第二話 『お隣の席のギャルは幼なじみの義妹だそうです!』(後編)
本日は初日の登校なので、授業は午前まで終わった。
そんなオレはめずらしく
「おい、朱音さん……これはどういうことだ!? どうして、オレたちの前を歩いているギャルの苗字が
はっきり言って、意味が全然わからん。
ギャル和泉に質問しても、はぐらかして、まったく答えようとはしない。
「あれか? 見た目はJKギャル、中身は幼女ってやつか? あのギャル、実年齢は五歳の幼女なのか???」
だとしたら、めちゃくちゃ大変だ。
オレはそんな幼女にドキドキしていることになるぞ。
「話が飛躍しすぎだ、バカぁ! あいつは……一応、私の義妹になる。……まあ、なんだ、義妹は一人だけではなかった。これはそういう話だ」
「え? つまり、五歳の幼女以外にも、義妹がいて、あのギャル和泉さんも朱音の義妹ってこと!?」
「ああ、そういうことだ」
「…………それ、なんてラノベ!?!? なんて、ラノベですか??? えぇ? 義妹って、オレみたいなパッとしない野郎のところに現れて、『匠海お兄ちゃん、大好きっ! 今すぐ抱いてっ!」って感じで、ラブコメ恋愛をするもんだろう? 間違っても、朱音のような、リア充女のところには絶対来ないように設定されているはずだ」
「……おまえ、普段からそんな小説ばかり読んでいるのか?」
「うん」
オレの問いに朱音はおでこに手をあてて、これでもかと痛そうな顔をする。
「はあ~~。本当に呆れた幼なじみだな、匠海は……」
「ちょっと、二人でイチャついていないで、あたしも話に混ぜなさいよ。あと、あたしは認めないわよ。あんたが姉さんだなんて……」
「昨日も言ったが、私は六月生まれだ。それで、おまえは何月に生まれたんだ?」
朱音はニヤリと不適な笑みを浮かべ、ギャル和泉さんこと、和泉凛子を挑発する。
めずらしいな、朱音が他人にここまで好戦的な物言いをするなんて……。
そんな朱音の問いに、心底悔しそうな表情を見せるギャル和泉さん。
そして、そっぽを向きながら、
「……く、九月よ。九月十日があたしの誕生日……」
だそうだ。
ちなみにオレは十一月生まれなので、二人とも少しだけ、オレよりお姉ちゃんになるな。
「ふっ! つまり、三ヶ月先に生まれた私の方がずっとずっと、ずーーーっと姉だということだ。次女よ、あきらめるんだな。この事実だけはなにがあっても曲げることができない決定的な事実だ。そう、私が長女だということは絶対に覆ることはない」
「ぐぬぬぬぬぅ……。ホント、相変わらず、上から目線でムカつく奴ね……」
なんだか、二人のやり取りを見ていて、ひとつ違和感を覚えた。
「仲が良いな。まるで、昔からの姉妹にみえるぞ」
「「……………………………………………………」」
「うんん???」
なんで急に二人して沈黙するのかな???
「バカ朱音、このパーカー、まだあたしの正体に気づいていないわよ」
「アホ凛子、匠海は生粋の鈍感男だ。ちゃんと一から説明しないと一生気づかないかもしれないぞ」
「……はあ?」
うん? いったいどういう意味だ???
「まあ、あたしも人のことは言えないけけど。まさかあの天使のように愛らしい少年が、こんなパッとしない、どこにでもいそうな高校生に変貌するなんて……。現実って本当に残酷ね」
「そうだな。あの愛くるしい美少年が、こんな十人並みになるとは……。真実はいつも無慈悲だ」
……よくわからないけど、とりあえず二人して、オレをディスっているのだけは理解したぞ。
言い返してやろうと思っていたら、いつの間にかお互いの自宅にたどり着いていた。
ちょうど、朱音の家の前に停まっていた引っ越しのトラックが走り出した。
どうやら、荷物をすべて運び終え、次の現場へでも向かうのだろう。
「匠海、悪いが引っ越し荷ほどき手伝ってもらえるか?」
「ああ、それぐらいならお安いご用だ。着替えたら、そっちに行くわ。と、その前に、朱音、二人だけで少し話がある」
「うん? 二人で?」
「すぐ終わる」
オレは一切気にしないが、これから話す内容は朱音にとって、他人には絶対に聞かれたくはない内容になるだろう。
そして、オレと朱音はギャル和泉さんを見つめる。
「なによ、あたしだけのけ者にする気なの?」
もちろん、ギャル和泉さんは面白くない顔した。
「ふっ! どうやら、おまえはおじゃま虫みたいだぞ」
朱音はギャル和泉さんに勝ち誇った顔をしていた。
楽しそうなところ悪いけど、これから話す内容は間違いなく、朱音にとって面白くない内容だぞ。
「ふーん。……まあ、いいわ。バカ朱音、先に帰っているから」
もっと、ぶつぶつと文句を言ってくるかと思っていたが、意外なことにギャル和泉はあっさりと引き下がってきた。
そして、ギャル和泉さんは朱音の自宅へ帰った。
「それで、なんの相談だ?」
「一応確認しておく。新しい家族にその秘密をカミングアウトするのか?」
オレは朱音の自称Dカップの胸を指さす。
「おい、セクハラだぞ」
当然、朱音はギロリとオレをにらみつけてきた。
オレはそんな彼女の鋭い視線を受け流し、
「本物じゃないんだから、指さしても問題はない。そんなことよりも、新しい家族にその偽乳を隠し続けるつもりなのか?」
「……偽乳??? 匠海、何を言っているんだ???」
「――ええええっ!?!?!? まさか、ここで誤魔化すとは思いもしなかったぞぉ!」
「これは本物の胸だぞ???」
そう言って、偽乳を突き出す朱音。
「いやいや、一昨日、この自宅で、相談された時はそんな胸が膨らんでいなかったぞ。まったく、おまえの所為で本物の定義が壊れそうだわ」
そんなに自分が貧乳だと認めたくないのか……。
「まあ、お前がそう言うなら、これ以上は追及しない。けど、後で泣くようなことになっても助けないからな」
そう言って、オレは自身の自宅へ戻り、玄関に鞄と脱いだ学ランを置いて、そのままお隣の家へ。
「なんだ、待ってくれていたのか?」
「どうせ、鞄と学ランを置いてくるだけだと思っていたからな」
流石は幼なじみ。オレがどう行動するか、よく理解している。
「ただいま」
「お邪魔します」
「「おかえりなさい!」」
聞き覚えのある男の声と、聞き覚えのない女性の声がリビングから聞こえた。
おかえりなさいか。……なんだか、不思議な気分だ。いつもなら、絶対にあいさつは返ってこないのに。
朱音もオレと同じような感想を抱いていたようで、少し不思議そうな顔をしていた。
「私は部屋で着替えてくる。匠海は――」
「とりあえず、リビングを手伝ってくる」
靴を脱ぎ、朱音はそのまま階段を目指し、オレはリビングへ。
ちなみに、玄関には小さな靴や、朱音のものではない女性の靴が綺麗に並べられていた。
「手伝いに来ました」
扉を開けるとジャージ姿の朱音のオヤジさん、まんまるとお腹が膨らんでいる、マタニティウェアの女性が立っていた。
どうやら、この妊婦さんが朱音の新しい
「おお、手伝いに来てくれたか」
「すごい荷物ですね」
リビングの奥には無数の段ボール、ちょっとした家具、家電が積み上げられていた。……すごい量の荷物だな。
朱音の
「匠海君、大きくなったわね~~」
うん? 大きくなった?
「だって、あれから十年だものね……」
あれから十年???
「あ、あのーっ! 失礼ですが――」
朱音の
「ママっ! 猫ちゃんに餌をあげてきたぁ!」
元気な声を上げ、リビングに幼女が駆けてきた。
「こら、家の中では走らない!」
「はぁ~い、ごめんなさい」
そんな幼女を
「うん? お兄ちゃんはだれ?」
そして、幼女と目が合う。
オレはそんな幼女の容姿を見て、目が見開くほど、驚いた。
だって、オレはこの幼女を知っている。
この黒い髪に、長いまつげ、綺麗な鼻筋。
そして、このお茶の間の大人たちを虜にした、エンジェル・スマイル。
――間違いなく『リンリン』だ!
そう、オレや朱音と子役時代にドラマで共演したリンリンだ。
オレは不思議そうな顔でこちらを見つめている、リンリンの脇腹を掴み、そのまま自分の目線まで持ち上げる。
「おまえ、ぜんぜん成長していないな。まさか、年を取らないクスリでも飲んでいるの――いったぁ!」
背後から誰かに頭を叩かれた。
振り返るとそこには制服姿のままのギャル和泉さんが立っていた。
「アホっ! まだ気がつかないの? とりあえず、
とりあえず、少しオレに怯えている幼女を床に下ろした。
「本当にあんたは生粋のバカね。はあ~~。いい、あんたの妹役だったのはあたし」
「うん??? 妹役???」
「そう、リンリンはあたし!」
「いやいや、オレの知っているリンリンは黒髪だったぞ。そんなエロギャルじゃない」
「髪は染めているのよ。あと、誰がエロギャルだぁ!」
「…………え? じゃあ、おまえが本物のリンリン???」
「さっきから、そう言っているでしょう」
オレはギャル和泉さんに顔を近づけ、彼女の瞳をのぞき込む。
「なっ! か、かかか、顔が近い!」
じりじりと後ずさりしようとギャル和泉さん。
オレはそんな彼女の肩を掴み、逃がさないようにする。
「……確かに、このつり目……オレの知っているリンリンと酷似する」
「だから、リンリンだって! ほら、この胸のホクロ、見覚えあるでしょう!」
そう言って、ギャル和泉さんは胸元を開きオレに見せてきた。
確かに、白い大きな谷間に小さな黒いホクロがぽつんとあった。
「あんた、あたしのこのホクロを『スイッチだぁ!」とか言ってよく押してきてたの覚えてない?」
「……確かに、よくしていた気がする」
我ながら、なんてアホなことをしていたんだ。
「納得した」
「まあ、面影がまったくないけど、ギャル和泉さんが、あの……リンリンだと認める」
「面影ないのはお互い様よ」
「えっと、なら、あの妊婦さんは……」
「当然、あたしの母親よ。何回か会っているでしょう、お兄ちゃん」
通りで、妊婦の
そうだ、いつもリンリンと収録先に来ていた人だ。
これで合点がいった。どうして、ギャル和泉さんがオレを『お兄ちゃん』と呼ぶのか、ようやく理解できた。
確かに、オレとリンリンと朱音はドラマの中で兄妹役だった。
お兄ちゃんってのはそういう意味か……。
「というか、えらく早いわね。あんたどこに住んでいるの?」
「徒歩で三秒のお隣」
「へぇー、そうなんだ……」
「えっと、朱音の義妹ってこれで全部?」
「あと一人、いる。
二階に居るであろう、最後の妹を呼び出す、ギャル和泉さん。
そして、二つの足音が聞こえ、朱音と見覚えある子が現れた。
「お待たせしま――あっ!」
その子はオレを見て驚いていた。
当然ながら、オレも驚いた。
まさか、この子も朱音の義妹だったとは……。
翼と呼ばれた女の子は――下駄箱で出会った後輩だった。
「なんだ、匠海は翼を知っているのか?」
見つめ合うオレたちをみて不思議そうな顔をする朱音。
「うん。ちょっとね。……これで全員?」
「みんなで、匠海に自己紹介するか」
と、オヤジさんが促す。
すると小さな女の子が、得意げな顔でビシッと手を上げる。
「はい! い――じゃなくて、
だそうだ。
昨日、部屋に聞こえてきた小さな女の子の声はこの子だな。
しかし、この幼女、本当にリンリンの小さい時に瓜二つだな。
そして、オレはうらやまけしからスタイルの後輩を見つめる。
「えっと、三女の
ぺこりと丁寧に頭を下げられた。
朱音めぇ、こんなかわいい子が義妹になるなんて、めちゃくちゃ、うらやましいぞ。
「次女の
ギャル和泉さんはぶつぶつと文句を口にしていた。
……このギャルが本当にあのリンリンなら、朱音との相性は最悪だろうな。
そして、朱音は腰に手を当てながら、オレを見つめ、
「長女の、一番姉の――和泉朱音だ! 匠海、一人っ子だったのに、たくさん妹ができたぞ」
本当にたくさん妹ができたな。あと、隣のギャル和泉さんが、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしているぞ。
まあ、なんだ……朱音さんよ、――お前はラノベの主人公か!
そんなことを心の中で思うオレだった。
隣の和泉さんと結婚するまでのお話!それで、お兄ちゃんは幼なじみと義妹どっちと結婚するの!? ニャンコの穴 @tetuwan0427
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