第13話 リリエリS級冒険者計画②



「あの、本当にうまくいくんですか? 簡単な依頼じゃないのはわかりますけど、言ってしまえば既知の洞窟に転移石を設置するだけ、ですよね。考えてくれたことはとても嬉しいですが、S級になれるかというと、難しいように思えます」

「リリエリがそう思うのも無理はないよ。でも僕の計画には続きがあるんだ。……転移石が設置できないのって、なんでだと思う?」

「洞窟であれば、魔力を遮断したり撹乱する鉱石が存在しているから、でしょうか」

「十中八九そうだろうね。そのあたりはリリエリの方が詳しいから割愛するけど、得てしてそういう素材は価値が高いとされている。量が量なら、十分国益と言えるはずだ」


 前人未到箇所への転移石の設置。

 転移阻害の原因となっている素材の発見、可能ならば採取。


「この二軸で、リリエリをS級冒険者に押し上げる」


 無茶苦茶だ、とリリエリは思った。自分がS級冒険者になれるだなんて、端から思っていない。……でも、マドの言葉はあまりに魅力的だった。もしかしたら本当に、なんて夢を見てしまうような力があった。


「ヨシュア=デスサイズというピースが揃っている今、これが僕の考えうる中で最良の作戦だ。

 ……ただし、洞窟の奥がどうなっているのかはわからない。価値の高い素材があるかも賭けだ。当然道中にだって魔物がわんさかいるだろうね。最悪、死ぬことだって」


 先程まで冷静に話を進めていたマドの表情が不意に曇った。彼女の言葉が脅しでも誇張でもないことを、リリエリは痛いほど理解した。

 死ぬこともある。……当然だ。冒険者とは、そういう生き物だから。


「僕は、僕の考えでリリエリを傷つけたくないよ。でもそれ以上にリリエリの夢を叶えたい。……君の気持ちを聞かせてよ。僕はそれを、肯定する」

「私の気持ち……」


 冒険者でいたい? 父親の背を追い続けたい? 祖母へ仕送りを続けたい?


 リリエリは自分の手のひらを見つめた。ちっぽけな手のひらだ。武器や採取道具を握るうちに固くなった自分の手。

 もし『断ち月』が解散し、冒険者でいられなくなった自分はどうなるのだろう。例えばフライパンを握って街の人々に料理を振る舞っているのかもしれない。宿屋の手伝いとして洗濯や裁縫に精を出しているかもしれない。

 リリエリは、月日の中で柔かくなっていく自分の手のひらを考えた。料理人も宿屋手伝いも、誰かを笑顔にできる立派な仕事だ。


 でも……きっと、それは、自分じゃない。


「私は、自分に誇れる自分でいたいです。足が動かせなくても、戦えなくても、諦めたくない。まだ、まだ冒険者でいたい。

 ……危険なのは承知です。私に、挑戦させてください」


 リリエリはぎゅっと自分の両手を固く握りしめた。傷や豆で固くなった手のひらは、きっと父親の手に似ている。


「そもそもこうなったのはオレのせいだ。アンタの身の安全は、オレの命にかけて約束する」

「僕は『断ち月』のメンバーじゃないから同行はできないけど、……その代わり、出来る限りのサポートはするよ」

「……決まり、ですね」


 合図などはなかったが、自然と三人は目を合わせた。頷く者、笑顔を見せる者、特に反応はしない者。三者三様だったが、考えていることは同じであると、誰もがわかっていた。


「『断ち月』ヨシュアおよびリリエリは、"エリダの枢石窟"の依頼を受注する。

 目標は最下層到達、転移結晶の設置。そして高価な素材の発見と採取だ」

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