第15話 おでかけ
オルガルドはクラーク伯爵の提案に頷き「協力をする」と言った。
「なら、早速だけど。ひとつ教えて貰いたい事があるんだ」
僕がそう言うと、オルガルドは真面目な表情でこちらを見た。
「コナーさんの鍛冶屋に出入りしている商人を知っているか?」
「出入りしている商人?」
「ああ、ユルラルド大国と繋がりがある商人が、出入りしていないか」
ユルラルド大国。
その国の名を聞いて、オルガルドの表情は一瞬硬くなった。そして、恐らく無意識だろう。ふと、胸ポケットにそっと手で触れ、すぐにその手を下ろす。
「ユルラルド大国は、今、どこの国とも交流を閉ざしているのでは? それであるなら、商人の出入りも無いと思うが……。俺は、毎日巡視でコナー爺さんの所は行っているが、そういう話を聞いたことはない」
「そうか。ありがとう」
「とりあえず、俺は今からコナー爺の所へ行ってみるが……」
「あ。それなら、俺が行きますよ」
オルガルドの言葉を遮る様に、レオンが発した。チラリと横目で見ると、人の良さそうな笑顔をオルガルドに向けている。
「俺、年配者と打ち解けるの得意なんで。良かったら、俺に様子見に行かせてもらえないですか?」
「いや……それは……」
「僕は出来れば、オルガルドさんともう少し話がしたいです。コナーさんの様子を見に行くだけであれば、彼は適任だと思いますよ。実際、彼は初めて会うお年寄りにもよく好かれるので。心配は無用かと」
「……じゃあ、とりあえずは……」
少々強引ではあったが、オルガルドが渋々頷くと、レオンは「じゃあ、早速様子を見てくる」と言って鍛冶屋の方面へと小走りで向かった。
*
「今日は、この間より、なかなかの警戒心剥き出しだったよ。コナー爺さんから伯爵を嫌う本当の理由は聞き出せなかった」
「そうか」
コレットの家に帰る道すがら、僕とレオンは別行動後の情報を共有する。
鍵が閉められた鍛冶屋の入り口は、ガラス製の扉だ。中を覗き込むと、コナーさんと目が合ったレオンは、鍛冶屋へ行く道すが串焼きの肉や菓子を買って行ったようで、両手いっぱいのそれらを見せ警戒心をほぐし、鍵を開けてもらった様だ。
コナーさんと肉やら菓子やらを食べながら、何気ない世間話をして、鍛冶屋の仕事の様子を見せてもらった様だった。鉄に何か細工するなど、怪しい動きや怪しい物は一切無かったとレオンは言った。
ただ、そこまで心を緩められていても、伯爵の名前を出せば、今度こそ二度話は出来ない様に感じたらしく、今日は引き下がった様だった。
「そっちはどうだった?」
レオンが訊く。
僕は「ああ……」と前を向いたまま少し歩調を緩め、オルガルドから引き出した情報をレオンに聴かせた。
◇
『コレット様ぁ?』
「なぁに? サーシャ」
『アレックス様たち、いつ帰って来ますかねぇ……』
朝食を食べて出て行ったきり、帰って来ない。もう少ししたら、お昼も過ぎておやつの時間だ。
コレット様は風邪薬や腰痛に効く薬を作りながら、チラリと壁時計に目をやった。
「そろそろクッキーを焼いてもいい頃ね」
アレックス様は甘い物が好きだ。コレット様はアレックス様が来ると、必ずクッキーやケーキをたくさん用意する。そんな健気なご主人様に、アタシは前足をペシャペシャとテーブルに叩きつける。
『コレット様っ! なんでそんなに優しいのですかっ! アタシ達、除け者にされてて、なんで怒らないのですかっ! アタシはもうすっかり怒ってますよっ!』
爪を立てた片手をシャッと上げ、猫パンチを喰らわす仕草をすると、コレット様は苦笑いをし少し小首を傾げ考える仕草をする。
アタシはそのままシャッ! シャッ! と素早い動きで両腕を振り回す。
……ちょっと疲れて来たところで、コレット様が椅子からスクッと立ち上がった。
「サーシャ! お出掛けするわよ!」
『……おでかけ?』
「そう! 私達は私達でアレックス様達とは別に調べるのよ!」
その言葉を聞いて、アタシは『そう来なくっちゃ!』と、ピョンとテーブルの上で飛び跳ねのだった。
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