第6話 彼女は後輩?
昼休み。
今もそうだがここ最近、教室で向けられる視線に違和感を覚えるようになった。
喋りかけられることは、以前と変わってない。
なにかした覚えもない。だが、その視線はたしかに俺を一直線に貫くものばかりだ。
「おいおい海。なんでこんな噂になる前に俺に教えてくれなかったんだ? 俺たちって、結構仲良いと思ってたんだけど……」
徹は見に覚えのないことを言い放ち、勝手に落ち込んでいる。
「噂ってなんのこと?」
「お前が後輩と付き合ってるって噂。全く。俺に言わせて自慢するなって」
「…………」
なんなんだその噂。
「告白されていたところを見た」というのはこの前もあったけど、そこまで一歩前に出たものは初めてだ。
「はぁ〜。リア充になっちまうと思うと寂しいぜ……」
「その噂、どこから広がったものかわかるか?」
「ん? 俺が聞いた話だとその人曰く、「本人が自慢げに言ってた」らしいけど。なんだ? 海が自慢してたんじゃないのか?」
なんだと……。
「仮に彼女ができたとて、俺は自慢せん」
「じゃあ、あの後輩ちゃんか」
なるほど。あの悪巧みをしそうな顔を向けられ数日間。
やけに静かで、特に何もなかったのはそういうことだったのか。
「おっ噂をすれば来たぞ」
桃華はさも当然のように教室に入り、俺の前までゆっくり歩いてきた。
「先輩。ラインしたのになんで見てくれないんですか?」
「いやいやちょっと待て。そんなことより、よくわからん噂を流したのは桃華で間違いないよな?」
「噂? なんのことですか?」
いつになく真顔だ。
おかしい……。俺の予想が正しければ、今頃からかわれて面白がられるはずなのに。
「俺たちが付き合ってるとかいう噂なんだけど」
「? よくわからないです。そんな噂、流した覚えありません。……というか、もし私がそういう噂を流すなら先輩の耳に届くのは一番最後にするので絶対違います」
「お、おう。そうか」
じゃあ一体誰が?
そう疑問に思ったとき。
桃華が「あーそういえば」と、目を泳がせ分が悪そうに喋り始めた。
「この前私、先輩に告白したじゃないですか」
「あぁ」
嘘告だけどな。
「そのこと友達に話しちゃって、それに尾ひれがついてこういう噂になってるかもしれないです」
「ふむふむ」
嘘告したのを友達に話すのはよくわからないけど。
桃華は悪くないのか。
「すまん。正直噂聞いたとき、また桃華がやったと思った」
「しっかりしてくださいよ先輩。もし私が噂を流すなら、もっと踏み込んだことを流すので安心してください!」
「全然安心できないんだけど!?」
「ふふふ……先輩、これがツンデレってやつですね」
「何を言ってる?」
「心配しなくても大丈夫です。私はありもしない噂を流すことなんてしません」
「頼むぞまじで」
今回のことでわかったが、桃華は一年生の中で結構注目の的かもしれない。
ただ友達に話した程度で、噂が自然に俺のところまで流れてくるなんて早々ないことだ。
ありもしない噂を流されたら溜まったもんじゃない。
「こ、後輩ちゃん。少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「はい。先輩のお友達の方ですね。なんですか?」
「実のところ海のこと、好きだったりする?」
「「「…………」」」
空気が凍りついた。
徹はまだかまだか、とキラキラした瞳を向け桃華の返答を待ってる。
さっきの会話に入ってこなかったのは、もしかして俺たちのことを観察してたのか?
流石、恋に飢えた猛獣だな。
「……え、っと……あ……え……」
返答は決まりきってるのになんでそんなオドオドしてるんだ?
「へへへ」
「「…………」」
俺と徹は意味深な笑いに思わず顔を見合ってしまった。
なんて反応をするんだ。そんな笑いされたら、怪しまれてしまうじゃないか。
いや、もう徹の俺のことを見る目が忌み嫌うリア充を見るそれなんだが。
「な、なるほど。後輩ちゃんありがとう」
「いえいえ。こちらこそ今ので理解して頂いてありがとうございます」
「ははっ……理解……ははっ……」
徹は壊れた機械のようにそう言いながら、俺たちのもとから去った。
……徹の誤解ならすぐ解ける。
でも、今の会話を盗み聞きしていたほとんど喋ったことのない教室にいる連中は無理だ。
四方八方から降り注がれる視線が痛い。
「なぁ。桃華から誤解を解くこと大声で言ってくれない?」
「何言ってるんですか。嫌ですよ」
そう言い残し、桃華も俺のもとから去ってしまった。
「あっ桃華ちゃん! あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……。桃華ちゃんに最近彼氏ができたっていうの本当?」
ん?
廊下で喋ってるのか?
「さぁ。どうでしょうか」
「きゃ〜。それできた言い方じゃん!」
「ふふふ。間違ったことは一つも言ってませんから……」
……うん。
噂が流れる原因、そうやって意味深に言うからじゃん。
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