第128話 予感
ルイスとギデオンが口論をした数日後。
ダリアがバイルンゼル帝国へ帰国するとの話がルイスの耳に入って来た。それと同時に、信じ難い話も入って来た。
ギデオンがダリアと共にバイルンゼル帝国へ向かうという噂であった。ルイスはどうにかギデオンを説得しようと話し合いの場を設けたが、ギデオンがそこへ来る事は一度としてなかった。
そして、ダリアが帝国へ帰国する前日。
ギデオンは宮廷魔術師とフィンレイ騎士団を脱退し、ガブレリア王国を去って行った。
その日以来、ルイスは何度も何度も遣る瀬無い気持ちに押し潰されていた。
彼が、やり場のない苛立ちを抱えているのは、誰が見ても一目瞭然であった。
魔獣討伐では魔眼を惜しみ無く使い、ほぼ一人で討伐する無謀な行動が続き、騎士団員からも不安の声が漏れ始めた。
ルイスの行動が落ち着きを取り戻したのは、ギデオンが王国を去ってから半年が経過した辺りからだった。以前の様な
それから更に半年が経過し、ギデオンが去ってから一年が経ったある日。王都の上空を魔獣の群れが飛び交った。
その日を境に、ガブレリア王国全体に魔獣の出現頻度が急速に増え出したのだ。
普段なら出現しない様な土地にも魔獣が現れはじめ、国全体が混乱に
ガブレリア王国全体に何かが起きている。
ルイスは胸騒ぎを覚えた。
この出来事にはギデオンが関わっている。
そんな予感がしてならなかった。
♦︎♦︎♦︎
ギデオンはバイルンゼル帝国へ向かってから、ダリアと愛を深め日々を幸せに暮らしていた。
仕事も帝国軍に所属し、魔力がある者に魔術の扱い方など指導する役を与えられた。
魔女達に会う機会もあり、彼女達には魔獣に有効な結界の魔術を教えるなど、友好な関係を築いていった。
結界は各地に張られ、その効果はすぐに結果として現れ、多くの人々に感謝された。
特に皇族からの信頼は篤かった。
ガブレリア王国のフィンレイ騎士団に所属していたという事もあり、帝国側の信頼度が高く待遇も良く、兵士達とも上手くやっていた。
何不自由なく、幸せな日々。ギデオンの心は、満たされていた。
そんなある日、二人に婚姻を交わす話が持ち上がった。だが、問題があった。ギデオンの家は子爵であり、ダリアには爵位がないのだ。しかも国も違う事から話は進む事なく滞っていた。落ち込むギデオンを見て、ダリアはそっとある提案をした。
「この国では、永遠の愛を誓い合った者には、その証として胸に刻印を残すのよ」
「刻印?」
「そう。お互い胸に想いを刻むの」
ベッドの中。
二人は生まれたての姿で抱き合っていた。
ダリアはそっと上半身を起こすと、ギデオンの胸に指を這わせる。
「それは、どういったものなのだ?」
「焼印の様なものよ。それがあれば、もう私はあなたのものでしか無いし、あなたは私だけのものになる。婚姻より有力な物なのよ」
ギデオンは「焼印……」と呟き、困惑した様に眉間に皺を寄せた。
「大丈夫よ。魔法で入れる印だから、痛くは無いと聞くわ」
「いや……。そうでは無く……。私の胸に印を残すのは構わない。寧ろ、そうしたいくらいだ。だが、ダリアの美しい肌に印を残すのは、どんなに有力だの、慣わしだのと言われても、私は嫌だ。私に刻んであれば十分ではないのか?」
「ええ……。それは大丈夫だと思うわ。ただ、ひとつ……」
ダリアは僅かに顔を逸らし、長い睫毛を下ろす。
「なんだ? 気になる事があるなら、些細なことでも教えて欲しい」
ギデオンは身体を起こし、逸らされた頬に手を当て、ダリアの顔を覗き込む。ダリアはそっと瞳をギデオンに向ける。とても切ない、悲しげな表情に、ギデオンは眉間の皺を深くし、言葉を待った。
「あなたに刻印するという事は、あなたはもう二度とガブレリア王国へは帰れなくなるの……」
その言葉に、ギデオンは一拍間を置き、ははっと声を上げ笑った。
「なんだ。そんな事か。気にすることはない。私はダリアと離れる気は無い。ダリアを一生幸せにすると決めたのだ。ダリアは、この土地で【東の魔女】としてやるべき事がある。私は、あなたと共に生きていけるのならば、どんな場所であっても構わない」
「ギデオン……。あなたはなんて優しい人なの。愛しているわ、心から……」
二人は深く口付けを交わし、愛を確かめ合った。
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