第127話 決別
その日は天気も良く、邸の庭で細やかな誕生日会を行う事になっていた。
主役のクリストファーは既に庭に居るというので、ギデオンはダリアを伴って庭へ向かった。使用人によって綺麗に飾り付けられた庭。その四阿に、彼はいた。
ギデオンに気が付いたクリストファーは、満面の笑顔で走り寄ろうとしたが、ダリアの存在に気が付き、途中で立ち止まった。
「クリス、お誕生日おめでとう」
ギデオンはその場でしゃがみ、両手を広げてクリストファーを受け止めようとしたが、クリストファーは僅かに眉間に皺を寄せ、ダリアを見つめている。
ダリアは隙のない美しい笑顔で、クリストファーに「こんにちは、クリストファー。私はダリアよ。宜しくね?」と語りかける様に言ったが、クリストファーの顔は更に不機嫌さを増した。
困惑したギデオンは、立ち上がってクリストファーに近づいたが、クリストファーは後ろへ下がった。一歩近くと一歩退がる。
「クリス? いったいどうしたの?」
戸惑いながら訊ねた時、ルイスが大きなプレゼントを持ってやって来た。
直ぐに三人の様子がおかしい事に気が付くと、ギデオンの元へ近寄ってきた。
「どうしたんだい? 何があった?」
ギデオンは困惑した顔でルイスを見遣ると、首を左右に振ってみせ、ルイスはクリストファーへ顔を向け「どうした?」と優しい声色で訊ねる。
クリストファーに近づきプレゼントを芝生の上に置く。跪きクリストファーの栗色の髪を撫でるが、不機嫌顔のまま何も言わないクリストファーにルイスも困惑しつつ抱き上げた。
「何か嫌なことがあったのか? どうした。今日はお前の誕生日じゃないか。これから美味しいもの食べて、皆で遊ぶのだろう? 機嫌を直しておくれ」
ルイスは優しく語りかける。
「どうやら、私は嫌われている様ですわね……。ごめんなさい、前触れも無く来た私が悪いのですわ」
ダリアが困った表情で微笑みながら言うと、ギデオンは慌てて「そんな!」とダリアを振り向き、その手を取る。
「私、先に帰りますわ……。ギデオン様は、皆様と過ごして下さいませね?」
ギデオンの手をそっと解くと、ダリアは悲しげな笑みを浮かべ「ごめんなさいね?」とクリストファーに言った。
ルイスに抱かれたクリストファーは、口を一文字にし眉間に皺を寄せたまま、ダリアから顔を背けてルイスの首に抱きつき何も答えない。
ダリアは少し俯き、来た道を引き返した。ギデオンはその手を掴もうと振り向き様、目の端に光を見た様な気がした。
ルイスの瞳に金銀色の光が宿っているのを。
いったい何故……。
ギデオンは自分も今日はもう帰ると告げ、ダリアの後を追った。
それから数日後、ルイスとギデオンが王宮内の裏庭で口論をしているのを、多くの人が目撃した。普段、声を荒げる事の無い二人が大声で言い合いをしているのはとても目立ち、二人が仲違いをしたと面白おかしく噂をしたのだった。
クリストファーは、ダリアが纏う空気を嫌った。それに気が付いたルイスは魔眼でダリアを見遣ると、ダリアは何重にも魔術を自身にかけているのを見て取った。
何を隠しているのか。
厳重に纏った魔術は巧妙で、ルイスでさえ魔眼を使わなければ気付かなかったのだ。ギデオンですら気が付かないとなると、相当な魔力を持った者でないと気が付かない。
クリストファーが気が付いたのは、純真無垢が故にその気配を感じ取ったのだとルイスは結論付けた。そして、その事を急いでギデオンに伝えたが、その思いは届く事はなかった。
「彼女は何かを隠している。それも、良からぬ何かを。彼女には気を付けろ。君の知識と力を狙っているのかも知れない」
ルイスがギデオンに伝えたその言葉は、ルイスに対して強く信頼を寄せていたギデオンには信じ難く、初めて愛する人を見つけたギデオンは聞く耳を持たなかった。そんな彼に、ルイスは「今の君は、まやかしの恋に恋しているだけだ! 目を覚ませ!」と怒鳴った。
それは、ギデオンがルイスに失望するには充分な言葉だった。
それから数日後。
ギデオンはルイスの前から……ガブレリア王国から去った。
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