第2話 覗き魔後輩

「なぁ海。俺さ、前々から気になってたんだけど、例の後輩ちゃんとどこまでいってるん?」


 帰りの仕度をしていると、唐突に前の席に座る男から質問が投げかけられた。


 この男の名前は福山ふじやまとおる

 中学の頃から友達で、恋愛話が大好きな恋に飢えた猛獣とでも言っておこう。


「どこまでいってるもなにも、普通に先輩後輩の関係だけど」


「ちょちょちょ、それはないっしょ。……ずっと言い出しづらかったんだけど、ちょうど1週間くらい前にお前が後輩ちゃんに告白されてたところ見ちまったんだよ」


「あぁ。それ嘘告」


「……え?」


「もう18回されてる」


「……え?」


 目をぱちぱちさせ、口が半開き。


 これが普通の人がする正常な反応なんだろう。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。じゃあいつもこの時間になったら後輩ちゃんが扉の隙間から覗いてきてるのは、ただの趣味かなにかか?」


「……え?」


 覗いてきてるだと?

 そういえば今日の昼休み木陰で、覗いたとき云々カンヌン言ってた気がする。


 いや待て。冷静に考えたらこの時間に教室を抜け出すことなんてできるわけ。


「やばっ」


 ものすごく聞き覚えのある声が聞こえた瞬間、そっと教室の扉が閉まった。


「…………」


 本当にいたんだけど。


「いつ頃から覗いてたかわかるか?」


「最初幽霊かもしれないって思ったからしっかり覚えてる。今年の入学式が終わったその翌日からで間違いない」

 

「うっそ」


 これが本当だったら、桃華はなんで俺の教室を覗き込んでいるんだ?

 こればかりは本人に確認してみないとな……。

 わからないと気になって夜も眠らなそうだ。

  

 

  ■□■□



 放課後。俺は桃華を人気のない空き教室に呼び出し、気になっていたことを聞いたのだが。

 

「嫌です」


 きっぱりと断られた。


「後ろめたいことがあったり?」


「いくら先輩でも何をしてたのかを言うのは嫌です。もし知りたいなら、自分の心に手を当てて聞いてみたらいいんじゃないですか? おのずと答えが出てきます」


「はっ、なるほど。俺を煽るために弱みを探してたのか!」


「そんなことしなくても先輩の弱みはわかりますよ。例えば」


「い、いやぁ〜桃華ってすげぇなぁ〜。一年生の中でも秀でて天才だわ。他の一年生知らないけど……。よし! 俺も先輩として恥をかかないよう頑張らないとな!」


 慌てて機嫌を取ろうとしてる俺を見た桃華は小さく息を吐き。


「その通りです。頑張ってくださいね、先輩」


 いつもの生意気な笑みを浮かべ、話を丸く抑えようとしてきた。


 俺が話をすり替えるようなことを言ってしまったが、このまま逃してたまるか。

 

「桃華……。思ったんだが、もしかして教室を覗いてたんじゃなくて俺のことを見てたんじゃないか?」


 無反応。


「これはただ、胸に手を当てて聞いてみただけだから気にしないでくれ」 


「……先輩って私のことなら何でもわかっちゃうんですね」


 桃華は小さく呟き「へへっ」と微笑んだ。

 窓から差し込む夕日のせいか、頬が赤く染まってる。

 

 ……ついさっきまでの、人をバカにしたような空気はどこにいったんだ。  


 これもいつもの俺を小バカにするための演技か?


 なんてこと、息をするのも苦しい空気の中では質問できない。

  

「せ、ん、ぱ、い。えへへ〜」


 なんなんだこの後輩。

 


 


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