最終話(第20話)ユルラルドの呪い


 コレットの叫び声に、僕は直ぐに防御魔法と身体強化をし、グレースの攻撃を防いだ。


「やるじゃない!」


 すかさず繰り広げられる攻撃。だが、僕は見逃さなかった。グレースは、さっきの攻撃でかなりの魔力を使ったのだ。その証拠に、グレースは息を切らしはじめた。

 僕は攻撃の手を緩める事なく声を張った。


「お前達の目的は何だ! 何のために、この国の魔女達に手を出す! 何の目的で民を傷付ける!」


 この事件は、西の地区だけの話しでは無かったのだ。

 僕は南の魔女ダラーシアンと北の魔女ナリシアとも連絡を取り合っていた。すると、二人の地区でも、同様の不可解な事件が立て続けに起きていたのだ。その調査を、僕とレオンは秘密裏に行っていた。

 この事件は、魔力持ちや魔女に対して、貶める為の行為であると、気が付いたから。


 ここへ来る際、オルガルドさんにも問い詰めた。コレットに危害があったのだ。協力なんて言って、様子見する必要も無くなったからだ。


 すると、オルガルドさんは、このグレースという女に色々と吹き込まれていた事が分かった。


「クラーク伯爵は魔女達を貶め、この国を乗っ取ろうとしてます。伯爵は、東の魔女の意志を強く受け継いでいる。あの東の地区で起きた竜巻も、実はクラーク伯爵が関わっていると……」


 その話を聞いたオルガルドさんは、アッサリと信じ切った。恐らく、催眠術も使われていたのだろうが。竜巻の事故では、オルガルドさんの恋人も亡くなったという。

 それもあって、グレースに協力をしてしまったのだと。



 グレースは僅かに片方の口角だけ持ち上げ、怒鳴る。


「この国は、まさに今が狙い目なんだよ! どうせ、お前達ガブレリア王国だってそうだろ!?  民の多くは、魔力持ちを恨み憎んでいる。例えば、コナー爺さんの釘さ。恨みが強く伝導できて役に立ったよ。その恨み辛みが大きな力を持って、国の廃滅に追いやる。そこを我々がしてやるのさ」

「救済だと!? こんな事をしておきながら、何をふざけた事を!」


 怒りを込め魔術を放つ。グレースは避けるだけで精一杯なのか、逃げながら言った。


「この国は魔石の宝庫だ。お前にも分かっているだろ?! 魔力の無い人間ばかりの馬鹿共が暮らしていたって、何の価値もない」

「それと魔女達へ手を出す事に、何の意味がある!」

「簡単なこと。さっきも言ったろ? 魔力の無い人間だって、集まれば大きな力になると。魔力の無い人間共に、魔女狩りをさせる! 魔女が居ない方が……侵略しやすい、だろ?!」


 最後の叫び声と同時に、グレースはいつの間か莫大な魔力を含んだ雲を生み出していた。


 これが発動したら、この土地一帯が吹き飛ぶと察した僕は、最大限の魔力を剣に込めた。


 その時だった。


 天上から稲光が落ちて、大きな地響きが広がる。


「レオン!!」




 上空でアレックスの魔力を感じ、速度を上げ向かう。そこで目に入って来たのは、黒魔術で覆われた乗合馬車の整備場だった。


『アル!!』


 声と同時に、俺は雷を落とす。


 俺の魔術に気が付いた相手が、素早く放った魔術が上空で交わる。


『アル! 避けろ!!』


 交わった術が変化した。落ちていく禍々しくも鋭い矢が降る。

 アレックスがコレット達の居る場所に防御を放ったが、矢の雨はアレックスの腕を掠めた。


「クッ!!」


 煙っていた地上が見えだす。

 アレックスと対峙した人物は、商会に居たあの受付の女だった。

 女は俺を見上げ、ニヤリと笑った。


「神獣様が来ちゃぁ、こっちは部が悪い。しかし、騎士殿の腕に爪痕を残せたからねぇ。良しとしようか。おっと! 危ない、危ない……」


 俺が放つ魔術を避け、女は何か短く呟く。それと同時に、女の体が消え出した。


「今日は、ここまで。また会おうじゃないか【菫青石の宝珠】殿」

「待て!!」


 アレックスが剣を薙いだが、その閃光は女には届かず消えた。


『アル!!』


 俺は急いで地上に降りると、コレットが結界から飛び出してアレックスに駆け寄る。


 アレックスは右腕を押さえ、膝を付いた。


「直ぐに治療を!」


 コレットが治癒魔法を使おうとしたのを、俺は急いで止めた。


『コレット! ダメだ!』


 神獣姿ではコレットには声が届かない。だが、神獣の雄叫びにコレットは動きを止めた。


『コレット様! 治療しないでとレオン様が言ってます!』

「どうして!」


 アレックスの騎士服が破けたそこから、禍々しい魔力を感じる。

 下手に手を出せば、どうなるかわからない。


『アルの傷は、ただの傷じゃない。コレット、落ち着いてよく見てみろ!』


 サーシャが俺の言葉をコレットに伝えるが、俺はもどかしくなって森の奥へ飛び立った。


 アリスが新しく考えた術は、今日ほど便利だと思った事はない。

 以前までなら、アレックスとの契約上、自由に姿を変える事は出来なかった。

 だが、今はアリスの編み出した術のお陰で、俺自身の意思で、神獣にも人間にも姿を変えられる。その代わり、アレックスの力無しで行うせいか、結構な量の魔力を消費する。

 後で、魔力たっぷりの果物をもらわないとなと考えながら、俺は急いでアレックスの元へ走った。

 突然現れた人間の姿の俺に、伯爵とオルガルドさんが一瞬、驚いた顔をして見ていたが、二人はひたすら戸惑って動けないでいた。


「レオン様!」

「コレット! その傷に治癒魔法は効かない。触ってはダメだ」


 腕を押さえ小さく呻くアレックスの隣に、俺は膝をついて座る。


「アレックス、聞こえるか?」

「……ああ」

「ちょっと触るぞ」


 そう言ってアレックスの手を退かし、傷に手を当てる。


 やっぱり……。


「レオン様……」


 心配気に声を掛けてくるコレットに顔を向ける。


「思った通り、これは呪いの類だ」

「呪い!?」

「ああ。ユルラルドの古代魔法だろう」

「なんの、呪いか分かるか?」


 アレックスが痛みを堪えながら苦しそうに訊く。


「傷口、自分で見れるか?」


 その言葉に、アレックスは一つ頷き腕を見る。


「これは……」


 アレックスの腕の傷口。三箇所の傷に見えるそれは、僅か丸く、黒い。だが、角度によって光っても見えるし、傷というより、何かが刺さっている様にも見える。

 アレックスはそれに触れる。


「ウッ!!」


 低く呻く。痛みで顔を歪ませ、疼くまる。


「逆撫でするな。これは、鱗と同じだ」

「鱗?」


 コレットが訊く。

 それは、神獣である俺にしか分からない気配。

 神として崇められる存在にもなれれば、邪悪な存在ともされる生き物の気配。


 俺の背中は、さっきからその気配で逆立っている。


「ああ。これは、恐らく。いや、間違いなく。ユルラルドに伝わる【竜の呪い】だ」


 俺の言葉に、誰もが声を失った。



番外編

コレットandアレックス編 完結



*********************


この続きは

【菫青石の宝珠と竜の涙】(仮)に繋がります。

公開につきましては、また近況ノートで報告させて頂きます。


ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

引き続き、番外編アリスand団長編、レオンandラファエル編をお楽しみください。

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