第4話 おかしな後輩

「先輩!」


「せんぱぁ〜い」


「先輩先輩!」

  

 今日の桃華はどこか様子がおかしい。

 

 いつも途中で合流し、二人で一緒に学校で行っている。が、こんな出来立てほやほやなカップルのような距離感で行ってはない。


「なぁ、なんか悪いものでも食ったのか?」


「先輩こそおかしなもの食べたんじゃないですか? さっきからずっと腕を組もうとしてるのに、頑なにしてくれないのはおかしいです」


 頬に空気を含め、ぷくぅ〜っとふぐのような顔で不満をあらわにしてきた。


「相談ならいつでも乗るぞ」


「……ひどいですよ」


 腕を組まないのがひどいこと……?

 俺の常識だと、生意気な後輩と意味もなく腕を組むなんてありえないんだけど。

 ん? 

 おかしい。そういえば、今日桃華は特段生意気な感じではない。

 

 ただ腕を組みたいってことか? 

 周りに同じ高校に通う人たちがいる中で?

 

「先輩、もういいです」


 桃華は冷たく言い放ち。


「了承なんて聞いてたらきりがないので、勝手に腕組ませてもらいます!!」


 俺の右腕に抱きついてきた。


「ちょ、離せって」


「嫌です。だって先輩、腕組むの心の底から拒否してないですもん。心の中じゃ私と腕を組めて喜んでるに決まってます」


 たしかに異性とこんなことしたことないから喜べるかもしれないけど。

 相手が桃華となると話は別。喜ぶ以前に、なぜこんなことをしてくるのか……心配になる。


「桃華。ちょっと冷静になって今の状況を考えてみてくれ。周りにいるのは同じ学校に通う人たち。中には俺と同じクラスでみたことあるやつもいる。……そんな人たちがいる中、俺の腕に抱きついているんだぞ?」


「いいね」


 深刻な声色でだったが、返ってきたのは明るい声だった。


「…………なるほど」


 何を言っても無駄みたいだ。

 変な抵抗をしてるところを見られると、逆に変な誤解を生んでしまうかもしれない。こうなったらもう、堂々とするしかないじゃん。


「ようやく受け入れてくれましたね」


「…………」


「恥ずかしがっても無駄ですよ。このこのぉ〜」


 一番くすぐったい横っ腹をツンツンしてきた。


 こんなことされて笑うものか。


「まじでちょ、まじで無理無理無理無理。ギブだからこれ以上ツンツンするのやめてくれない?」 


「にひひっ。最初からそう言ってくれればしなかったのに。やめてほしいなら、言い方ってものがありますよね?」


「……ごめんない。好きに腕を組んでいいのでツンツンだけは勘弁してください」


「言質、取りました」


 桃華はそう言い、スマホで『好きに腕を組んでいいのでツンツンだけは勘弁してください』と録音を再生してきた。

 

 スマホで録音を準備でした辺り、最初から手のひらで踊らせてる気がしてたまらない。

 おかしくはなったけど、やぱっぱり生意気なところは変わらないってわけか。


「あーあ。もし私の気分が害されたらこの録音した音声、学校中に流しちゃいそうだなぁー」


「流したいのなら流せばいい」

 

「んへ? そこはこう……「やめてくれ! 桃華は〇〇が可愛い!」とか、「愛してる!」とか言う場面じゃないんですか?」


「んなこと言うわけねぇじゃん。そんな録音の一つ、俺にとっちゃ痛くも痒くもないからな」


『好きに腕を組んでいいのでツンツンだけは勘弁してください』


『好きに』


『好き』


『好っ』


『すぅ〜きぃ〜にぃ〜』


「桃華って俺が見てきた女性の中で一番魅力的だわ。まじで。すげぇよ。ずっと隠してたけど初対面のとき、女神かと思ったし」


「わかってくれればいいですよ」


 桃華は「ひひひっ」と笑いながらいたずらっ子がしそうな顔をし。


「絶対逃しませんからね。先輩」

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