第3話 デレデレな後輩

 これはきっと罠だ。


「せんぱぁ〜い」


「もう。無視しないでくださいよ」


「先輩ったら、先輩。ちゃんと私のこと見てください」


 甘えるような言葉をかけられていた無視していたが、ぐいっと首を曲げられ俺の顔は桃華の顔の前に向けられた。

 

 息遣いが聞こえてくるほどの距離だったが。

 その後無理やり椅子に座らせられ、見下される形になった。


 こんな場面でいつもならしそうな、生意気な顔はしてない。どっちかというと、今の顔はとろけてる。


 暑いわけじゃない。俺のことをじっと、とろけた顔で見続けてる。

 何を考えてるのか全くわからん。


「あの……桃華さん。これから俺をどうするつもりですか」


「先輩なら言わなくてもわかりますよね?」

 

 いやわかんねぇよ!


 思わず口から出そうだったが、桃華の口角が上がったのを見て言いたいことがわかった。

 

「なるほど。いつものあれか」


「はい。そうです。こういうときのためにずっとやってきたんですから」

 

 なんですぐわからなかったんだ。

 この空気、いつも嘘告するときと同じゃないか。


 一日で二回も嘘告されたことなんてなかったら、頭に入ってなかったわ。


 とりあえずしたら満足するだろうし、俺もされる側として身構えとかないと。


「んんっ。先輩、始めてもいいですか?」


「おう。いつでも」


「では、始めます」


 あれ?

 今まで嘘告するとき俺にこんな確認取ってきてたっけ?

 ……まぁ細かいことはいっか。


「先輩……。出会ったあの日から、ずっとずっとずっと好きでした!」

 

「そ、そうだったのか」


 なんだろう。今回のは一言一句ちゃんと気持ちが込められている。 


 ……随分気合入ってるなぁ。


 感心してる俺をよそに。

 桃華は左膝を曲げ、俺のことを見上げる形になり。流れるように俺の右手を両手で優しく包み込んてきた。


「付き合って、くれますか?」


「へっ!? どうだろうなぁ……」


 本気の声に動揺が隠せない。


「です、よね。後輩だとしか思ってなかった人に、いきなりこんなこと言われても即断できませんよね」

 

「そう、それだ。即断できず、すまんな」


「いいんです。私は先輩にこの秘めた思いをずっと言いたくて、今こうやって言えたんですから。……その代わり、いつでもいいのでちゃんと応え聞かせてくださいね」


「もちろん。俺の名にかけて必ず応える」


「へへっ。ありがとうございますっ」


 ここで終わりかな。

 今回の嘘告は気持ちが入ってたっていうのもあるけど、リアルの関係とリンクしてて完成度が高かった。

 

「先輩。もうちょっと手、握ってていいですか?」


「どう、ぞ」


 いつも嘘告のあとは雑だったのに、男がぐっとくるようなことを言ってくるなんて……。

 くそっ。演技だとしても、こんなことされたらぐっときちゃうじゃん。


「先輩の手って男の人らしい手ですね」


 桃華は興味津々な目をしながら、俺の手をモミモミ触ってきた。

 

「逆に桃華の手は女の人らしい手だな」


「セクハラですか?」


「いやそういう意味で行ったわけじゃなくてだな。そっちが男の人らしいだ何だ言ってきたから言っただけで……」


「ふふふっ焦りすぎです。先輩になら、セクハラされても気にしませんよ?」


「そういう冗談、俺以外の男相手に言ったら取り返しのつかないことになるから注意しろよ」


「先輩となら、取り返しのつかないことになってもいいですよ?」


 元の生意気な後輩に戻ったかと思ったけど。

 これはまだ演技を続けてるのか?

 

 探りを入れようとしたが、桃華は自分が何を言ったのか理解したようで、顔を真っ赤にし。

 

「忘れてくださいぃー!!」


 大声を発しながら空き教室から飛び出て行ってしまった。 


「えーと」


 あの反応、演技っぽくなかったよな。


 あ、あれぇ?

 いつものネタバラシは?

 ……今俺がされたのって嘘告だよな?

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る