第146話 収束(エバンズ団長side→リカルド皇太子side→エドワードside)
ルベイの町---
視界が僅かに明るくなった様に感じ、上空に目を向けた。ヒューバートさんが神獣様と空を駆ける。その先から、雲が徐々に散らばりだす。
もう少し、あと少し……。
分厚い雲の一部が薄くなり、光芒が差し込む。
町を見ると、敵が怯み出し、影のある場所へ逃げようとする姿が見える。
あと一息!
そう心の中で強く願うと、ヒューバートさんが放った魔法が一気に雲を押しやった。
俺は火魔法を使って合図の花火を飛ばす。
赤と黄色の火魔法がパンパンと音を立てて爆ぜる。
すかさず俺は、地面に手を当てた。
地魔法・禁足
狙いを定めた場所の地面が割れる。「人ならざる者」共は、その割れ目に足を取られ、そこから抜け出そうとするが、続けて地魔法で地固めを発動すると、上手い具合に嵌った。
きっと、フィンレイ騎士団の仲間であれば、さっき俺が上げた合図の意味がわかっただろう。赤は「捕えろ」、黄色は「標的」を意味する。何を標的とするか事前に話し合っていない時は、その物の瞳の色を示す。上手くやっていれば、それぞれが得意とする魔法で「人ならざる者」を捕らえている筈だ。
空を見上げると、雲がどんどん千切れるようにバラバラに散らばり、陽の光が溢れ出す。
「さすが、ヒューバートさん!」
ニヤリと口角を上げる。
『ア……アァ……!!!』
耳元で叫ばれているかの様な大きな叫び声が、そこかしこから響き渡る。鼓膜がいたみ、思わず目を強く閉じ耳を塞いだ。が、それでも耳の奥に響く声は、胸の奥が引き裂かれる様な悲痛な叫びにも聞こえた。
その中に、不思議な声が混ざって聞こえた。
---さぁ、もう終わりにしよう……。すまなかったね、ありがとう……。一緒に行こう---
その声が聞こえた途端、叫び声がフッと消えた。
片目を開ける。驚き立ち上がり、辺りを見回す。
人ならざる者は、跡形もなく消え去っていた。
その様子に、バイルンゼル帝国軍までもが、唖然と立ち止まって空を見上げていたのだった---
***
闇に覆われていた空が、青空に変わって行く。
エバンズ殿の合図にロブ殿達が反応し、急に走り出した。そして、一斉に魔法が放たれ【地底に棲む者】達が、捕らえられた。だが、その直後、不思議な声が脳内に響いた。その声は、私だけではなく、全ての騎士、兵士にも聞こえたようで、戸惑いの表情が見て取れた。
【地底に棲む者】達は、その声に導かれる様に消えていくと、バイルンゼル帝国軍の兵士達は何故か呆然と突っ立ったまま、動かなくなった。
一体、何が何なのか。
私はすかさず、ベルナルド率いる帝国軍を抑えるよう、反乱軍の仲間の兵士に指示をした。
私は、氷漬けになっている弟であるベルナルドの前に向かった。
カーター副団長は、ベルナルドを殺す事は無かった。その代わり……。
「無理に、この氷を破壊しようと魔術を使えば自爆しますよ? 脅しではなく本当です。 この腹の位置にある赤い光。これは火魔法ですが、爆破するものです。 まぁ、信じられ無いのであれば、それも良いでしょう。自害したければお止めしませんが、警告はしましたよ? そうそう、帝国軍の皆さんも。無理矢理、この隊長殿を救出しようものなら、当然、ご自身も死の覚悟を……」
そう言って氷の様な冷たくも美しい笑みを浮かべると、帝国軍に向かって魔術を次々と放った。だが、その全ては致命傷に至らないもの。とはいえ、その場に倒れ、誰一人と動けなくなったのだった。
その様子を見て、私は「例え我が国が魔法も持っていたとて、この国を敵にする事程、愚かなことはない」と心底思った。
「ベルナルド」
ベルナルドは、私の顔を鋭く睨み付ける。
「もう、バイルンゼル帝国の負けだ。それを認め、受け入れろ」
「……」
「地底に棲む者達も、消え去った。お前達は、彼奴らに操られていたんだ。私は、そう思っている」
ベルナルドは私を睨み付けていた瞳を真っ赤に染め、口を一文字にし震わせる。
グッと目を閉じると、一筋の涙が零れた。
***
北の砦---
急に、外の声が聞こえなくなった。
私は嫌な予感がし、落ち着かなくなる。念のため、会議室に再度、結界を施そうとした。
「待ってください!」と、聴き覚えのない女の声が聞こえてきた。
私は壊れた入り口の前に立ち、前を見据える。
すると、箒に乗った赤髪の少女が会議室に向かって飛んでくるではないか。私が急いで魔術を発動しようと構えると、少女は叫んだ。
「待って! 私は味方です!!」
少女の言葉に、戸惑って思わず動きを止めてしまった。もし、彼女が言葉通り味方ではなく、罠で敵であったなら、私は何とも間抜けで愚かな死に方をする所であった。
だが、彼女は言葉通り、味方であった。
彼女は会議室より、少し離れた場所で箒から降りると「ヒューバート様から、お手伝いする様にと」と、まさかの父上の名を言った。
その言葉を信じて彼女を会議室へ入れ、手短に話を聞いた。
彼女はバイルンゼル帝国の西の魔女であったが、フェリズ山脈で出会った父上達と共に助っ人に来たのだと言った。肝心の父上はエバンズと共にルベイの町へ向かったが、北の砦の上空を飛んでいる時に、神獣様が私の魔力に気が付いたそうだ。下を見れば、帝国軍が攻め入っており、南の魔女と共に止めに入ったのだという。
どの様に止めたのか……そこが気になる所ではあるが、だから急に外の怒涛の声が聞こえなくなったのだと理解した。
「私は、治癒魔法が得意なので、お手伝いさせてください」
「ありがとう。さすがに一人では厳しかったのだ。助かる」
不思議と何故か少女を信じられて、あっさり受け入れてしまった。
危機管理能力が欠落してしまったのだろうかと、自身で思うほどだ。
だが、彼女の言葉には嘘はなく、ガブレリア王国の騎士達を、治療し始めたのだった。
「エドワード」
振り向くと、そこにはサミュエル団長の姿があった。
「サミュエル団長! もう王都は大丈夫なのですか!?」
私が驚き駆け寄ると、サミュエル団長は「ほほほ」と小さく笑い、「もう大丈夫じゃ」と頷いた。
ふと、転移陣は壊れているのに、どうやって来たのかと思い、そのままを口にする。
「サミュエル団長、どの様にしてここへ?」
「国王陛下が手を貸してくれてな。……転移陣を復元し、それで来たのだ」
「転移陣を、復元、ですと!?」
転移陣を直すのも、再度作るのも、途轍もない量の魔力を使う。一人で出来る事でもなく、一日、二日で出来るような物でも無いのだ。
それをたった一人で!! しかも半日で!!
私は呆然とし、背の低いサミュエル団長を見下ろした。
「さぁ、この者達を王都へ連れ帰るぞ。亡くなった者は、家族の元へ。エドワード、手伝え」
「は……はい……」
魔法陣の復元について聞こうとしたのを遮られた気がするが、今はそれどころではない。
私はサミュエル団長、西の魔女殿と共に、彼等を治療し、移動させていったのだった。
ちなみに、私が国王陛下や殿下達が行っている自然魔力の調整について知るのは、あと数年先の未来のことだ。その時、初めて魔法陣が半日で復元出来た理由を知る事となるのだった。
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