわけないだろ……。俺、この数日ずっとあいつらに粘着されて心がすり減ったわ」


「ごめんなさい。でも、もう大丈夫です。これからは私が追っ払いますので!」


 お。どうしたんだ?

 いつもの調子なら「えっ? あんな人たちに心がすり減るって、一体どんな心をしてるんですか? もしかして先輩、水たまりを見て悲しくなるような人ですか?」などとからかわれてるところだ。


 今日の桃華はえらく頼もしい。

 少し見直そうかと思ったときだった。


「ふっ」


 鼻で笑われた。


「…………」


 なんだろう。嫌な予感がする。


「なぁ」


「なんですか?」


「もしかしてなんだが、あいつらに俺に粘着しろって言ったりしてはないよな?」


「するわけないじゃないですか。まぁ、苦しそうな先輩の顔を見るために放置はしましたけど」


 鬼畜だな。


「あのさ。俺になにか個人的な恨みとかあるの?」


「あります。ありますとも。……先輩、この前はハムちゃんスタンプを一緒に布教しようって誘ってきたくせに全然ラインしてくれないじゃないですか! 既読スルーってなんですかそれ! 未読スルーってなんですかそれ!」


「…………申し開きもございません」


「先輩はもっと、私のことを大事にしてもいいんじゃないですか?」


「でもさっきみたいにからかってくるじゃん」


「なんで私、先輩のことからからかってると思います?」


 難題だ。思えば、桃華には出会ってからずっとからかわれている。

 ただ面白がってるとしか思ってないんだけど。

 他になにか理由があるのか?

 

「わかりませんか?」


「まぁ、うん。わからん」


「へへっ。わからないんですか。そうですか」


 なんでちょっと嬉しそうなんだ。

 

 普段なら桃華が考えていることを手に取るようにわかってたのに。

 こうも変わられるとわからない。

 ……なんかちょっと寂しいな。

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