第143話 守る者達(アレックスside→エバンズ団長side→エドワードside)
「ナリシア! ちょっと待ってくれ!」
杖を構えたナリシアを急いで止める。僅かに驚いた様に目を開き僕を見たナリシアに、僕は顎で外を示す。
ナリシアは鋭い視線を出入り口に向け、小さく顎を引く。僕は声を落とす。
「僕が行く。ナリシアはギデオンさんとアリスを頼む」
「一人で大丈夫か?」
「いざとなったら、レオンを呼ぶ」
「わかった。ここは私に任せろ」
「ありがとう」
僕はレオン脇へ向かい、立髪を軽く撫でる。
『本当に一人で大丈夫か?』
恐らく、僕の魔力量を心配しているのだろう。先程、コレットに魔力を分けてもらったとは言え、完全に回復しているわけでは無い。それでも、僕が行かなくては。
「レオンは、ナリシアとアリスを頼む」
『……無理だと思ったら、すぐに呼べよ』
「ああ、もちろん」
その言葉を最後に、僕は【氷の間】の入り口にいるであろう敵の元へ、ゆっくりと向かった。
♢♢♢
---ガブレリア王国
ヒューバートさんと共に神獣様の背中に乗って、ガブレリア王国方面へ向かうと、突然、空の色が真っ二つに分かれていた。
バイルンゼル帝国側からガブレリア王国へ向かって、黒とも灰色ともいえない色の雲が、渦を巻く様に押し寄せ流れてくる。
それを堰き止める様に、王都の上空の空は真っ青な色だ。初めて見る異様な空の様子に、俺の身体はゾワリと大きく震えた。
「怖いか」
前に乗るヒューバートさんが言う。俺の震えが伝わったのだろう。
「いいえ。武者震いですよ」
そう答えると、フッと短く笑う声が聞こえた。
「あの雲の下には、人ならざる者達がいる。八百年前に疫病を流行らせた生き物だ。額に小さな突起が二つ。真っ黒く縮れた髪に黄色の瞳、絵の具で塗りたくった様に白い肌をした人の形をした生き物だ。奴等は日の光に弱い。あの空の雲を晴らせば、勝利はある」
「雲を晴らす……」
俺は、日の光が入らない分厚い雲を睨み付け頭の中で雲を晴らす方法を考えた。
「風魔法が、一番だな」
「風魔法……。確かに、それが一番ですが、あんな雲を晴らす程の風魔法が使える者が居るかどうか……少なくとも、今のフィンレイ騎士団にはアレックスくらいか……」
だが、アレックスは今、この場には居ない。
「ああ、そうだな。だから、私が晴らす」
ヒューバートさんの言葉に、「え?」と思わず聞き返す。
「幸い、私は風の精霊王殿に加護を授けて貰ったのでな」
「……ヒューバートさん……あなた方親子は一体何者なんですか……」
神獣様を親子で従えるとか、精霊王から加護が与えられるとか。もう、この親子は一体何なのだと思わず思ってしまう。
「私が雲を晴らす事に成功する様、祈っていてくれ。晴れたら、一気に片をつける。お前の得意な火魔法でも地魔法でも何でも良い。とにかく、人ならざる者を倒すぞ!」
久々に聞くヒューバートさんの指示。腹の底に響く太い声に、俺はニヤリと口角を上げる。神獣様が一番雲の厚い下へ入り込んだ。町を見下ろす。ルベイの町だ。あちこちで戦いが繰り広げられ、ヒューバートさんが言っていた生き物も町を走り回り、逃げ遅れた平民を襲っているのが見えた。
「エバンズ! 準備はいいか! 行くぞ!」
「承知!」
俺は神獣様の背中から飛び降り、自身に身体強化魔法を掛ける。同時に、身体がフワリと包まれる感覚があり、重力に逆らう様に身体が軽くなる。恐らく、ヒューバートさんが風魔法を俺に掛けたのだろう。地上に降り立つと、すぐ側に居たカーターに声を掛け、簡潔に指示を出す。
俺は上空を見上げ、ヒューバートさんの行方を確認すると、直ぐに目の前の敵と向き合った。
♢♢♢
---北の砦
「何人たりとも砦に入れるな!」
砦の外から怒涛の声が響き渡る。
バイルンゼル帝国軍が攻め入って来てから、どのくらいが経ったか。魔術師団の数人と回復したハルロイド騎士団の騎士達が、戦いに向かった。
私は一人、この砦内に残って治癒魔法を掛け続けていた。
「エドワード……」
呼び声の主に視線を向ける。ザッカーサ団長が起き上がろうと、身体を動かしているのが見え、私は急いで駆け寄って、その身体を支えた。
「団長殿。貴方はまだ動かない方がいい」
「騎士達が戦っているのに、団長である私が、こんな所で寝ている訳にはいかん。頼む、エドワード。回復魔法を強めに掛けてくれないか」
「ザッカーサ団長殿っ!」
「団長である私が、今行かずして、どうする!?」
「そんな身体で向かえば、すぐに敵にやられます!」
「ここで戦わずして生き残っても、後に後悔を引き摺るだけだ。だったら、私は戦う。例えすぐにやられたとしても」
ザッカーサ団長の気持ちが、言葉に乗って痛いほど伝わってきた。団長としての責務。それを、この人は全うしたいのだと。
「……。回復魔法と身体強化魔法を掛けます」
「エドワード……感謝する」
「だが、今の貴方では、そんなに効果は持続しない」
「それでも、無いよりマシだ」
私の顔を覗き込み、ニヤリと笑みを浮かべる。
その顔を見て、私は情け無くも涙が一筋溢れ落ちた。すぐにそれを袖で拭うと、ザッカーサ団長に魔法を掛けた。
「私が出て行ったら、この会議室の入り口に防御魔法を重ね掛けしろ」
「わかりました」
ザッカーサ団長が、力強い足取りで会議室を出ていくのを見守ると、私はすぐに壊れたドアの前へ行き防御魔法を重ね掛けした。
ザッカーサ団長の後ろ姿が見えなくなると、私は深呼吸をし気合いを入れ、騎士達の回復に向かったのだった---。
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