第145話 中和魔法(アレックスside→アリスside)
『レオン、僕が呼んだらすぐに来れる様に準備しておいてくれ』
『ヤバそうなのか?』
『黒魔術を得意としていると言っていた。魔力を封じられる可能性がある』
『なら、今すぐ行く』
『待て。まだだ。まだ、アリスの側に居てくれ』
レオンと念話をしつつ僕が次々と放つ術を、次どう来るか分かっているかの様に、男は容易に避けていく。
これでは埒があかないと、僕は魔力をギリギリまで剣に込め放とうとした。
が……。
「クッ……!!」
僕の足回りには、いつかダリアが魔力封じに使った赤黒い石がぐるりと囲んでいた。
やはり、そう来たか!
逃げながら僕を誘導していたのかと、奥歯を噛み締める。
「坊ちゃん育ちは単純で楽だよ……。なぁ? どうだ? その瞳、オレ達にくれてくれよ。哀れで可哀想なオレ達の為によぉ……」
男は笑いが止まらないかの様に、ニヤニヤとしながら僕の周りをゆっくりと歩く。
---レオン、来い---
心の中で強く呼ぶ。
男は何処からともなく、短剣のような物を現した---
***
「アル……!!!」
「アリス嬢!!」
アレックスの気配が変わった気がした。
それと同時にレオンがすぐさま駆け出し、アレックスの元へ向かう。
私も動かない身体をどうにか動かし、立ち上がろうとしたが……。
「アリス嬢! まだ其方は動いてはダメだ!!」
「離して、ください! アルを……助けなきゃ!!」
「今の其方が、そんな身体で行ってどうなる! 反対に足手纏いになるだけだ!」
ナリシアさんの言葉は、その通りだ。それでも、アレックスが危険だと分かっていて動けない事が、途轍もなく悔しくて、気が付けば私は涙を流していた。
『泣くな、ルイスの子よ……』
レオンやアレックスとは違う声が、頭の中に響く。
私は驚いて頭を左右に振り、その声の主を探す。すると、目の前に小さな旋風が起きた。
「父上!! 起きて大丈夫なのですか!?」
ナリシアさんが焦った様に、旋風の中に現れた透き通った美しい男の人に駆け寄る。
『ナリシア……大丈夫だ』と、ナリシアさんにそっと手を伸ばす。
ナリシアさんがその手を取って、私の元へ連れて来る。半透明なその人は、私の前に屈み、そっと私の頬に触れた。ひんやりとしたその手を、何故か懐かしく思う。
「氷の、精霊様……」
私の囁くような声に、そっと微笑む。
『懐かしい気配を感じたから、会ってみたくなったのだ……。見目は男の方がルイスに良く似ているが、魔力の気配は其方の方がルイスに似ている……。兄弟を、助けたいのだな?』
その質問に、私はコクリと頷く。
すると、氷の精霊様は私に顔を近づけ、額に口付けをした。
身体の内側から、魔力が湧き上がる感覚……。
『我々精霊は、人間の争い事に関与出来ない。だが、ほんの少しだけ、力を貸す事は出来る。其方に精霊の加護を与えよう。だが、この力は精霊達の力を借りるものだ。其方の身体が元気になった訳ではない。くれぐれも無茶をするでないぞ? さぁ……行っておいで……』
私は半透明の氷の精霊様の首元に腕を回し、抱きつく様な仕草をした。
「ありがとう、ございます」
『ああ……』
私は氷の精霊様から身体を離し、ナリシアに振り向く。
「ギデオンさんとアルの魔眼を、よろしくお願いします」
「ああ、分かっている。アリス嬢、気を付けられよ」
「はい!」
私は足に力を入れて立ち上がる。
大丈夫、いつも通りに動けるわ。
先程まで、あんなに重たかった身体の感覚に問題はない。
私は、アレックスの元へ駆け出した。
「レオン!!」
『アリス!! 近寄ってはダメだ!!』
レオンがまるで金縛にでもあったかの様に、動きが固まっている。
私はレオンの指示通り立ち止まり、レオンの足元を見た。赤黒く光る何かが、前足に掛けられている。足枷?
『赤黒く光る石に近寄るな。これは魔力封じの石だ!』
「わかったわ」
ガキンッ!! と、剣同士がぶつかる様な音に振り向く。
少し離れた場所で、アレックスが何者かと戦っているのが見て取れた。アレックスの足元にも赤黒く光る石があった。
まずはレオンを動ける様にしなくては、と思った私は、まだ今まで一度も試した事のない中和魔法をやってみることにした。
「レオン、失敗したらごめんね」
『ちょっ! 何するんだ! アリス!!』
中和魔法・解除
レオンの足に掛かって赤黒く光る足枷らしきものが、カタリと音を立てて外れる。
『よくやった!』
「ありがとう!」
私とレオンは急いでアレックスの元へ駆け出した。その瞳に飛び込んで来た風景に、私は大声を上げていた。
「アレックス!!!!」
そこからは、何もかもがゆっくりに見えた。
得体の知れない男の手が、アレックスの左眼に伸びていく。アレックスが後ろに退がるが、長い爪が顔を掠める。
レオンが駆け寄り、男を咥えて投げ捨てた。
私は急いで、アレックスの周りにある赤黒く光る石に向かい中和魔法を放つ。
動ける様になったアレックスが、剣に魔力を込め男に向かって放った。光を纏ったそれは、倒れ起き上がろうとした男に確実に当たる。すかさず、私は光魔法を繰り出した。
空間全体を白い光が覆う。
男は叫びながら、両腕で頭を抱え蹲る。その身体は、ハラハラと瓦礫が風に崩れる様に崩れ消えて逝く。
身体が消えると、男の悲痛な叫びだけが残り、氷の間に響き渡ったのだった。
私は急いでアレックスに駆け寄った。
「アル!!」
「……アリス!!」
私はアルを抱きしめた。お互い強く抱きしめ合い、そっと身体を離す。
アレックスの左眼瞼に、先程掠めた男の爪痕が残り、血が滲んでいる。
私は急いでアレックスに治癒魔法を掛けようとしたが、それは叶わなかった。
私はそのまま、再び意識を手放してしまったから……。
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